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59 リベリオ2




「わかりました。この店では紅茶に合ったものしか出しませんが、私は色々と料理のレシピも知っています」

「えっ」

「理由が知りたければ――なにより新しい料理が食べたければ、魔法誓詞書での契約が必要となりますが、それでも勤めていただけますか?」

「魔法誓詞書?……理由を知るためにも必要とは……」

「魔法での制約が嫌なようでしたら、このお話はなかったことに」

「します! 契約しますから!」


 デルフィーナの言葉に慌ててリベリオは言い募る。


「色々な料理を知っている、というのは本当なんですよね?」

「ええ。私は料理をさせてもらえませんが、代わりに料理人が作るでしょう。この店のまかないもお願いするつもりですから」


 デルフィーナが食べたいものをいちいち屋敷の厨房で作ってもらうより、イェルドに作らせた方がいいように思う。イェルドはタウンハウスの料理人達と違って自衛できる料理人なのだから、適切だ。

 まかないと聞いてリベリオが真剣な表情になった。


「必要な契約を交わしましょう。是非こちらで雇用してください」


 言質は取った。

 にこりと笑んで、デルフィーナはアロイスを振り返る。

 有能なもう一人の商会長は、意味深な微笑を口許にはいて、すっと書類を差し出した。


「私はアロイス・エスポスティ。デルフィーナとともにこの商会の長をしていますが、まぁ、デルフィーナの後見のような立場です」


 自己紹介をしたアロイスに、リベリオも礼を返す。

 手際よく出されたペンとナイフ、諸々を使って、リベリオとデルフィーナはさささっと手続きを終える。

 魔法誓詞書による制約が課された以上、隠すことはない。

 今後のコフィアを円滑に回すためにも、早速デルフィーナの秘密がリベリオに公開された。

 話を聞いたリベリオはといえば。

 絶句の後、だんだんと興奮を示し――最後は打ち震えながら、この出会いへの感謝を叫んでいた。







 三人の従業員の顔合わせは、無事に終わった。

 フィルミーノはイェルドを怖がるかと思ったが全くそんな様子はなく、聞けば田舎のご近所さんは多かれ少なかれ日焼けしたり怪我があったりと、なんとなく強面が多かったらしく、慣れているとのことだった。

 リベリオは、デルフィーナの作り出す料理を食べられるのならどんな同僚でも気にしない、との構えで、フィルミーノとイェルドはある意味眼中にない様子だった。

 料理を作るのはこの二人よ? と言ったら途端に二人にも愛想が良くなったのは、ある意味芯が通っているのか。

 イェルドは表情を改善しようと既に格闘を始めた様子で、なんだか百面相をしていたが、フィルミーノとリベリオへの印象は悪くなかったようだ。

 これなら、従業員間でのトラブルは起きないだろう、と判断してデルフィーナとアロイスは三人を正式に雇用すると通達した。


 雇用が決定したところで必要になるのは、カフェテリア「コフィア」に対する認識のすりあわせと、今後の予定の確認である。

 それぞれと魔法誓詞書による誓約はしたが、まだ三人ともデルフィーナの“稀なる人”としての知識には触れていない。

 

 せっかくだから、と焼いておいたクッキーを紅茶と共に三人へ振る舞った後、砂糖作りをしてもらった。

 共同作業は連帯感を高めるし、秘密を漏らせばあっという間にデルフィーナは危機に陥るという切迫感を持って欲しいがためだ。

 決して、アロイスへの賄賂――いや正当報酬を生み出すためではない。


「これはまた……流通している砂糖とは香りも味わいも異なりますが……」


 出来上がった“フィーナのお砂糖”を口に含みながら、リベリオは唸る。


「これを毎日使ったお菓子を作るのですね! わぁ……」


 フィルミーノは頬を染めながら砂糖の甘さに感動している。


「どの程度の頻度でこれを作れば……」


 作業工程と出来上がった量から今後のことを考えているのか、イェルドはまた眉間に皺を寄せている。


「さて。これで三人とも、漏らしたらマズい知識を身につけてしまいました」

「えっ」

「……そうですね」

「…………」

「この砂糖の作り方と材料は簡単な分、忘れにくいでしょう。これを誰かに知られたら、大変なことになります。具体的には今ある砂糖の価格暴落とか。独自の砂糖の存在を知った、砂糖の販売権に食い込みたくて仕方ない商人に狙われるとか」


 フィルミーノのために分かりやすく解説する。

 事態を理解した少年は真っ青になっていた。


「それを回避するための誓約でもあったのだけれど、敢えて言うわね?」


 前置きをして、デルフィーナは真剣な面持ちになる。


「紅茶や、お菓子のレシピを持ち出すのは、最悪許しましょう。ただし、砂糖だけは絶対に許しません」


 デルフィーナの声に、三人は押し黙ったまま微かに頷く。


「砂糖を使ったお菓子の持ち出しは構いません。出来損ないを家で食べたい、販売しているものを家族へ贈りたい、等あるでしょうから。

 でも、ここにある砂糖を、原型のまま持ち出すことは絶対に禁じます。私の命に関わるので。

 たとえ家族を人質に取られて脅されたとしても、持ち出そうとした時点で拘束します。

 ですがまぁ、私も人でなしではありませんので、万が一人質を取られたらすぐに報告してください。解放にむけて尽力しますから」


 実際のところ、誓約で縛られていると分かれば、秘密を盗もうとする犯罪者達はそこまでの強硬手段に出ない。そのための魔法誓詞書でもある。

 だが、万が一がないとも限らない。

 この店から持ち出さなければ、それだけリスクも減る。

 三人には自分自身のためにも、この約束を絶対に守ってもらわねばならなかった。


 アロイスは、ファッジとクッキーで、砂糖そのものを食べるより美味しい食べ方があると知ったため、砂糖の持ち出しを先んじて己に禁じていた。

 エレナはこの店舗の厨房へ入る時はデルフィーナと必ず一緒なので、秘密裏に持ち出すことはできない。同じくジルドもアロイスの目がある。


 今現在自由にこの店舗に出入りできる七人が砂糖を持ち出さなければ、当面はなんとかなる、予定だ。


 デルフィーナの知識は砂糖だけではないため、他から“稀なる人”と知られる懸念はあるし、そうなったらそうなったで対処も考えてはいるが。

 一番リスクがあるのが今のところ砂糖なので、用心に用心を重ねる方針だ。


 機密保持を魔法誓詞書を使って誓った以上、魔法での制約によりデルフィーナの秘密を口外することはできないのだが、何事にも抜け道はある。

 危機感を持ってもらい、自ずと律する意識を持ってもらう方が安心だ。

 三人はそれぞれ理解したらしく、真面目な顔で頷くと、再度の約束をした。







お読みいただきありがとうございます。

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