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第14話 マウンティングマウンテン

ついにブクマしてくれた方がいて、総合ポイントが付きました……!(泣)

ありがとうございます!!がんばります!!!(号泣)

「お前って歩くことも下手なの?www」


「徒歩が苦手ってもう他にできることないだろwww」


「トホホ……ってかwww」


ーーーーー


ーーー



 おはようございます。毎日のようにこんな目覚めを繰り返しているのでだんだんと慣れてきた自分がいる。良いんだか悪いんだかよく分からないけどね。

 適応力と言えば、最近は幼稚園児であることにずいぶんと慣れてきたように感じる。それほどこの環境が自分に合っているともいえるし、これまでの環境がいかに酷いものだったということも実感できる。いやはや、あの奇妙な神にも感謝だな。


 だが、それに満足していてはダメだ。せっかくいい局面をもらったのだから、しっかりと活かさないともったいない。俺がこの世界でするべきことと言えば、言うまでもない。


 ーーー最高のマウンティングチャンスは、準備を怠らない者にのみ訪れるのだ。

   鈴木ヅキ


 そう、俺はいま次なるマウンティングのための準備をおこなっている。というのも、俺がいま通っている幼稚園で先日とある手紙が配布されたのだ。タイトルは「遠足のおしらせ」というとてつもなく明朗なものだった。

 これが配られたとき、俺の脳内に電撃が走った。なんという素晴らしいチャンスだ。真のマウンターなら誰もが熟知している「マウンティング三原則」をすべて満たしている最強のシチュエーションだ。


 ーーーマウンティング三原則とは、

 1.非日常的状況下であること

 2.先生だけでは対処しきれず園児自ら工夫しないといけない状況下であること

 3.物理的に有象無象の園児だとできない工夫が要される状況下であること

   鈴木ヅキ


 これらをすべて満たす局面はいうほど多くない。となると、今回のこの遠足は逃すことのできないビッグイベントに他ならない。いま俺はそのために度重なるマウンティングシミュレーションを脳内で繰り返している。今夜は眠れねぇな。


ーーーーー


 数日後、勝負の日がやってきた。この日のために積み重ねた準備はどれも上質なものだ。もう俺に敵などいない!


 例によって5分前行動で集合場所の幼稚園に到着した俺は、脳内で今日の振る舞いの最終確認をしつつその時を待った。

 すると少し経った頃に聞きなじみのあるうるさい声が聞こえてきた。


「ようヅキ! 今日の遠足、楽しみだな!」


 クラスで一番のうるさい男・ガッシーこと澤我塩さわがしおだ。今日も俺の華麗なマウンティングをクラスのみんなに大声で吹聴してくれるであろう素晴らしいやつだ。

 その直後に、さわやかな声が聞こえてきた。


「やぁヅキくん。昨日はよく眠れたかい?」


 クラスで一番のイケメンボーイ・池照男いけてるおだ。こいつの注目度のおかげで、俺の素晴らしいマウンティングがクラスの女子どもにもよく伝わるのだ。


 いつものメンバーで集まっていると、先生が現れて俺たちを呼んだ。どうやらもうすぐ出発するようだ。俺たちのクラスの担任である佐藤砂糖さとうしゅがー先生によると、今日は目的地までバスで行くとのこと。まずはここが最初のマウンティングスポットということだ。


 みんながバスに乗り込むとすぐに出発した。15分ほど走ったところで早速ガッシーが絡んできた。


「なーヅキー、ヒマだー」


 こう来るのはあまりにも想定内。俺は内心ニヤニヤが止まらない状態でガッシーに返事をした。


「相変わらずだなぁ」


「なんか良い感じの遊びとかないかー?」


 これを待っていた。今日もここから流れを作るぞ。


「よし、それなら『いつどこゲーム』をしようか」


「なんだそれ?」


 俺は、カバンの中から事前に用意しておいた白紙のカードを取り出した。


「今からカードを4枚渡す。そのカードには「いつ」「どこで」「誰が」「何をした」の4パターンを書いてもらう。全員が書き終わったらそれを集めて、シャッフルしてランダムに読み上げるんだ。意外と面白いぞ」


「ヅキがそう言うなら面白いんだろうな! やろうぜ!」


「ただこのゲームは少人数じゃつまらないから、あと2~3人集めたいな」


「それなら任せろ!」


 そう言うとガッシーは近くの席の数人に声をかけて、参加の約束をこぎつけた。参加メンバーは俺とガッシー以外に、近くに座っていた池照男、腹出照子はらでてるこ十影和仁とかげわにの3人の合計5人でおこなわれることとなった。


 軽い説明ののち、ゲームが開始された。全員が書いたカードを集めて、俺が順番に読み上げていく。


「いくぞ。『昨日』『トイレで』『砂糖先生が』『爆発した』」


「うひーーーーwww なんだよそれwww」


 ガッシーが持ち前のうるささを発揮しつつ派手に笑い声をあげた。どうやら彼のツボにハマったらしい。

 それを聞きつけた他の園児どもが俺たちに注目しだした。池照男がゲームのことをみんなに説明し、そのうえでさっき完成したフレーズを伝えると園児たちにも笑いが広がった。


「ボクもやりたい!」


「私もー!」


 参加希望の園児が殺到し、用意したカードはほぼ使い切ってしまった。ただ、このゲームは参加者が多いほどわけの分からん文ができて面白いからむしろ好都合なのだ。

 園児どもが書いた追加のカードを混ぜたのちに、俺は読み上げを再開した。


「それじゃ次の読むぞー。『今日の朝』『幼稚園で』『お弁当が』『くしゃみをした』」


「お弁当はくしゃみしないだろwww」


「どういうことなのwww」


 いい具合に盛り上がっているようだ。


「はい次。『去年』『女子更衣室で』『ガッシーが』『踊った』」


「ガッシーなにしてるのwww」


「逮捕されそうwww」


 いや、ガッシーならやりかねん。それもやましい心とか一切なしに。


「次いくよ。『さっき』『交番で』『ガッシーが』『増殖した』」


「ガッシーwwwww」


「これ以上うるさくするなwwww」


 ガッシーが増えたら騒音で近隣から苦情が来るレベル。


 そんな感じでカードの消化を繰り返しているうちに目的地に着いたようで、砂糖先生が俺たちに声をかけた。


「はいみんな、着きましたよ! それでは今からバスを降りて、山に登ります!」


 今回俺たちが訪れたのは、東京の西の方にある馬顔山ばかおさんである。途中に馬の顔に似た地形があるからそう名付けられたらしい。比較的歩きやすいうえに標高もいい具合で、幼稚園児や小学生の遠足の名所にもなっている。


 先頭の砂糖先生と最後尾の他の先生に挟まれて山を登り始めた。園児どもの速度に合わせてなのでかなりのスローペースだが、それがむしろマウンティングチャンスを窺うのにはとてもちょうどよかった。


 少し登ったあたりから道が舗装されていない山道へと変わった。歩きやすい山だが、それでも山道なので足を取られる園児が見受けられてきた。噂をしていれば前を歩いていたガッシーが滑ってしまい転びかけていた。

 俺はガッシーに対し煽り気味に声をかけることにした。


「ガッシー滑ってやんのw」


「なんだとゥ?! そういうヅキは滑ってないのかよ?」


 よし、思った通りに話を誘導できたぜ。


「もちろん。山道を歩く基本は、石の上は歩かないことだ。苔で滑ったり、石が土から剥がれて落ちることもある」


「それならどこを歩けばいいんだよ……?」


「山道で一番信用できるのは木の根っこだ。あいつらは自分を支えるために深くまで根を張るものだから、木の根っこのそばの土を歩くのが良いんだ」


「へぇ~、相変わらずヅキは色々なことに詳しいなぁ~」


「だろ?」


「それならさ、他に山を歩くときに気を付けるべきことはあるか?」


「一番大事なのは崖側はなるべく歩かないこと。崩れたり足を滑らせたら下に真っ逆さまで最悪死ぬ」


「ヒエェ……」


「あとは、階段と坂道が併設されている部分は可能な限り坂を選ぶといいぞ。階段は歩きやすい代わりに体力を使うんだ」


「へぇ~、なるほどなぁ」


「ただ、最も大事なのはペースを崩さないことと無理をしないこと。自分のことは自分で管理するのが鉄則だな!」


「確かに! 聞いてたらなんかいけそうな気がしてきたぜ! うおぉぉぉぉ!!!」


 あいつ早速ペースを乱してるんだが、人の話ちゃんと聞いてたのか?

 そんなガッシーは置いておいて、我々の一行は順調に山を登っていった。


ーーーーー


 1時間半ほど歩いたら無事に馬顔山の山頂に到着できた。ここで弁当を食べて1時間ほど休憩したら下山だ。登山で最も大事なのは下山をしっかりと乗り切ることだ。ここらで気の緩んでいる園児どもに一声かけて統率を取るべきだな。

 そんなことを考えているとガッシーがこちらにやってきた。


「なーヅキー、まだ時間あるしみんなで鬼ごっこしようぜ!」


 これは好都合。そのまま流れに乗らせてもらおう。


「ガッシー、いいことを教えてやろう。登山は登る時よりも下りる時の方が遥かに疲れるんだ。ここは遊びたい気持ちをグッと抑えて体力をキープしておくんだ。そうすれば安全に下りれるし、疲れた周りの園児たちに差がつけられるぞ」


 それを聞いたガッシーは目を輝かせて頷いた。やっぱりこいつは扱いやすくて助かるな。


 ガッシーと池照男と俺のいつもの3人は他の園児がはしゃいでいるのを尻目に、昼飯を食べるために敷いたレジャーシートの上でくつろぎつつ体力を温存した。ただそうしているのも暇なので、座ったままできるような遊びをしつつ時間を過ごした。


 しばらくしたら砂糖先生から声がかかり、俺たち園児一行は下山を始めた。始めはいい具合に進んでいったのだが、段々と他の園児どもに疲労の色が見えてきた。もちろん俺ら3人は頂上で休んでおいたおかげでスイスイと軽快に歩いていく。

 その様子を見ていた十影和仁が俺らに声をかけた。


「どうしてヅキくんたちはそんなに楽そうに歩けるの……?」


 すかさず俺が応戦する。


「まず登山の基本として、登る時よりも下りるときの方が体力を使うんだ。登るときは体を持ち上げる作業だけど下るときは常に膝でブレーキをかけ続けなければならない。これが脚にくるんだ」


「なるほど~」


「さらに、日が傾いてくると日影が増えるよな。そうすると滑りやすい場所も増える。実は来る時よりも大変なのに、みんなは山頂ではしゃぎまくってただろ? 俺たちはあえてあそこで遊ばずに休むことによって帰りの体力を温存していたんだ」


「へぇーっ! そうだったんだぁ!」


 ……決まった。これが王者の論理だ。この瞬間のためだけに生きているといっても過言ではない。俺にとっての三大欲求は食事、睡眠、マウンティングだッ!!


 そこからさらに1時間ほど山を下りていった頃にやっと麓が見えてきた。疲れきって憔悴した園児どもが多数を占めるなか、俺ら3人だけは適度な疲労で済んでピンピンしていた。これが ”知能” の差だよ!


ーーーーー


 帰りのバスの中ではほとんどの園児が疲れて寝てしまって、例によっていつもの3人で色々と話していた。


「今日はヅキのおかげで助かったよなー」


「そうそう」


 ガッシーの意見に池照男が賛同する。こういうローカル・マウンティングもなかなか悪くないなと思った。これも俺の新たなマウンティングレパートリーに加えてやってもよいぞ。


「なんかもう困ったらとりあえずヅキの言うこと聞いてればいい気がしてきたわw」


「そうだね。ヅキくんに任せておけ安心だ」


 今となっては、当時の俺からは考えられないほど周りから高い評価を得ている。この感じを味わえたのもあの無能神様のおかげだと思うと、この生活もなかなか悪くないんだなぁと改めて思った。


 そこでふと思った。この生活は本当に無限に続くのだろうか。いつか終わる日が来るのかもしれないと。人間とは欲深く、何かを手に入れると失いたくないと思うものだ。俺もこの充実したマウンティング生活を失いたくない。


 そんな柄にもないことを考えていたが、考えても仕方ないと思考停止することにした。やっぱ俺は難しいことは考えずに気楽に賢くマウントをキメてる方が性に合っている。これからも一日一日大事にマウントを噛みしめていこうと思った。


……がんばりますが、この作品は20回か少し超えるくらいで完結予定です(唐突)。

作者側のとある背景で、エタることはありえません。

残る話数、駆け抜けます。

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