1. 可愛い人形さん
「夢未花ちゃん、お誕生日おめでとう! これ、私からのプレゼントよ」
「ありがとう、千恵美ちゃん。何が入ってるかな~」
今日は私の15歳の誕生日なので、親友の千恵美ちゃんはプレゼントを買ってくれた。私はすぐ彼女から渡されたプレゼントボックスを開けた。
「わー、可愛い人形さんね! ありがとう」
プレゼントボックスの中に入っているのはすごく可愛い女の子の人形だった。整った顔で水色のフリルのドレスの格好でとても似合っている。
身長は20センチくらいだから人間の8分の1のスケールかな。片手で簡単に持ち上げられるくらいの大きさね。見た目から見れば、この子はもし人間だったら多分高校生くらいかな。中学生の私よりちょっと年上のように見える。
「気に入ったようね」
「うん、すごく!」
「やっぱり、この人形を買ったのは正解みたいね」
「うん、なんか素晴らしい人形ね。それに、この柔らかくていい触り心地!」
指で人形の顔や髪の毛を触ってみたら、なんかいい感覚だ。この黒い髪の毛も、白い肌もなんか柔らかい。よくできた人形だな。
「手足はこんなに自由に動かせるなんて」
首も腕も足も人間と同じように自由に動かすことができるようでなんかすごい。でも関節とか全然見えないよね。球体関節人形ではないらしい。
「だよね。最近の技術ってこんなに発達しているのね」
「まるでこの子は本物の人間みたいだよね」
今言ったのは全然大袈裟ではない。この子は本当に人間のように見える。こんなサイズじゃなければ簡単に彼女が本当の人間だと見間違えるくらいね。
「そうそう。私もそう思っちゃう」
「もしかして本物の人間が縮んで人形になったみたい……。なんちゃってね。そんなことあるわけないか」
私は冗談で言った。実際にこの人形を見たら一瞬そんなこともあり得るかもってつい思っちゃったね。
「夢未華ちゃん、なんか怖い想像をしているね。まあ、実は私も同じようなことを考えていたけどね。でもそんなことあるわけないよね?」
千恵美ちゃんもそう思うよね。確かに本当のことだったら怖いよね。自分の思いつきで発した言葉なのに、私もなんか怖く感じてきてしまった。
それに気の所為かもしれないが私けど、私はこの人形の目を見つめたら……、なんか彼女からも私を見ているような気がする。何か私に話したいこととかあるのかな? まるで人形に魂が宿っているみたい。
こんなにリアルな感じだから、初めて見た時の印象は……なんか不思議で上手く説明できない感情だ。
「でもね。夢未花ちゃんも、もし人形になったらこの子みたいに可愛い人形さんかもな」
「な、何言ってるの?」
どうやら千恵美ちゃんは私に人形になって欲しいみたいだ。私の容姿は『人形みたいに可愛い』って友達からよく言われている。人形好きな私だけど、この褒め言葉はなんか微妙だ。
確かに私は人形が大好きで、人形と友達になりたいと思っているけど、自分自身が人形になるなんてそんなこと……。よくわからないかも。まあ、人形になることなんてやっぱりあり得ないと思うけど。
「だって夢未花ちゃんはこんなに人形みたいに可愛い顔を持ってるんだからね。夢未花ちゃん人形があればきっとりっかちゃん人形よりも売れるし」
「もう千恵美ちゃんったら……」
おい、千恵美ちゃん、もし本当に人形になってしまったら私を売る気なの?
「っていうか、『りっかちゃん』って誰のこと?」
なんか知らない名前が出てきた。もしかして……。
「あ、言い忘れたね。この子の名前だよ」
「やっぱり、もう名前があるの?」
「私がつけたの。あ、でも夢未花ちゃんは自分でつけたいなら別にいいよ。じゃこの名前は無し」
「ううん、いいの。この名前もなんか可愛くて私も好きよ。それに千恵美ちゃんのくれたものだから、千恵美ちゃんの付けた名前でいい。これからよろしくね、りっかちゃん」
私はりっかちゃんを優しく抱き締めた。
「もう、本当に人形好きだな、夢未花ちゃんって」
「まあね」
人形を抱いて幸せそうな顔になった私を見て千恵美ちゃんも微笑んだ。
「もうすぐ高校生なのにお子様ね」
「いや、年齢関係ないし……」
もう3月だから、私たちはもうすぐ中学卒業して、来月春休みの後私だって高校生だよね。
子供だと言われるのはちょっと不本意だけど、人形が好きだからそれでいいんじゃないか?
「でも、いいのか? こんなによくできた人形ってきっと高そうだよね?」
「別にそんなに高くないよ」
「本当かな?」
千恵美ちゃんの家は随分お金持ちだから、この答えはあまり当てにならないかもね。具体的に値段を訊いてみたいけど、止めておこう。
「夢未花ちゃんが気に入ってくれたらそれでいいの。私たちは子供の頃からの付き合いだから」
そうね。私と千恵美ちゃんは幼馴染同士で、子供の頃からいつも一緒に遊んでいた。しかも毎年の誕生日、私は彼女から高そうなプレゼントをもらっている。今回もそうだ。
「本当にありがとう。必ずこの子を大事にするね。そういえばこんなものってどこから買ってきたの? まさか海外から特別に作って送ってもらったとか?」
千恵美ちゃんみたいなお金持ちの家ならこれあり得るね。
「ううん、違うよ。この町で偶然見つけた店で買ったの」
「え? 本当? この町ではあんなすごい人形屋あるの?」
「うん、実は私も初めてしったの。あの店は最近開業したばかりだそうよ」
「そうか。そんなにいい店があるなら私も見てみたいよな」
こんな人形を売っている店か、きっと素敵なお場所だな。
「やっぱり夢未花ちゃんならそう言うと思っていたよ。じゃ、私は連れて行こう。夢未花ちゃんもきっとあの店を気に入ると思う」
「本当? 是非行きたい」
「実は私も今よく考えたらなんかもう一つ従姉妹に買ってみたいんだよね。じゃ、次の土曜日はどう?」
「うん、もちろん行くよ」
こうやって、私も千恵美ちゃんと一緒にあの店に行くことになった。土曜日なんか楽しみだな。