13. あなたは人形さん
「わたくし、小さくなって……。嫌ですの!」
麟子さんの体は女の子と同じくらい……つまり5分の1サイズまで縮小化して、自分の巨大すぎる服に埋もれてしまった。
女の子は机から跳び降りて麟子さんに近づいてきた。
「これであなたも人形ね」
「やだ! ち、近づくな! あなたは一体……?」
麟子さんは女の子をすごく怖がっている。無理もないよね。私もなんかこの子のこと怖くなってきた。彼女は一体誰なの? 一応私たちの味方のようだから大丈夫だと思うけど。
「こんなサイズになったらもう全然威力がなくなったよね」
「あなたもまだこのサイズじゃありませんの」
「そうね。じゃ、もうそろそろ戻ろうか」
「な、何をするつもりですの? まさか……」
女の子は自分の左手の中指を舐めた。まさかまた何かの薬なのか……と思ったら、彼女の身体がどんどん巨大化していく。やっぱりこれは体を元のサイズに戻す薬?
体が突然大きくなった所為で、女の子の着ていた服は破れて全裸になってしまった。人間サイズに戻った女の子を、麟子さんは怖がりながら見つめていた。
「服、なくなっちゃった。恥ずかしい……。仕方ないか。これを貸してもらうよ」
彼女は麟子さんの着ていた服を拾い上げた。
「嫌! これはわたくしの服ですわ!」
「あなたはもう小さすぎて着られないでしょう」
女の子は無理矢理麟子さんから服を奪い取って、自分で装着した。
「なんでこんなことに……しくしく」
服が奪われた麟子さん腕で自分の体を庇いながら泣いている。こう見るとなんちょっと可哀想かも。
「もう、やっぱりこの服まだ大きすぎるか」
確かに今女の子は元のサイズに戻っているけど、彼女はただの小学生女の子だから、大人の麟子さんの服を着るとこんな風にだぶだぶになるのも無理はない。
「まあ、今この姿だから、仕方がないか。もうそろそろ元に戻ろうか」
そして彼女は左手の薬指を舐めた。また何かの薬か。どれくらい準備しておいたかな、この女の子は? なんか恐ろしい子だ。
でもさっき元に戻るって? まさか……。
そう思っている間に、彼女の身体にまた変化が起きた。身体は更にどんどん大きくなって……でも今回はさっきとは違って、『巨大化』というのではなくただ身体の形が変わって背が伸びて胸が膨らんで……つまり大人になっていくようだ。
「やっぱり、この姿に戻ったら逆にこの服はちょっときついか」
女の子は20年代の大人の女性になった。彼女はなんかスタイルいいし、麟子さんよりも大人で背が高くて胸も大きいから、麟子さんの服ではちょっときついみたいね。
「あなたは……薬を売ってくれたお姉さん……ですの?」
びびって縮こまっている麟子さんは怖がりながら彼女を見上げた。
「やっと、覚えたのね」
「何でここにいますの? それにさっきまでの姿は?」
「見ての通り、ただ薬で若返りしただけよ。そしてさっきその効果を解く薬を飲んだからもう元に戻った」
やっぱりこれは彼女の本来の姿か。通りで……。今まで純粋な女の子のフリをしていたけど、本当は大人だったね。
「だ、騙されちゃいましたわ」
麟子さん、悔しそう。私たちを散々欺いていた彼女は、どうやら今回騙されて罠に嵌る側になったよね。
「しかし、私の薬でこんなすごいことをしているとはね」
女の子は……いや、もう女の子ではなく、お姉さん……はニコニコしながら麟子さんにそう言った。
「あれは、その……、わたくしはただ可愛い女の子が好きで、人形も大好きですの」
「だから女の子を人形にするっていうわけか?」
「は、はい。可愛い女の子は可愛い人形になれますわ」
「ほー、なんかいいアイディアだね。こんな使い方があるとは思っていなかったよ」
「わかっていただけるのですわね? じゃ、わたくしと協力しませんの?」
麟子さんは彼女を説得しようとしている。
「なんか面白そうな話だけど、そんなの駄目よ。この子たちだって帰るべきところがあるし、こんなことしていいと思うの?」
「帰る場所って、彼女たちにはあっても、わたくしには何もないのですわ。両親がいきなり事故で亡くなって親戚もいなくて、一人ぼっちになって……。だからこんな方法で稼ぐしかないですわ」
なんか暗い話だ。なるほど、麟子さんこんな悲しい過去を持っているのね。だから私たちにこんなことを……。
「なるほど、あんたの事情はわかった。ならいい考えがあるの。変える場所のないあなたを、私は助けてあげる」
「本当ですの? どうやって?」
「うん、それはね」
彼女は麟子さんを拾い上げて微笑んだ。
「あなたを人形にしてあげる」
「え!? そ、そんな……」
「あなたも結構可愛い女の子だから、きっとこの子たちには負けないくらい素敵な人形になれるはずよ」
「嫌ですわ!!!」
たくさん女の子を人形にされたのに、自分が人形になるとやっぱり嫌よね。でもこれは彼女の自業自得だよね。
こうやって、事件は解決した。私たち縮められて人形にされた女の子たちは、みんな元のサイズに戻してもらって、自由になった。私も彼女たちも、やっと自分の家に戻ることができた。
ところで結局私たちを助けに来てくれたあの『薬を売ってくれたお姉さん(仮)』と呼ばれた女性は誰なのか? 名前も聞き忘れたし。でもいろんな薬ができるなんてすごいよね。
人間の体力を倍増させる薬とか、身体の動きを停止させる薬とか、若返りの薬とか……、それに縮小化の薬まで。そこまでできたなら、ひょっとして巨大怪獣に化ける薬とかも作れそう……。