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45 個人的内覧会




「必要なスタッフって、どれぐらいかしらね」


 前世でデルフィーナは飲食店勤めをしたことがない。

 カフェは憩いの場所で、職場にしたくなかったのもあり、バイトも飲食店は選ばなかった。

 だから具体的に必要な人数が分からない。

 厨房とホールと、どちらにも入れる人員。前世ではそんな感じだったように思う。だが現世では、料理人は基本的に客の前に出ない。想定している客層を考えると、接客はマナーがしっかり入っている者にしたい。料理人と給仕は、完全に分けた方がいいだろう。

 店内の席数、客層、回転率で必要なスタッフの数は変わる。

 プレオープンで最終確認するにしても、スタッフ数は多過ぎても足りなくても困る。

 デルフィーナの事情を知る人間は極力減らしたいが、客が不便を感じるほどに制限する訳にはいかない。

 秘密を抱えているが故に、熟慮せざるを得ないのだ。


「私の言うとおりお菓子を作ってくれる料理人がひとり」


 まずは最低限で考えながら、デルフィーナは指折り数える。


「お客様へサーブする給仕がひとり。お茶の管理や洗いもの含め食器類の管理をするのがひとり」


 店舗で扱う茶器は、これまでにない形の陶器と、潰せば貨幣代わりになる銀器があるので一財産だ。しっかり管理する必要がある。

 店の根幹を支える紅茶の茶葉は言わずもがな。

 そういった意味で、スカラリーメイドを使うつもりはなかった。


「お茶は私が淹れる? ううん、お店につきっきりにはなれないだろうから、お茶を淹れられる人が必要よね」


 最低限で四人は必要だ。

 だが料理に関しては、店舗の厨房でカフェテリアで提供するもの以外も試作したいと思っている。“自分の店舗”であるため、屋敷の厨房にお邪魔するより自由度が高いぶん、気兼ねせずに色々とできる。

 アロイスが「フィーナのお砂糖」と呼ぶ彼への報酬も、精製中の匂いを誤魔化すため焼き菓子の香りに紛れさせるつもりなので、店舗の厨房で作る予定だ。

 誰かに見つかる可能性を考えるとあまり作り置きできず、頻繁に作るには屋敷の厨房では都合が悪いという理由もある。

 だがデルフィーナは火や刃物の扱いを禁じられているため、実際に作るのは指示通り動いてくれる料理人だ。砂糖作り、メニュー外の試作、カフェテリアの商品作り、と考えると、料理人は一人では足りないだろう。


 カフェテリアは一階と二階、どちらも客を入れる予定だ。

 回転率を考えると、どうしても席数を増やす必要がある。

 前世の記憶にあるような、時間に押される生活を現世では誰もしていない。時間とお金が換算される社会ではないからだ。

 商人達にはこの考えに基づき動いている者もいる。機会損失の思考があり、時間を惜しんで動き回っている。カルミネなどが良い例だ。

 だが貴族や商人以外の富裕層は、ゆったりとした生活をしている。カフェテリアでも長居をすると予測できる。

 回転率が落ちる以上、席の多さでカバーするしかない。

 個室も準備している都合上、ベルを用意してもワンフロアにひとりの給仕スタッフが必要だろう。


「料理人と給仕二人ずつで四人。茶器の管理人がお茶を淹れられれば一人減らせるから、最低五人、かな?」


 回転率が悪いなら洗い物は減るし、お茶を淹れるのは給仕にも覚えさせればいい。

 茶器の管理人がホールスタッフの控えを兼ねるならそれがベストだ。


「五人でなんとか回せるかな……やってみるしかないか!」


 地面にしゃがみ込んでいたデルフィーナは立ち上がる。

 エレナは独り言を呟くデルフィーナをずっと観察していたのだろう。

 日傘はぶつかることなく、デルフィーナの動きに合せてきちんと持ち上げられていた。







 公園の、適度に間を開けて植えられた樹木と垣根、整備された芝が、朱や黄色に色づいている。

 初めて来た晩夏には日光を浴びて明るい緑に輝いていたが、二ヶ月経って、秋らしく紅葉していた。

 庭がすっきりしたため、僅かな幅だが表の道路から公園まで見通せる。

 速度を落とした馬車からそれを見たデルフィーナは、単純にそれだけでも嬉しくなっていた。


 今日は、改装工事が終わり、アロイスのチェックも終わって、初めてデルフィーナがカフェテリアコフィアの確認に来たのだ。

 デルフィーナの要望がどこまで叶えられているのか分からないが、それも含めて、綺麗になった店舗内がどう仕上がったのかとわくわくしてしまう。


「おぉ……」


 アロイスのエスコートで馬車を降りたデルフィーナは、思わず声を漏らした。


 重々しく圧迫感のあったドアは新しくなり、雰囲気が一変していた。

 デルフィーナが希望したため、ドアの上部にはガラスが嵌め込んである。ガラス工房でデルフィーナが魔法をかけた、大きめの一枚ガラスだ。


 防犯の観点から難しいかと思ったが、ロイスフィーナ商会は子爵家の二人が商会長とあり、強盗が入る心配はまずないそうだ。

 貴族出資の店は、何かあったときに貴族が出てきて対応するため、犯罪者側も単なる商店と同じ扱いをしないらしい。泥棒も相手を見て標的を決めるようだ。

 対貴族の犯罪は、見せしめの意味もあって街の警護兵が絶対に捕縛するそうなので、然もありなんというところ。

 おかげで大きめのガラスを嵌め込めた。

 これで外からも店内が覗える。客席は角度をつけて覗かない限り見えない配置にするので問題はない。

 通りがかりで店内の雰囲気が伝えられることと、今作ってもらっているある物を配置することで、客を引き込む計画だ。


「どうぞ」


 ドア一つで目を輝かせているデルフィーナに笑みを漏らしながら、アロイスがそれを開けて中へと促す。

 踏み入った店内は、以前と比べかなり明るくなっていた。


 物件選びで来たときから感じていたが、天井は少し低めだ。だが煤けてもおらず古さも感じさせなかった壁は、漆喰を新たに塗り直してもらって、白さが際立っている。

 もっと落ち着いた雰囲気の色合いも考えたのだが、照明器具が出せる光の強さを考えると、明るい色にするしかなかった。

 ダークレッドやスモークグリーンの壁に憧れはあったものの、それではテーブル上のお菓子が美味しく見えない可能性が高い。

 明るさの少ない店内だと、既存の飲食店、特にお酒を提供するお店と差を出せなくなる。

 初めての形態のお店なのだ。お茶はもちろん、お茶請けのお菓子も「美味しそう」と思ってもらう必要がある。

 店内の明るさは必須だった。


 それに、漆喰に色を付けるとして、着色に何を使うかが分からなかった。長居をしてもらう可能性が高い店内、その空間は危険のないところにしたい。


(ステンドグラスの青は職人が中毒起こして死んだとか、昔の日本の白粉は鉛が入っていて中毒死したとか、詳しくなくても知ってるもんね……)


 人の文明の進化は、意外にリスクと二人三脚。過去の積み重ねで危険は発見される。だが蓄積のない現世では、まだまだ危険な物が分かっていない。戦でもないのに死と隣り合わせの生活は避けたかった。

 前世の知識には偏りがあって、何が毒となるのか分からない。そのため、なるべく混ぜ物なしで作ってもらうしかなかったのだ。

 幸い、色付けをしない自然な状態が白色だったため、そのまま使ってもらった。

 壁紙は既に存在しているが、デザインは少なく、印刷技術もまだまだ改善が必要な段階で、美しいものは手間暇かかる分お値段が相当お高く、却下せざるを得なかった。

 結果、落ち着くべきところに落ち着いた、白、なのだ。


 床や階段、天井は、木の建材をそのまま生かしてあるので、落ち着いた茶色だ。

 作り付けてもらった棚は、この色に合わせてある。

 どれも丁寧に掃除した後磨かれて、艶々としていた。

 ドアを入ってすぐの右手に階段があり、二階へ上がれるようになっている。その手すりも飴色に輝いている。






お読みいただきありがとうございます。

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