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第7話 イス取りゲームで優勝をキメていく

「前が良いぃ〜〜〜!!」

「だめ。今日は私が前。ヅキには譲らない」

「やだあああ!前が良いいいいい!!!」

「足掻いても無駄。私には勝てない」


 組み付いたりしがみつこうとしたりするが、全ていなされる。

 しまいには俺の妨害があるにも関わらずお母さんの自転車の前の子供座席を取られる。


「ちくしょおおおお美香めッ!!!」

「ふん、今日は後ろで我慢しなさい」


「もう〜ふたりともそんなに前が好きなの? 交代交代にしたら?」


 そう、幼稚園に向かうお母さんの自転車の前の座席に座るか、後ろ座席に座るかで揉めていたのだ。


 前の座席の方が景色がいいし、お母さんと話しやすいし、俺も美香も前に座りたがるのだ。


「いいもんね! 後ろのほうがお母さんのこと見やすいし!」

「確かに。それだけは唯一の後ろの良い点。ヅキのくせにわかってる」


 一言余計だこのクソ姉貴。


「あらあら〜! もうふたりともかわいい〜!」


 お母さんが喧嘩の最中だと言うのに照れ照れしてる。


「ほら! 早く行くよ!」


 後部座席によじ登り、照れ照れしてるお母さんを急かす。

 クッ、ここは敗北を認めるが、このままでは終わらん。必ずや今日もマウントを取ってやる。



−−−



 幼稚園で時間を過ごすが、中々丁度いいタイミングがない。特に何も起こらないため、マウントも取れない。


「はーい、みんなー、今から紙に将来の夢を大きく書いてー。絵でも文字でもいいよー。それからすみっこに名前も書いてねー」


 悩んでいると、唐突に佐藤先生の声が聞こえる。


 今は年中部屋にみんなでいる。

 年中部屋は大きな机をみんなで囲むように椅子で座るようなレイアウトだ。


 うーむ、将来の夢かあ。

 過去に戻ってきてまた未来について考えるとはこれいかに。

 意外に悩ましいぞ。


「ヅキは何書いた?」


 悩んでいるとガッシーこと澤我塩さわ・がしおが声をかけてくる。


「まだ書いてない」


 そう言いつつガッシーの紙を見ると、『えらいひと』と書いてあった。


「なんだよ偉い人って」


「なりたいだろ!えらいひと!」


 だからその偉い人はなんなんだって。

 …いや待てよ。偉い人、偉い人か。

 ……悪くないかもな!俺の場合はマウントを取れる人、だな!

 で、マウントを取れる人、取っている人と言えば……金持ちの奥さんだ!


 転生する前のTwitterではよく見かけた!

 ママ友の間でマウントを取る、金持ちの奥さん!

 もしくは国家公務員の妻か外資系コンサルの妻、大手商社の妻!

 だがこれらは所詮同じだ。金持ちの奥さん!


 マウントのプロ!

 俺の目指すべき姿!

 これだ!


「ありがとうガッシー。おかげで俺の将来の夢が決まったぜ」


「お、おう?そうか!よかったな!」


 まったく、俺は天才だぜ!



−−−



「みんな書いたー?」


「「「はーい」」」


「はーい、それじゃ、紙とイスをもって遊び部屋に来てー」


 みんなで、何書いたー?とか会話をしていると、佐藤先生の声がかかった。


「「「???」」」


 みんな顔に疑問を浮かべながらも指示に従う。


 この間かくれんぼのときに隠れたピアノのある大部屋、通称『遊び部屋』にみんなでイスと紙1枚を持って出る。


 みんなの中心で、佐藤先生が話しかける。


「これからみなさんにはイス取りゲームをしてもらいます」


 ……唐突すぎる。


「「「………やったーーー!!!」」」


 唐突だが、園児たちは大喜びだ。


 だがわからない。

 この紙は一体……。


「はーい、みんな、じゃあ、自分のイスに夢を書いた紙を貼って、丸くイス並べてー」


 続けての先生の言葉にみんなが従う。


「ほらー、内側に向けちゃイス取りゲームにならないでしょー」


 みんなが並べ終わる。

 そこでまた佐藤先生が説明しだした。


「はい、それじゃルールね。音楽が止まった時に座れなかった子は、自分の夢を発表しながら、自分のイスを持ってゲームから抜けてね。壁際に行って座ってね。で、一つずつイスが減っていって、最強の一人が決まったら終わりねー」


 なるほどな。座れなかったやつの夢を聞きながら、そいつのイスも減らす、と。


「先生、それじゃ、最初のイスはどうするんですか。一つなくさないと始められません」


 確かに。イケメンの池照男いけ・てるおの言うとおりだ。

 このままでは始められない。

 佐藤先生はどうするのか。


「あ、確かに……」


 ておい。考えてなかったんかい。

 佐藤先生は本名を佐藤砂糖さとう・シュガーという。DQNネーm…もとい、おもっくそキラキラネームだ。


 キラキラネームだが、まともな先生なのだ。

 まともなはずだったのだが……大丈夫だろうか。


「えーと、じゃあ、我塩くん! 夢発表してみて!」


 なるほど、ガッシーに振ったか。ガッシーなら…


「はーい! 俺の将来の夢は『えらいひと』でーす!」


 ほら、素直に答えてくれる。


「えらいひといいよねー」

「えらいひと、かぶった!」

「私のほうが良い夢」


 ガッシーの夢に対し、園児たちが口々に思い思いのことを言う。

 おい、最後の美香、マウントを取るのは俺だぞ。


 ……ハッ!? これだ!

 今日はこれでマウントを取るんだ!

 ルール上、最後まで残れば俺の夢も残る! つまり、純粋にイス取りゲームが強いというマウントと、俺の夢が一番というマウントが取れる! これだ!


 よーし、本気になったぜ。

 これは勝つぞ。


「はい、じゃあ我塩くんのイスは除外して、壁際に並べてねー」


 いや除外て。

 ガッシーが微妙な顔してイスをどけてるぞ。

 

 佐藤先生、信じていいんだよな? 頭シュガーじゃないよな?


 と同時、園児たちの目つきも少し変わった。

 ここで負けると自分の夢が除外されると気づいたらしい。


 これは、激しい戦いになるぞ……。



−−−



「じゃあ、音楽かけるよー。止まったらイスに座ってね!」


 佐藤先生の声でゲームが始まる。

 佐藤先生がコンポで音を流す。止まるタイミングは先生が停止を押したときだ。

 

『〜〜〜♪ I was born to love you〜♪』


 いやそれはどうなの。確かに盛り上がるけども。意味分かんないよ園児は。いや意味わかっちゃ困るところもあるんだけど。


 音楽と同時に園児たちがイスで作った円の周りを回る。

 わーきゃー言いながら回る。


『ユアザワンフォーミッ、アイアムザメンフォッ』


 切れた!


「「「ガチャガチャわーきゃー!!!」」」


「取れた!」

「やった!」

「よゆー!」


 当然俺も取れた。これだけ人数がいて座れない一人になるわけがない。

 座れなかったのは…


「あらーみーちゃん残念! さ、みーちゃんの夢は!?」


 座れなかったのは園児初マウントである泥団子の時に関わったみーちゃんだ。


「んー、んー、私の夢は、お嫁さん!」


 絵をみんなに見せながら恥ずかしそうに答えるみーちゃん。

 字が書けなかったのだろう。園児ならではの絵が描かれている。


「いいねー! きっと素敵なお嫁さんになれるよ! はい、じゃあ自分のイスと一緒に外に出てね! ……いいなぁ夢見れて私なんかもう24歳よなのに彼氏もいないし結婚なんて夢のまた夢もういい年なのに実家帰るとお母さんがうるさいし周りは彼氏いるしもうほんとどうすりゃいいってのようんたらかんたら」


 みーちゃんがモブ男が座っていた自身のイスを持ってゲームの外、壁際に行って座る。

 先生がなんかブツブツ言い出したがよくわからんので急かす。


「せんせーい、つぎー」


「はい、じゃあみんな立ってー。次行くよー」


 早速第二回戦が始まる。


『とんでとんでとんでとんでとんでとんでとんでとんでとんで、まわってまわってまわってまわ〜るうううぅぅぅ〜〜〜』


 次はその歌かい! 確かに回ってるけども! てか曲変えるのね!


「あはははは」

「なにこのきょくー」

「まわれまわれまわれ!」


 みんな曲に楽しみながら回る。こころなしか先程よりも速度が速い。

 速度が速いと思わぬ事故に繋がる。まずいぞ。


「待て! 急ぐな!」


 一人声を上げるが聞くものはいない。

 声は音楽と園児たちの声にかき消される。


『とんでとんでとんでとんでとんでとんでとんでとんでとんで、まわってまwッ』


 切れた!


「「「わーぎゃーわーぎゃー!!!」」」


 ごちゃごちゃした後、1人を除き全員が座る。


「あらー次はモブ男くんねー。ざんねーん。さ、将来の夢は?」


 座れなかったモブ男に対し先生が声をかける。


「ピッコロさん!」


 なんじゃそりゃ。


「モブ男くんはピッコロさんになりたいのね! どうしてピッコロさんになりたいのかな?」


「あのね、ちからをいれると、うではえてくるの! これでかめんライダーをたおすの!」


「そうかー! かなうといいね!」


 いや、そうはならんやろ。


「じゃ、次行くよー! ミュージックスタート!」


『回レ回レ回レ回レ回レ回レ回レ回レ回レ!』


 おいいいい!来ちまったじゃねーか!どうしてくれる!さっきまわれまわれ言ってたやつ!


「「「まわれまわれー!!!あぎゃははは!!!」」」


 クッ!園児たちもはしゃぎやがって!動きが速い!思わぬ事故の予感!


『雪月花!ッ』


 切れた!タイミングよく切れた!


「「「わあぎゃいんきえええごおおお!!!」」」


 よし!座れた!押しのけることに成功した!

 誰だ!誰が死んだ!?


「あらー美香ちゃんね!残念!」


 何!?美香がすまし顔で輪から離れていく。どういうことだ。美香がいたところを見ると…なるほど!モブ男とガッシーに挟まれているのか!

 回るのが速すぎて押しのけ合いが発生し、男子に触りたくないから避けたんだな。

 美香がいなくなるのはラッキーだし、これで美香へのマウントもできる!


「はい、みかちゃんの将来の夢はー?」


「医者か弁護士か公認会計士か外資系コンサルかデータサイエンティスト」


 こいつは何を言っているんだ。園児たちもぽかーんだぞ。


「あらーなりたいものがたくさんあっていいわねー。じゃあ、次いきまーす」


 こうして、どんどんゲームが進んでいく。

 

 俺は、秘技『縮地』を使ってどんどん勝ち残っていく。

 これは俺が考案したイス取りゲームの必殺技だ。

 

 全体的には普通に回るのと同じ速度だが、椅子の前から前を最速で動くことにより、常に体が椅子の前にある状態にしておく技だ。


 コツは、常に同じ歩幅で動かず、椅子と椅子の間らへんでは大股で、脱力して足を抜くように自然な動作で進むことだ。


 加えて、手を使う事も忘れない。


 サッカーでもバスケでもなんでも、接触スポーツは手の使い方が重要になる。

 ルールに違反しない、ファウルにならないラインで手を使うのだ。


 それはイス取りゲームでも同じ。

 腕を常に椅子の上にあるようにしておくことにより、音楽が止まった瞬間椅子の背もたれを掴み、腕から体を入れるようにドライブ。これで相手を抜き去ることができる。


 これが高校生までひたすらお外で遊んできた者の力だ。

 貴様ら園児とは違うのだよ。



−−−



 そうこうしている内に、とうとう残る3人になった。


 残っているのは腹出照子はらで・てること澤我塩だ。


 テルコはその持ち前の体の幅で前後の園児を押しのけて勝ち残った。


 ガッシーはその持ち前の騒がしさで前後の園児を押しのけ勝ち残った。

 

 テルコなんて本気になりすぎて、裏では付き合っているイケメンの池照男イケ・テルオを押しのけて勝ち残ってきている。


 池を倒した時は思わずと言った感じで悲鳴を上げて謝っていたが、それだけテルコは本気だ。


 ガッシーはとにかくうるさい。

 美香にマウントを取る気もなくなった。

 俺もこいつに触りたくなくなったし近づきたくなくなった。


「とうとうあと3人ね!それじゃ、あと2回!スタート!」


『まわれまーわれメリゴーランッ♪』


 さて、どう勝つか……。


「「「あははなにこれーまわれー」」」

「まわれまわれえええええええええ!」


 周囲の園児たちの声とガッシーの声が同じくらいの音量だ。

 近くにいるガッシーはとことんうるさい。


 ハッ!?まさか!

 こいつ、大声で音楽を聞こえなくして、音楽が止まった瞬間を誤認させる戦術だったのか!?まさか!?


 ック!しかたない!ここはのる!


「『言葉より本気な』!」


 重ねて歌う!歌詞を知っているアドバンテージだ!


「『らららラーブラーブsッ!』」


 止まった!


「ソ〜〜〜〜ング!!」


 大声で歌い続けながら椅子に座る!


 テルコは反応できていない!


「「よっしゃあーーー!」」


 男二人の声がこだまする。

 テルコは悔しそうだ。

 持ち前の幅も、反応できなければ無意味!


「あらー紅一点、残っていたのに残念!じゃあ、将来の夢は?」


「スーパーモデル!」


 テルコは元気にそう言った。

 スーパーモデル?モデルとは違うのか?

 なんかスーパーって付くとスーパーハイパーウルトラミラクルロマンチックマスターボールみたなガキっぽさが出て笑えるな。


「なれるといいねー!(棒) はい、じゃあ次は最後ねー!二人で一つの席を奪い合う!ヅキくんが自分の夢を守るのか!それとも一番最初に夢を除外された我塩くんがヅキくんの夢を奪うのか!?」


「ヅキ、悪いな、おれが勝つ。お前の将来の夢はおれがもらう」


 ガッシーが声をかけてくるが、意味がわからない。


「は?お前に俺の夢は渡さない」


「言ってろ。ちなみにこれは何が書いてあるんだ?」


 ガッシーはまだ字が読めない。


「金持ちの奥さん」


「は?」


「金持ちの奥さん」


 理解できていないようだ。ガッシーはバカだからな。


「ふたりとも準備はいーい?」


「はーい!」

「はーい……いや…金持ちの奥さんにはなれねえだろ……」


 ガッシーは釈然としない様子。

 いいね。精神攻撃は基本。メンタルから落とし込む。


「じゃあラスト!ミュージックスタート!」


『あの地平線〜輝くのは〜♪』


 椅子は一つ。園児は二人。

 ガッシーはさっきまでの騒がしさがなりを潜めている。

 俺は減速移動と縮地を使い続ける。

 リズムが難しいし、動く距離が大きいため疲れるが、これがラストだ。そしてむしろ、疲れるが距離が大きい分ガッシーとの差を付けられる!全力で行く!


 これも歌詞がわかる!歌い続ける!戦いながら歌い続ける!俺の歌を聞け!


 ガッシーよりも騒がしく、歌うことにより音楽を誤認させる。

 常に移動しつつもデッドゾーンを縮地で短縮。

 腕の位置に気を配り、その瞬間に備える。

 完璧だ。

 来い。来い。来い。

 シュガー先生、早く。来てくれ……!


『地球は回る〜♪君を隠して〜♪』


 まだか、まだか!!!


『ぼくらをのせて〜ッ』


「「!!」」


 来た!うおおおおおお!!!


「「うおおおおおおおお!!!!」」


 俺のほうが座面に近い!腕を入れる!そこから体を入れる!


「よっしゃあああああ!!!!」

「ぎゃあああああああ!!!!」


 目の前には崩れ落ち、床でじたばたするガッシー。

 勝った!

 約束された勝利の勝利!


「「「わああああああ!!!!!」」」


 クライマックスを見届け、周囲の園児たちも大盛りあがりだ。


「ヅキくんおめでと〜〜!」


「「「おめでと〜〜〜!!!」」」


 みんなから称賛される。

 なんて気持ちいいのか。


 王様のようにふんぞり返り、目の前の床では敗北者が釣り上げられた魚のようにビクンビクンッ!している。ガッシー、やつは敗北者じゃけえ。


「ちなみに、ヅキくん、ヅキくんの夢はなんなのかな?」


 シュガー先生に尋ねられる。


「金持ちの奥さんです!」


「「「「????」」」」


 シュガー先生含めわかっていない様子。


「最強、みんなの頂点、マウント界の王にはふさわしいでしょう?」


「いや、奥さんにはなれないと思うよ、ヅキくん」


 シュガー先生が急に現実を見せてこようとする。


「いや、でも、確かに、今は難しいかもしれないけど、世の中の流れ的に?将来的に?男の子でも奥さんになれるかもしれないね!頑張ってこうね!」


 そうだろうそうだろう。

 マウント界の王に、俺はなる!

 敗北者にはならない!


 周囲を見ると理解できていない様子の園児たち。

 イス取りゲームというフィジカルで優勝し、将来の夢という頭脳面でも俺の方が優れていることが図らずも証明されてしまった。

 

 ああ、最高だぜ。

 今日は最高だ!

 これだからマウントはやめられない!




その頃、大部屋の隅っこでは…

美香「ヅキってばほんと馬鹿」

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