12. やばい人形さん
「どういうことですの? 何でこうなるんですの?」
麟子さんは動けるようになった私たちを見て随分動揺しているみたいだ。やっぱり彼女にとっても薬の効果が切れることは予想していなかったよね。
「逃がしませんわ」
巨人の麟子さんは小さな私たちを追い始めた。私たちは店の出口の扉まで逃げたが、このドアを開ける方法がないからこれで行き止まり。
「もう一度落ち着くんですわ」
麟子さんは美歌ちゃんを鷲掴みにして、青いハンカチを持ち出して美歌ちゃんの顔に向けた。間違いなく、動けなくなる薬が塗られているあのハンカチだ。せっかくまた動けるようになったのにそんなの……。
「うー、うー」
「薬は効きませんの? どうして」
美歌ちゃんはまだ体を動かして抵抗としているままで何の変化もない。やっぱり切れた薬の効果はもう一度効くことはないみたい。
「そこまでだ!」
その時後ろから誰かの声が聞こえた。女の子の声のようだ。
「君は……」
今日人形にされたばかりのあの女の子だった。彼女は今棚の上の4階に立っている。この子の顔は自信満々のように見える。
彼女はいきなり自分の右手の人差し指を舐めた。何かを飲み込んでいるような?
「よし、行くよ!」
そして彼女は何の迷いもなく、棚から跳び降りてきた。1メートルくらいの高さで、5分の1サイズになった彼女にとってこの高さは5メートルくらいに見えるはずなのにこんな簡単に……。
地面に着陸したら、彼女は猛ダッシュして、カウンターテーブルの方へ向かって、そして登り始めた。まるで猫みたいに登るのが上手い。そして机の上にある小さな箱の前に立ち止まった。
「これは身体を小さくする薬ね。あなたはこれをお茶に混ぜて女の子たちに飲ませたのね?」
「そんなこと……、なんで知っているんですの?」
麟子さんは机の方へ慌てて歩いた。
「さあ、どうしてかな~。それと、あの青いハンカチに滲んだのは人間の身体の動きを止める薬。そうだろう?」
「なんでそんなことまで? 君は一体誰!?」
女の子を鷲掴みにしようと麟子さんは手を下ろしたが、彼女はあっさりと跳んで逃れた。
「痛い!」
麟子さんの手に傷が現れた。これは小さな爪に掻かれた傷のようだ。女の子が跳んで逃れた時に麟子さんを掻いたみたい。でもただちょっと血が出たくらいの傷だけで、そんなのあまりダメージがないらしい。
「こんなに小さいのになんでこんなに動きが速いですの?」
麟子さんは自分より5倍も小さい女の子に恐怖を持ち始めた。今までの余裕はなくなった。
「それはね、さっき左手の人差し指に隠れた薬の効果だから」
「薬ですって!?」
「そう、この薬はね、人間の力を百倍も出られるようにするの」
なるほど、さっき指を舐めたのは薬を飲むためっていうこと。最初から準備しておいたのか。
それに私もなんか思いついた。そういえば初めてこの子が店に入ってきた時に、私たちは彼女の指に触られた。そしてあの指には何かの薬の匂いがした。あれはきっと『動けなくする薬の効果を消す』薬に間違いない。今動けるようになった女の子たちはみんなあの子に触れられた子ばかりのようだ。だから私と美歌ちゃんは……。
でも、なぜあの時すぐに薬が効かなかったの? 効果が出るまでこんなに時間がかかるの? これはただ私の推測だけど、多分彼女は閉店時間を狙ってわざと効果の時間を夕方まで遅れるように調整したかも。
「あ、でも長く使うと身体に影響が大きいから、10分くらいで効果が切れるようにした。だから早く決着をつけないとね」
この薬にこんな弱点があるの? てか、なんでわざわざ自分から言ったの!?
「まさかこんな小さい身体でわたくしと戦うつもりですの?」
サイズが5倍違って体重が125倍も違うし。たとえ力が百倍くらい増えても簡単に勝てるとは思えないけど、なんかこの子は自信満々に見えて、何か方法があるかも。
「いいえ、さすがにそれは無理でしょう。身体のサイズが違いすぎるし」
やっぱり、こんな身体でたとえ逃げられても攻撃するのは無理よね。さっきの攻撃だって掠り傷しか起こせなかったし。たとえどんなに強い人間でも、自分より何倍も大きい巨人を倒せる人なんて、映画にしかないだろうね。
「何ですの? 結局ここまでですの?」
「でもね、一つ言い忘れた。この右手の指にもちょっと薬を塗ってあったの」
「右手?」
「そう、あんたの手を攻撃したこの爪にはね」
麟子さんのさっきの傷のこと? まさかあれの実の狙いは……。
「ま、まさかさっきの攻撃は……わ、服が!」
その瞬間麟子さんの身体はどんどん小さくなり始めた。やっぱり縮小化薬? 飲ませなくても直接皮膚から入れ込むことも効果が出るのか?
まだよくわからないけど、今の状況ってまさかこれで女の子の……いや、私たちの勝ちってことでいいよね!?