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LEMON TEA

うーーーん…重い…苦しい…辛い…


熟睡していたのか起きてもまだ世界はぼやけていて、それよりも何よりもとてもお腹が重たかった。


温かく柔らかい、そう、それはまるで、湯たんぽのような…


湯たんぽ?!


と思い目が覚めた


仰向けの体を支えるように両肘をついて、眠っていた上半身を無理矢理起こしながら自分の臍のあたりに目をやると、ミケがこちらを眠たそうに見つめている。


足を全部折り込んで、私のお腹の上に座り込んでいた。


暑い…


この梅雨時期にこの目覚めは辛すぎる。


『ハイ、ちょっとどいてねー、起きるからねっ』


大きな大福餅のような柔らかくて温かいミケの体を両手で器用に抱き上げつつ、私もベッドからゆっくりと降りた。


目覚まし時計に目をやると9時半を過ぎていた。


よかった…。


昨日は雑誌を片手に、もう片方の手でYouTubeを観つつ、眠い目を擦りながら塗ったばかりのペディキュアを乾かしていた。


そしてその後から記憶があまり無い。


ペディキュア、上手くいったかな…と思い見てみると、ちゃんと乾いてくれたようで思いの外綺麗に仕上がっていた。


本当は、赤のラメ入りのネイルポリッシュを塗ろうと思っていたけれど、昨日の帰り道、


『夏蜜柑』と『金木犀』


がどうしても頭から離れず、結局オレンジを塗ってみたのだ。


我ながら、良い色じゃーん。


そう思いながら、ミケを抱いたまま、とりあえず洗面所へ向かった。


『おはよう』


継美の母が台所で洗い物をしながら言った。


『おはよ』

ミケを下ろしながら、母の背中に向かって声をかけた。


『今日も紫織ちゃんと?』


『そだよ、恒例の週末祭』


週末祭って何だよな…と自分で言っておきながら即後悔した。


『お昼は?食べてから行くの?』


『うーーーん、いや、いいや!カフェでなんか食べるよ』


『家でお昼食べてった方がお金かからないしその分おやつ食べれるわよ』


こういうとこなのよね…と継美は思った。


紫織のうちじゃこんな話は絶対に出てこないだろう。


あの家はお父さんもお母さんも共働きだが、

何よりお父さんが医者、お母さんは薬剤師だ。


お金に困ったことなんかあるんだろうか…。


『早めに行ってお昼食べてくるよ、いつも遅刻して紫織待たせちゃうし。』


そう…と言いながらも、母の背中からは不満気な空気が漂っている。


その空気に呑まれまいと継美は洗面所へと急いだ。


どうして日本は自分の部屋にシャワールームが無いのだ。


海外ドラマの観過ぎだよーと友達は言うけれど、どう考えたってそれぞれの部屋にシャワーやトイレや洗面台がついていた方が効率もいいだろうに。


はぁ…と溜息を吐きながら鏡を覗いた。


継美は、物心ついた頃から鏡を見ることが好きだった。

いや、鏡に映る自分の顔を眺めるのが好きだった。


いつだったかクラスメイトの一人が鏡で髪型の確認をしながら

『私、自分の顔見るの嫌なんだよね…』

と言っていて継美は内心とても驚いたことがある。


すると、隣に座っていた女子も

『私も…鏡嫌い…』

と言ったので更に言葉が出てこなかったのだ。


だって、

女に生まれたからには鏡は女の友達だと思っていた。


鏡を見て、自分の身だしなみを整える。

顔だけじゃなく、全身のバランスも大切なのだということはつい最近知った。

更に色も似合う色と似合わない色があり、生まれつきの『骨格』までも洋服や靴、髪型などに関わってくるのだと知ってからは、継美は1日の三分の一はそのことについて考えるようになっていた。


もう三分の一は睡眠。

もう三分の一は学校と家での生活。


今日は、ペディキュアを昨日オレンジにしちゃったから…、

アイシャドウとチークとリップもオレンジ系にしようかな。

でもマスカラはネイビーにしよかな。


そしたら洋服は青系で…そしたら対色だし顔がボヤけなくていいかもな。


小物は白にしよっかな…。


そうやって考えていると時間を忘れてしまうくらい没頭してしまう。


継美はこの作業がとてもとても楽しいと思っていた。


そう。時間を忘れてしまうほど。

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