10. 動く人形さん
「あれ? 美歌の体が……」
上から美歌ちゃんの声が聞こえてきた。同時に私を抱いている美歌ちゃんの腕は動き始めた。どうやら彼女ももう動けるようになったみたい。
「痛い! 天井低い」
女の子座りしていた美歌ちゃんが立ち上がろうとしたら頭が天井に当たって、もう一度座るようにした。いや、天井と言っても部屋の天井ではなく、ただこの棚の天井だけどね。今私たちのいるところの天井は美歌ちゃんの身長より低いから。
「あれ? 私の体も?」
私も今動こうとしたら結局本当に動けるようになった! どうやらようやく私の体も元に戻ったようだ。
「やった! どうしてかわからないけど」
まさか薬の効果が切れた? どうでもいい。動けるようになったら逃げるチャンスだな。
「ゆ、ゆかちゃんが喋った!?」
美歌ちゃんは動いて喋れるようになったゆかちゃん……つまり私を見て随分驚いたようだ。彼女にとって私はただの人形だよね。
「そんなに驚かなくても……。みんな元々は人間だし」
「あ、そうか。やっぱりゆかちゃんも……」
「うん、私たちは縮小化の薬を飲ませられて無理矢理人形にされたよ」
「まさかあんな優しそうなお姉さんは美歌たちをこんなことをするなんて」
美歌ちゃんも今となって現実を把握できたようで、泣きそうな顔をして声が震えている。
「ゆかちゃん、どうしよう? 美歌たち家へ帰れる?」
そう言って美歌ちゃんは私の小さな体をギュッと抱き締めてきた。
「う……く、苦しい……」
せっかくあの薬の効果が解けたのに、私は今でも美歌の腕の中で自由に動けない。
「あ、ごめん、ゆかちゃん、痛い?」
美歌ちゃんはやっと腕の力を抜いてくれて助かった。
「いや、大丈夫だ。そんなことより、私は『ゆか』ではなく、夢未花と言う名前があるんだけど……」
とりあえず私は自己紹介をした。ずっと『ゆかちゃん』のままではやっぱりもう……。
「美歌と同じ名前?」
「違うよ。私は『ゆ・み・か』。……いや、名前のことなんて今どうでもいい。美歌ちゃん、今はここから逃げようよ! このまま麟子さん……あのお姉さんに見つけられたら大変になるよ」
「ここから逃げるの?」
「もちろんそうだよ。君はずっとここにいたいの? 私は絶対嫌だよ」
「そうよね。でもここはこんなに高くて……」
「そうだね」
確かにそうだよね。たとえ動けるようになったとしても私たちの身体は小さいままで、棚から降りることだけでも難航みたい。周りを見ると動けるようになったみんなも何とかして棚から降りようとしているみたいだけど、それは簡単ではなさそう。
「美歌ちゃん、とにかく一段ずつ跳び降りよう!」
「跳び降りる……。美歌が?」
この棚は全部5階あって、1階は30センチくらいで、私と美歌ちゃんが置かれているのは一番上の5階で、高さは1メートル以上(私から見るとこれは20メートル以上っていう感覚だけど!)。1階ずつは美歌ちゃんの身長よりも低いから一段ずつなら降りられそう。
「ね、よく聞いてね。私は小さすぎてあまり役に立てそうにないけど、今美歌ちゃんは一番大きいからみんなを助けないと」
「一番大きい? 美歌は?」
間違いなく今動けるようになった女の子の中では、4分の1サイズの美歌ちゃんが一番大きい。
「わかった。がんばってみる」
そして美歌ちゃんはまだ怖がりながらも、一階ずつ棚から降りてやっと下まで降りた。
「やった!」
「助かったよ! 美歌ちゃん、私を下ろしてもいい?」
「え? ゆかちゃんは美歌のものだからやっぱりこのまま一緒に」
「誰が君のものよ!? 私は人形じゃないんだから」
確かに1分の20サイズの私は、1分の4サイズの美歌ちゃんから見ればただ1分の5サイズくらいになるね。こんなサイズ差では彼女にとって私はまだ人形みたいに違いないかもしれないけど。
「そうよね。わかった」
「ありがとう!」
やっと解放してもらった。これで自由に動ける。こんな小さい体でできることはあまり多くないかもだけど。
周りを見渡してみたら、今動けるようになった人は私と美歌ちゃんを含めて10人くらいだ。どうやら半分以上まだ動かない人形のまま。
千恵美ちゃんはどうかな……? あ、やっぱりまだ棚の上で動かずに立ったままだ。なんで私だけ助かったのかな?
「いっ、痛いっ! やっぱり高いわね」
あそこには一人女の子が自分で棚から跳び降りた。彼女は美歌ちゃんのように身体が大きくないから跳び降りるのはちょっときついみたいだけど、ちょっと足が痛いくらいで済んだみたい。
「りっかちゃんだ!」
その女の子は私の人形のりっかちゃんだった。どうやら彼女も動けるようになったんだ。よかった。