115 レシピ色々
「なら、チョコチップクッキーとかがいいですかね。ココアクッキーと抱き合わせで売れば、ココアがチョコレートの香りと伝わるでしょうし」
「うん。あとは、ホットチョコレートを少量からでも売るようにしたら、香りの宣伝になるんじゃないかなぁ?」
チョコレートは、食べないと香りがよくわからないが、ホットチョコレートなら飲まなくても周りに香りが漂う。別の客が買ったもので、近くの客が香りを楽しめる。
そこで覚えていれば、ココアの混ざった菓子を食べた時、同じ香りだとわかるだろう。
「それはいいですね。紅茶だけだと飽きが来ると思っていたので、その点でも良さそうです」
デルフィーナはうきうきと答えた。
「それにしても……これ、見ただけだとわからないのもあるねぇ」
店を始めて、アロイスは料理にも詳しくなってしまった。それでも、レシピから思い起こせるのは限度がある。
デルフィーナの書くレシピは文字のみ。わかりやすい写真など当然ついていない。
パッと見てわかる写真と違って、文字だけだと、作る過程が想像しにくいものだ。
「とりあえず一度、全部作ってもらって、店で出すもの、家で作るものと分けたら?」
いかんせんチョコレートは高価だ。
店での値段も、それなりとなる。
少量のココアパウダーで済むもの、しっかりチョコレートを使うもの、チョコレートそのもの。三段階に分け、それぞれ二種に絞っても、六種の菓子となる。
デルフィーナの書いたレシピは六種どころではない。それを全部となると。
「うーん、いえ、まず店で出せそうなものに絞ります」
デルフィーナはアロイスと話すことで、散らかっていた頭の中が整理されつつあった。
ひたすら書き出した時はいっぱい過ぎて考えがまとまらなかったが、今は基準が見えたので、分けるべきルールに則って分類できそうだ。
「それと、侯爵家へ献上する品は別にした方がいいですよね」
「そうだねぇ、またレシピを、って言われるかもしれないしねぇ」
その可能性は高い。
「ならば、チョコレートそのものの他に、侯爵家用のお菓子とレシピを用意しますわ。
どうせなら、チョコレートをたっぷり使うものにいたしましょう」
にんまりと笑うデルフィーナに、アロイスは苦笑した。
店で出せない“濃いチョコレート菓子”のひとつを提供すれば、結局チョコレート本体の作り方を秘めている以上、かなり店へお金を落とす結果となる。
濃いチョコレート菓子を作るためのチョコレートをコフィアに求める図式だ。
こういうところで“商人の娘”としての顔が出る。
子爵令嬢としてどうなのか、とは思うが――家を継ぐ身でなし、構わないだろう。
デルフィーナの中からは、他の貴族家に嫁ぐ可能性がすっぽり抜け落ちていた。
一応令嬢としての教育も問題なくこなせているようなので、アロイスもそこへ口を挟む気はなかった。
将来のデルフィーナがどうするかは、父であるドナートと、デルフィーナが決めることだ。
それよりも、気になっていたことを言葉にした。
「マカロンには使えないのかな?」
侯爵家といえばマカロン、になりつつある現在、そこにチョコレートを混ぜるのはさりげないつながりのアピールとなる。
「チョコレートマカロンですね。ありますよ。そちらのレシピも出しましょうか」
マカロンはコフィアのメニューにはないから、出し惜しみする必要がない。
家で食べるのを許してもらえれば十分だ。
「では、チョコレートそのものと、濃いめのチョコレート菓子と、チョコレートマカロン。菓子とマカロンのレシピ。これを侯爵家へ献呈だねぇ」
「はい」
チョコレート自体はイェルドとオノフリオに作ってもらうとして。
濃いめレシピの菓子は屋敷の料理長に頼むとしよう。
店で出さないものを忙しい二人に作らせることはない。チョコレートそのものを作れる二人なら、何事か生じた場合でも、どのみち侯爵家の庇護を得られるはずだ。
暫定ではあるが、侯爵家への献上品は決まった。
あとはレシピ通り料理長に作ってもらう――前に、チョコレートの完成を待たねば。
「イェルドとオノフリオのこだわり方次第なのよね」
イェルドはある程度の妥協を知っている。
もちろん満足できるレベルに至っていないと妥協もなにもないが、商品としての線引きが上手くできるタイプだった。
一方でオノフリオは、こだわりが強い。
望んでコフィアに来たその理由を合わせて考えれば、必然的に推察できるが。
今はここまで、という決断ができないタイプだ。
おそらく今までは「ボニッシモ」の料理長が最終決定をしていたのだろう。副料理長である以上、その決定には従わねばならない、そういう立場だからこそ今まではよかった。
だがコフィアには見習いのフィルミーノを除けば、イェルドしかいない。
料理人としての経歴でいえば、オノフリオの方が圧倒的に上。
そのため二人の立場は今のところ拮抗していた。
この先を考えれば、どちらかに「料理長」の肩書きを与える必要がある、とは思っていたが。
チョコレート作製のあれやこれやを見て、デルフィーナは決めることにした。
「アロイス、イェルドをコフィアの料理長にしようかと思うのですが、どう思います?」
「うん? いいんじゃない? というより決めてなかったんだねぇ」
少し驚きながらアロイスは同意を示す。
「では、イェルドを料理長にして、開発中のレシピの最終版を決める権限を与えましょう」
デルフィーナの言葉で、アロイスは彼女が何を意図したのか理解した。
オノフリオの、どこまでもより美味しいを追求する姿勢は料理人として正しいが、商人としては区切りをつけてもらわねばならない。
それが本人にできないのなら、できる人間に任せるしかない。
つまり、チョコレートの完成、その決定を、イェルドに任せると決めたわけだ。
「うん、それでいいんじゃないかなぁ」
くすくすと笑いながら、アロイスはティーカップを傾ける。
仕事の合間にお茶をするのも、すっかり定着した。
このお茶の時間に、紅茶ではなくホットチョコレートが混ざり始めるのも、そう遠くない話だろう。
チョコレートの完成を急かすにしろ待つにしろ、色々決まったこと、これからのことを、料理人達に伝えなければならない。
明日にはまたコフィアへ顔を出すことにして、デルフィーナはレシピの選定へと思考を切り替えた。
お読みいただきありがとうございます。
キリの良いところ出区切ったため、今回少し短めです。
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年内の更新はこれでさいごの可能性が高いです。
皆様どうぞよいお年をお迎えください。








