ムラサキ
梅雨時の束の間の晴れ間。
よかった雨じゃなくて。
紫織は自転車で坂道を転がるように滑らせていく。
いつもの道をいつも通りに自転車を走らせて、
たどり着いたのはいつものカフェ。
予定よりも早く着いてしまった。
もちろん、継美はまだ来ていない。
とりあえず席を取って(きっと彼女は天敵としている紫外線を嫌がるだろうから奥の冷房の効いている席を取った。)自分の飲み物をカウンターへオーダーしに行った。
決まりきっていつも通り、紫織はアイスのcaffè e llatteを頼んだ。お砂糖は要らない。甘いの嫌いだし。
なんとなく今日は継美のも頼んでおこうと思い、こちらもいつも通りのLEMON TEAを頼んだ。
彼女の場合はお砂糖を2つ。
どちらもlargeサイズというところが、コレからどれだけ長居するかを現しているようだ。
先に戻り、飲み物の乗ったトレーを置く。
椅子に座ると、紫織はバッグから本を取り出して読み始めた。
スマホを触る気はあまりない。
紫織はカフェで小説を読む時間がとても好きだった。
ブックカバーまで別で購入するくらい、小説は紫織にとって生活に欠かせない一部だった。
紫色の、北欧風のデザインのブックカバー。
自分の名前に『ムラサキ』が入っているせいか、紫織は紫色のものを選ぶ癖がついていた。
ムラサキ…
紫織はいつも思う。
紫色の似合う女性なんてそうそういない。
とてもミステリアスで、知的で、艶めいて、
女らしく、でも凛としている。そんなイメージの色。
いつか、そんな色が似合うような女性になれたら…
『名前負け』という言葉が頭をよぎったその時、カフェの入口の自動ドアが開いて、キラキラとした太陽の光と一緒に継美が入ってきた。




