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65 食いしん坊の集い1




 カフェテリアコフィアの地下、厨房に集まった男子スタッフ全員とオーナーの一人とその護衛は、シャクシャク、ポリポリ、と皿に山と積まれたものを食べていた。


「はー、美味しい」

「うまいよな」

「見た目がふわふわなのにサクサクしていてほんとに不思議です」

「…………」

「バターの香りがたまらなくマッチしてるよね! 家畜の餌にもならないと思っていたのに」

「価値観の違い、それとも先入観、かなぁ?」

「お嬢様は甘い物とお料理のレシピだけでなく、こういった酒のつまみもご存じなんですね」

「酒のつまみか」

「止めてくれ、飲みたくなってくる」

「うん、でもありかも。意外と腹が膨れそうだし、合うんじゃないか?」

「ここに就職してよかった!!」


 祈るように手を合わせたリベリオに、イェルドとフィルミーノ、屋敷から補助で入ったタツィオの三人は深く頷く。

 アロイスの護衛兼従僕を務めるジルドは、料理の才能があったら自分も採用されたがっただろうな、と思いつつ、なんだかんだでアロイスにくっついているお陰で、ここの食事にありつけることを感謝する。

 ここの食事は、いわゆる賄いなのだが、新しい料理の試作や実験も兼ねているため、店のメニューには載らないものも色々と出る。


 そのほとんどが今までにない料理で、美味しい。


 食べることが好きなイェルドは嬉々として調理をするし、舌の肥えたリベリオは斟酌せず品評する。フィルミーノは食べてから、代わりに使えそうな野菜などを提案して、コスト削減に一役買っている。

 三人が遺憾なく能力を発揮する影響で、デルフィーナのレシピはバルビエリにより合ったものへと進化していた。

 フィンガーフードは勿論、軽食として出せるいくつかの料理はコフィアでも提供する予定だ。

 コフィアには向かない本格的な料理は、エスポスティ商会の料理店や酒場にレシピを売った。当然ながらアロイスとカルミネが間に立ったので、デルフィーナの名前は一切表へ出ていない。

 レシピ作りに協力した三人には、別途特別手当が出された。

 本業であるコフィアの開店前だというのに、すでにボーナスが出て、フィルミーノなどはかなり慌てていた。


「もらったコーンがこんな風になるなんてねぇ」


 ゆっくりながら止まらない手でポリポリと食べるアロイスは、ふうっと笑う。


「もらったところでどうしたものかと思ったんですがね」


 同意しつつ苦笑するタツィオに、眉間の険しさがだいぶ取れてきたイェルドも頷いた。


 テーブルの皿上に積まれているのは、ポップコーン。


 醤油がないのは残念だけど、塩でも美味しい! と拳を握ったデルフィーナの声により、バターと塩で味付けされたポップコーンを昨日作った。

 彼女が不在の今は、バターと塩の最良なバランスを求めて、割合を変え数回作り。それが山となっている訳だ。


 元はといえば、コフィアでの準備に忙しかったスタッフに代わって、屋敷の従僕の一人が輸入品店へお使いに行ったことだった。

 エスポスティ商会の南大陸交易部門が開いている店は――貴族へは各屋敷へお伺いする外商部へ収めるため――主に庶民をターゲットとしている。

 そのため、倉庫は大きいが、店舗自体は小さい。

 デルフィーナが街へ出たときにアロイスが連れて行かなかったのは、店頭に出ているものが少ないためだった。

 だがコフィアは今後継続して購入する顧客となるため、アロイスが既につなぎをつけていた。


 頼まれた従僕は直接倉庫の方へ向かい、渡されたメモに従って香辛料などを購入したのだが、その時に、量が量だからまけてくれ、といった交渉をしたらしい。

 元々エスポスティ家つながりでかなり“勉強”していた交易部門側は、それ以上に値引きをするのは無理だとつっぱねた。ダメ元で交渉していた従僕はすぐに引き下がったのだが、代わりに、と倉庫スタッフはオマケの品をつけてくれた。


 仕入れたはいいが、あまり多く売れず、日持ちするものの在庫を抱えてどうするか、と悩んでいた品らしい。

 どうにもならなければ家畜の餌にするしかないが、南大陸から輸入したものと考えるとあまりにもったいない。傷まないからとしばらく倉庫の一角に眠っていた品だった。


 デルフィーナのことなど全く知らない倉庫スタッフだったが、アロイスは大学出で知識も多いから、これにも何か使い道を見いだせるのでは、と考えたらしい。

 抱えた在庫を体よく押し付けたともいえるが、今回に限っては成功だった。

 生かす道を見つけたのはデルフィーナであってアロイスではないのだが、そんなことは外部の人間には分からない。


 かくてコフィアに運ばれたオマケ品、南大陸産のトウモロコシは、デルフィーナの手へ渡ったのだが。

 当初、受け取ったデルフィーナは、それがポップコーンになるコーンだとは気付かなかった。

 過去世で見た加熱前のポップコーンは、粒になっていたため、バラバラにされていないトウモロコシ、しかもよく見知ったスイートコーンとはかなり形も異なるそれが、爆裂種とは判別できなかったのだ。

 まずは加工できるように外そうか、と提案され穎果をばらされて、初めて「もしや?」と思い当たった。

 違っていたとしても。食べられるかどうかやってみないと分からない。

 玄米茶に入れる玄米のように、食べるには向かなくても加熱すれば弾けるだろう。


 イェルドに指示を出し蓋をしたフライパンの中で弾ける音を楽しんだデルフィーナは――他の面子はかなり退いていたし、普通の料理人なら蓋から手を離していただろうと同情されたイェルドだったが――弾け終わったコーンは、見るからにポップコーンだった。

 食感を確認するまでは確定しない、と一つをそっと噛んでみたデルフィーナは、すぐに二つ目へ手を伸ばした。

 塩気が欲しいが、まごうことなくポップコーンだった。


 イェルドにバター塩を作らせると、後からながら絡めさせ、傍にいた面々に食べさせる。各々の反応からバターと塩の最適な割合を見つけておくよう指示を出し、デルフィーナは屋敷へと戻った。

 それが昨日のことだ。


 今日はベストな配合を割り出すために、昼食抜きでバター塩味のポップコーンを皆で食べている。

 より美味しくするための、これもれっきとした、美味なる仕事だ。


 なおデルフィーナは、キャラメルをかけるとまた別の美味しさになる、という知識は一切口にしなかった。

 アロイスの前でそれを披露したら、コーンの輸入量を増やしてもらわない限り、店のメニューに載せられなくなる。

 倉庫に眠っている量を確認する必要があるものの、南大陸からの輸入は海路を含め安定しているため、セイボリーのひとつにポップコーンを入れたいのだ。

 店の仕入れ量が安定したら、アレンジとして新レシピを開示するのもありだろう。そうデルフィーナは考えていた。







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