まう☆キャン
「こないだの遠足楽しかったなー!」
すぐ隣からデカイ声が聞こえてくる。ガッシーこと澤我塩だ。相変わらず騒がしい。それも、今日何度目かもわからない同じセリフだと、ウザさが倍増だ。
「あーこないだの遠足楽しかったなー!」
シカトだシカト。俺は今日は何でマウントを取るか考えるのに忙しいのだ。
「なあーヅキぃ〜」
隣から肩を掴まれて揺らされても知らんぷりだ。
「また山行こうぜ〜」
やだね。幼稚園児の体力じゃ疲れるんだよ。行きたくない。
「そうだヅキくん、キャンプはどうかな? おにいちゃんがゆるいキャンプのアニメをみててね」
昆虫大好き、爬虫類はもっと大好き、十影和仁君が声をかけてくる。
「キャンプ!」
ガッシーは乗り気だ。
「お、いいじゃん。みんなでキャンプ行こうぜ」
それにイケメンの池照男が乗っかる。
「キャンプか…」
ぶっちゃけどういうものかはよく知らないが、山登りよりは断然動かないで済むだろう。ゆるいキャンプ、ってのもあるみたいだし。
「悪くないかもな」
こないだみたいに沢山の園児の前で、とはいかずいつメンの前で、ってことになるだろうけど、マウントを取るチャンスかもしれんし。
「キャンプ!」
「よし、他のやつも誘うか」
「ゆるいキャンプしようね」
決まったな。キャンプ(何をするかはわからんが)でマウントを取る!
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普段電車に乗るときはもっぱら都市部行きの上り電車に乗るのだが、今日は下り電車に揺られている。
土曜の昼過ぎ。家の最寄り駅から乗ったときはそこそこ人がいたのだが、だんだんと乗っている人が少なくなってきた。
「いっせのーせ2!」
騒がしい園児が遊びだす気になるくらいには。
「はい池の負け〜!」
キャンプに向かうメンバーは俺、池、ガッシー、十影くん、テルコこと腹出照子、俺が転生後泥団子による初マウントをキメたみーちゃん、の園児組に加え、十影くん兄、十影くんの両親、池の父、ガッシーママ、俺の母、の計12名。別行動の十影くん父を除けば、結構な大所帯だ。
もう電車内はまばらになり、ペアレンツの誰も遊ぶ園児を止めもしない。向かうは山の中、都市部からも郊外からも離れたキャンプ場だ。
景色も平地ならではの遠くまで見通せるものから、すぐ近くを木が覆う山、線路より低いところを流れる川、などが見えてきている。園児たちは遊ぶのに夢中で注目はしていないが。
「お!赤3!!」
かく言う俺も美香からかっぱらってきた我が家で一台のDSでみーちゃんとマ●カをしている。
そう、かつての幼少期、いや、今や今このときだが、良い子にしてたという理由で美香はDSを買ってもらっていたのだ。比較対象は当然かつての俺である。
前世では美香はDSで遊ぶといつも隠しており探しても見つける事ができず、下手に漁ろうものなら関節技をキメられていたものだが、今や俺の中身は高校生。いくら美香といえどもかつてのようにあしらわれるだけの俺ではない。見事隠し場所を看破し、こうしてみんなでDSをやろうと持ってきたのだ。ざまあみろ美香!へっ!出し抜いてやったぜ気持ちいいー!
ただ誤算があるとすれば、みんなは持ってきていなかったもしくは持っていなかったのだ。仮に持っていたとしても、「キャンプにまで持ってこないよー。ヅキはこれだからバカだよなー」とのことだった。ふざけやがって。キャンプにだって持ってくだろ。
そこでただ一人DSを持ってきていた、実は親が金持ちで世間知らずバカのみーちゃんと二人でマリ●をしているのだ。
赤3と聞いたみーちゃんは動揺しているが、実は緑3だ。CPUのアイテム攻撃で出遅れたが、これで防御を固めたまま抜きにかかることができる。
精神攻撃を加えつつ、中身は高校生の●リカ技術でアイテムに頼らず抜き、そのまま防御を固めるのだ。
「はいー!また優勝ー!」
たけのこカップでも優勝した。みーちゃんもなかなか上手いが、やはり年季の違いだな。
「うーん、ヅキくん強いねー!」
みーちゃんが素直に称賛してくる。こいつほんといいやつだな。だが騙されてはいけない。こいつは前世で小学生の頃からは俺のことを小馬鹿にしてきたのだ。今のうちにナメられないように上下関係を徹底的に植え付けておかねば。もっとマウンティングじゃ!
ちなみに十影くん兄は小3だがスマホでずっとゆるいキャンプアニメを見ていた。将来有望すぎる小3だな。
子どもたちは子どもたちで、親たちは親たちで会話の花を咲かせていると(この場には池父しか大人の男がいないが、イケメンすぎて十影くん母、ガッシーママ、俺の母から猛攻撃を受けていた。おいお前ら)、目的のキャンプ場の最寄り駅についた。
全員で駅から10分ほどのキャンプ場まで歩く。
キャンプ場につくと、車で別行動していた十影くん父が先に着いていた。
「こんにちはー。どうもみなさんはじめましてー」
「「「こんにちはー」」」
どうやら十影くん父は爬虫類博士だか大学教授だかで、フィールドワークとかなんとかでキャンプ、もとい、自然の中での外泊にとても慣れているそうだ。
そしてついに、今まではいくら誘っても外に出る気がなかった十影くん兄が弟たちのキャンプに着いていきたいと言い出して張り切っているらしい。
「はーい、じゃあみんなそれぞれ分担して荷物持ってねー」
子どもたちにもそれぞれ適量の荷物を持たせ、みんなで駐車場横の管理室の脇を通り、木製の階段を下る。するとすぐに木に囲まれた広場に出た。ここがキャンプ場のようだ。
「向こうの階段をさらに下ってくと川に出るからね。テントと荷物整理、夕食の下準備ができたらみんなで遊ぼう!」
「「「はーい!!!」」」
まずはテントだ。とはいえ前世でもやったことがないし、幼稚園児の力ではできることは少ない。
「ここに荷物置いておくから、みんな見ててね!お母さんたち、テントの組み立てをするから」
ペアレンツは手慣れている十影くん父が一人で、池父と一緒にやる権利を勝ち取ったガッシーママの二人がめちゃくちゃ楽しそうに、悲壮感の漂う十影くん母と俺のお母さんが二人で、計3つのテントを立てている。
ということで我々は荷物の監視係だ。
と言ってもすることもないので事前に調べていたことでマウントを取るか。
「なあ、今回はテントの設営から始まったけど、本来だったらもう一つ、やらなきゃいけない大事なことがあるんだぜ。ガッシーなんだと思う?」
「えー、なんだろ。うーん、食材あつめ?森に入ってきのことかとってくるとか」
「そこまで本格的な話じゃないよ。簡単さ。トイレだよ。ここはキャンプ場だから向こうにトイレもあるけど、キャンプ場とかじゃなくて自然の中ならまずトイレを自分たちで作るんだ」
「ええ、トイレを自分たちで作る……?」
「ヅキくん、よく知ってるね!」
ガッシーはよくわかっていなさそうだが、十影くんが盛り上がった。
「そうなんだよ、土を掘ったりして、排泄物を埋めて処理するトイレを作るんだよね。お父さんがよく話してくれるんだ!」
十影くん父は何をよく話しているんだ……。
それに、さすがキャンプのプロの息子、知識があるっぽい。下手なにわか知識でマウントは逆にマウントを取られる、通称『マウント返し』を食らうかもしれない……。
「そ、そうなんだよね。土を掘ったりするんだよね」
思わず震え声になってしまう。
「でね、トイレを作るときのも注意点があって、テントから近すぎると臭いし、遠すぎると、野生の動物に……」
「ほらほら十影くん、ここには女子もいるんだから、そろそろ他の話にしようか!ほら、あの鳥さんはなんて鳥かな!?」
建前の通りの事情(女子二人がうえーという顔をしていた)もあったので、強引に話をそらす。
「うん?あれはね……おお!カワセミじゃないか!色でわかりやすいよね」
「あ、ほんとだ、キレー!」
「キレイだね!ヅキくんよく見つけたね!」
お、棚からぼたマウント。女子二人にウケて、みーちゃんが再び俺のマウントの流れに!
「まあね!キレイな鳥だったからね!ほら、この鳴き声なんか…」
「この鳴き声はコマドリだね!日本三鳴鳥といって、特に鳴き声が美しいと言われている鳥の一つで……」
……誰かこいつを止めてくれ。
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十影くんがいるところでは二度と生物関連でのマウントは取らんぞ。
そう心に決めた頃、ペアレンツのテント設営が終わったようだ。
みんなでそれぞれのテントに荷物を入れる。
「よーし、川に遊びに行くぞ〜!」
「「「わああああ〜!!!」」」
十影くん父にみんな付いていく。
池父と3人の母は夕食の準備をしつつテントの前でお留守番だ。
階段を下り川岸に来る。するとめいめいに遊びだす園児たち+小3。もうこうなったら大人一人では制御できない。
「川の奥には絶対に行くなよ!小さくて浅いからって絶対にナメるな!絶対だぞ!!!」
「「「はい!!!」」」
十影くん父がいきなり怖くなったからみんな一斉に答える。答えるがもう止められない。大人一人でできるのは危なくないように監視するだけ。ちょっとでもなにかして目を離すなんてことはできない。
「ヅキ!なんだそれ!すごいな!」
俺が騒がず一人で川岸の石を6つほど積み重ねていると、ガッシーが気づいたようだ。
「どうだい、石を積み上げるなんて誰でもできるけど、このゴツゴツでバランスの悪い石を積み上げる、のはなかなか難しいんだぜ?」
「うお、ほんとだできねえ!」
「ヅキくんすご!」
「ヅキくんの隠れた特技!」
ガッシーとみーちゃん、十影くんが反応した。みんなでチャレンジするが、3つめすらなかなかできない。俺は前世で高校をサボってひたすら川でこれを作りまくってたからな。幼稚園児には負けんよ。
ちなみに池とテルコは二人の世界を作っていて、十影くん兄は乗り切れなかったのかテントに戻っていった。
3人が四苦八苦しているうちに7〜9個の石を積み重ねた塔を作りまくる。もうそろそろ俺は孔明を超えられるかもしれない。
だがそれも20個くらいを超えた頃には飽きてきた。そろそろ違うのやるか。
「おい、ガッシー見とけよ」
「うん?」
ガッシー以外の2人もこちらを見たのを確認し、川下に向かって石を投げる!
ヒュンッ!チャッチャッチャッチャッチャッビチャ!
「クッ、6回か……」
「おおおおすげえ!」
「水切り、だね!ヅキくん!」
「わたしもやるー!」
石を積みながら見つけていた薄く丸く、丁度いい重さの石を投げたのだ。
これも前世のとき中学校をズル休みして川岸でひたすらやりまくっていた。警察に「学校はどうしたの?」と声をかけられたのもいい思い出だ。
「難しいー!」
石の質と投げるコースが大事だからな。俺の中学3年間をかけた目と技術がそう簡単に超えられるわけがない。
「ヅキ、面白そうだな」
みんなで水切りをやっていると、途中から池たちが混ざってきた。みんなで回数を競ったりどれだけ大きい石でできるかとかを競う。
そうして水切り以外にも色々と遊んでいると、空がだんだん暗くなってきた。
「おーいそろそろ上に戻って夕食の準備をするぞー」
俺たちを見ていた十影くん父が声をかける。
いつの間にかお腹も減ったし、疲れた俺達は素直に従って階段を登りテントに戻る。
このあとは夕食の準備だ。
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ところがどっこい、昼寝もせずに遊びまくった俺達は準備に関しては戦力外。うだうだ言っていたら怒られ、すねてテントに引きこもった5秒後には眠っていた。
起きたら木が焼ける匂いがしてきて、みんなを慌てて起こして外に出た。
「あ、ちょうどいいところに。火は起こせたからあんたらも焼きなさい」
テントに戻ってきたのは16時頃だったが、今は17時頃か。だが山に囲まれていて薄暗いので正確な時間はわからん。
「「「はーい」」」
寝て回復した園児たちも自分でトングを持って野菜や肉を焼く。
「みろ!肉が焼けたぞ!」
「焼けたじゃないわよ!それじゃ焦げたじゃない!」
ガッシーはいつもに増して騒がしいし、テルコは食べ物に関してはいつにも増して真剣だ。
「ほらヅキ、野菜もうまいぞ。この焼き肉のタレで」
池は性格までイケメンになったのかめっちゃ周りにも食べ物を展開する。
「ジュースもあるよ!」
みーちゃんは気が利く女に目覚めたのか積極的にサーブしている。
当初のプランではここでもマウンティングをする予定だったが、正直それどころではないくらいお腹が減ったし、みんなでやるバーベキューが楽しい。
焼いたそばから食ったり、みんなで焼き加減を話し合ったり、いろんな調味料やソースを試したり。
大人たちがビールを飲んでハイテンションになっているのもあるのか、みんな楽しそうにあっという間に時間が過ぎた。
「片付けは寝てたあんたらがやりなさい!」
鶴の一声でゴミを分別してビニール袋に入れ、道具を軽く洗ってビニール袋に入れたり水気を切ったりする。
でもそれすら楽しい。みんなで対等に、同じ鉄板の飯を食う。
バカにされていた前世じゃなかったことだ。
なんかこういうの、楽しいな。
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片付けも終わり、簡単なシャワーも終えて、シートに寝転んで星空を見上げる。
月が出ていないので、平地の都市部や住宅街じゃ見れない光景が広がっている。
「キレイだねー」
誰かがつぶやく。
「なあ、知ってるか。地球って丸いんだぜ。ドッジボールのボールみたいに、たまになってんの」
思わず知識マウントを取る。
「へえそうなの」
「知ってる。うちにちきゅうぎあるから」
「じゃあ地球儀のどこに、俺達がいる日本があるかわかるか?」
「……。」
「地球儀でいうと、ほんとに小さいんだぜ。俺らのドッジボールでいうと、あの数字の4くらいの大きさなんだぜ」
「ちっさ」
「まじかよ」
「そんで日本の中に都道府県があって、さらにその中に俺たちの住む街があんの。ほんと、俺らってなんなんだろうな。なんで、こんなことしてんだろうな」
ささやきともつぶやきとも取れない言葉を交わしあったあと、静寂が訪れる。幼稚園児には難しすぎる話をしてしまった。いや、高校生であっても、大人であっても難しい話かもしれない。
どこか遠くから「わん、わん」と声が聞こえてくる。動物の声が遠くから聞こえるなんて、ほんとに自然の中にいるなあ。
「ほら!みんな中に入って寝なさい。風邪引くよ」
会話が終わったのを寝そうになっていると思ったのか、テントの中から声がかかる。実際みんなもう本当に眠いので、それぞれのテントにみんな入っていく。
だけど、ガッシーママだけは逆に入れ替わりで外に出ていく。
「あれ、ガッシーママどうしたの」
「ちょっとトイレ行ってから寝るの。次は私の番だから」
そう言って、トイレの方に歩いていくガッシーママ。確かに、大人の二人くらいがトイレに行っていたっけ。まあもうよくわからん。他のテントに戻ってきてたのかも。てか眠い。もう寝る。
今日は楽しい一日だった。なんかいい夢が見れそうな気がする。
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翌朝、簡単に朝食を作って食べた。
子どもたちは疲れ果ててたおかげでよく眠れたのか、朝からみんな元気だった。
だけど池父だけはなんか疲れた表情をしていた。ママたちもみんなお肌もツヤツヤで元気そうだったのに。
十影くん父は撤収作業にまた張り切り、十影くん兄に色々教えていた。
最後までみんなで協力して片付けをし、十影くん父以外は電車で帰宅の途についた。
池父以外はみんな本当に元気で、楽しい時間だった。
キャンプ、いいかもな。また来たいかも。
生まれ戻ってから、マウント以外でこんなに楽しいのは初めてかもしれない。
「ただいま〜」
「おかえり〜」
笑顔で玄関の扉を開ける。すると、笑顔の美香が出迎えてくれた。
「ヅキ、覚悟しなさい」
やべ、DS、パクったの、忘れてた……。




