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第11話 乗山公園アスレチック包囲戦


「あーあーいいマウントを取る機会ないかなー」


 今日も今日とて幼稚園。


 今日はまだマウントを取れていない。


 マウントを取らなければ、今、この俺が生きている意味がない。


 そう、幼稚園児にしてこれだけの思考力を持つ俺は、高校生の時に1回死んだのだ。


 ……神様の手によって。


 神のおふざけで生まれつきバカだった俺は、そうして転生?タイムリープ?させてもらい、幼稚園相手にマウントを取ることによって前世での恨みつらみを晴らしているのだ。


 そう、前世では神様のおふざけのせいで周囲にバカにされまくっていた。


 挙げ句には日本一のバカ、超高校生級のバカと言われていた。


 あーなんかいいマウンティングポイントないかなー。


「今日は午後、お散歩に行くからねー」


 うんうんうなっていると、佐藤砂糖さとう・しゅがー先生、通称シュガー先生がみんなに声をかけていた。


 お散歩かー。こないだこれでマウント取ったしなー。


「今日は、ちょっと遠くの、大きな公園まで行くからねー」


 なに?

 それはまさか……。


「もしかしてそれって、乗山公園?(のりやまこうえん)」


「あらヅキくん、よくわかったね。初めて行くと思うんだけど。家族と行った頃あるのかな?」


「う、うん、まあね」


 思い…出した!

 乗山公園。ちょっと離れているけど、かなり大きな公園だ。


 原っぱも、遊具も、森もある、遊ぶ場所しかない子供達のパラダイスだ。


 ここでなら外遊びは何でもできる。

 ようし、今日はここでマウンティングだ!



−−−



 午後になって、みんなで幼稚園を出発した。


 道中はガッシーこと澤我塩さわ・がしおが騒がしかったり、初めて行く道を歩く園児たちが落ち着きがなかったり、ガッシーが騒がしかったりガッシーが騒がしかったりした。


 だが特に問題もなく乗山公園に着いた。


「はーい、みんな今日はこの公園で遊びまーす。遊んだら帰りまーす。あの山の向こう側、森の中は行っちゃダメでーす。上には先生の誰かが見てるから行けないけど、気をつけるよーに」


 この乗山公園大きく3つのエリアがあるのだ。


 まずは原っぱ。真ん中に気が一本生えているだけで、サッカーコートの半分くらいの広さがある。


 次に遊具エリア。原っぱと歩道を挟んで、サッカーコート半分くらいの広さのあちこちにジャングルジムやブランコ、シーソー等がある。


 最後に山エリア。山と言っても高さは2階建ての建物位のもので、遊具エリア側には滑り台やコンクリートの斜面がある。山の頂上から向こうは、サッカーコート全面くらいを使いながらなだらかな下り坂となっている。この頂上の向こう側が森なのだ。

 ここに入ってしまうと先生たちの目が届かなくなるため、シュガー先生が行っていることは、それより先には行ってはいけない、ということだ。


「それじゃーここからは自由行動!先生が声をかけるまでは好きに遊んでいいからねー!大体1時間半くらいかなー」


「うおおおおおおお!!!」

「わあああああああ!!!」

「ヒャッホウゥーー!!!」

「遊ぶぜエエエエエ!!!」

「汚物は消毒だああ!!!」


 シュガー先生のゴーサインが出た瞬間、ハジける園児たち。

 こいつらさっきからソワソワしまくっていた。


 ま、それも当然だ。


 目の前には広大な原っぱ。巨大な遊具。見上げる山。これでテンションが上がらない子供はいない。ここは子供の楽園なのだ。


「おいヅキ!なにするよ!?えぇ!?」


 すぐさま俺に声をかけてくるのはガッシーだ。近くには同じくウズウズしているイケているイケメン、池照男いけ・てるおやその他がいる。

 いつも遊ぶイツメン以外の、そこまで仲良くない子たちは走り出して行ってしまったが、みんなの多くは早くなにかして遊びたくしつつも留まっている。


「俺は、この公園に、来たことがある」


「「「!!??? なん…だと……!?」」」


「故に、俺はこの公園を知り尽くしている。俺に任せておけ」


 みんなの視線を一身に浴びながら、話を続ける。


「まず、ブランコやシーソーは仲間はずれが出るから論外だ。それに、これだけ広く、アトラクションが多い公園を広く使わないのはもったいない」


 うなずく全員。


「つまり、必然、全員でやるとなれば……鬼ごっこだ!」


「……。」


 みんなの半数が微妙な表情を浮かべる。運動が苦手な子とかだ。


「だが、安心してほしい。原っぱエリアは禁止だ。使うのは遊具エリアと山エリア。山エリアは滑り台と坂以外は植木が生えていて隠れやすい。遊具エリアは言わずもがな、逃げるときの障害だらけ。頭を使えば誰でも戦える!」


「「「お、おお〜……」」」


 あまりピンんきていない園児たち。だが俺には前世の記憶がある。何度かの散歩でこの公園に慣れた前世の俺たちは、この制限エリア鬼ごっこの虜になったのだ。

 それでも運動が苦手な子は原っぱに行ったりシーソー等単体遊具を使ったりしていたが、多くの子はこの鬼ごっこで時間も忘れて遊んだものだ。


「ま、まずは実際に見てみよう。まずは俺について来い!」


 そう言って、みんなを引き連れて歩き出す。


 遊具を回りながら、実際に使っていきながら説明していく。


「これはジャングル通路。見ての通り3つの空中通路を2つのジャングルジムが繋いでいる。空中通路を行くにはこの梯子を登らなければならない」


 梯子を登り、園児のジャンプでギリギリ足を狙える高さの通路を歩き、ジャングルジムを攻略し、また通路を行く。

 これにみんな付いてくる。


「次に普通の雲梯だ。普通だ」


 普通に雲梯をしながら行く。だが、園児の半数近くは雲梯も満足にできない。できないやつらは下から戦法の眼差しを送ってくる。気持ちいい。


「次にジャングル迷路だ。通常のジャングルジムの1.5倍はある大きさだが、ところどころ足場がない。ルートによっては体を遮られることなく抜けることができる。地面を歩いても、空中を歩いても、な」


 そう言って空中ルートでスルスルと抜けていく。

 だが園児たちの中には、ただ俺に付いてくればいいだけなのに空中ルートで迷うやつ、怖がって地面ルートを行ってそれで迷っているやつもいる。これは…やはり勝てる。


「これを抜けたら目の前はコンクリ斜面だ。40度近くの角度がある。所々にある足場や手すりを使わないと、登るのは至難の業だ。運動能力だけでは登ることは不可能」


 と、言いつつこれもスルスルと登っていく。


「す、すげえ…」

「ヅキにこんなさいのうが」

「さいきんのヅキ、なんかすごいな」

「ヅキくん、かっこいい…」


 ついに園児たちから口々に称賛の声が漏れ出てくる。

 フッ。なんて気持ちいいんだ。

 特に最後の女の子の言葉なんて……って、昆虫大好き十影くんじゃないか。女の子にかっこいいって褒められたのかと思ったのに。


 みんなが、池すらも初めての急勾配に四苦八苦ビビりつつもなんとか登り終えた。


「最後にこの滑り台だ。俺たちが登ってきたコンクリ斜面とは逆側には、木の階段もある。そっちから登ってくることもできる。よし、行くぞ!ヅキ、いきまーす!」


 言って、勢いをつけて滑り台に飛び込む。足の裏を下につけ、膝を最大限曲げてしゃがみこんだ形だ。

 下がローラーになっていて、こうするとめっちゃスピードが出る。

 カーブは2回、それをタイミングを予想して体を傾け動かせば、脇の壁に接し減速することなくスピードに乗って下まで行ける。


 あとは射出と同時に飛び上がりながら着地まで空中で走る。


 バシュッ…シュタタタタッ!


 減速後は体を横にしてブレーキ!

 

 ザシュウウゥゥ……。


「「「おおおおぉぉぉぉ〜〜〜〜!!!!」」」


 決まった。着地まで完璧だ。上がる歓声。


「おれもおれも!」

「わたしも!」

「いきまーす!」


 ローラー滑り台は子供にとっての覚醒剤だ。どんな子もこの魅力に取りつかれ、キマる。


 次々に、思い思いに滑り降りてくる園児たち。


 全員が滑り終わると、ついに鬼ごっこの時間だ。


「よし、他にも回転円盤や回転地球儀とか個別の遊具はあるが、そこに逃げ込むのもあり。山の向こうと原っぱ以外ならOK!鬼ごっこの時間だ!!」


「「「いええええいいいいい!!!」」」


 残ったのは男女合わせて13人。男子が多めだが、運動能力で負けてない、むしろ勝ってるくらいの女の子もいる。


「よーし鬼決めするぞー」


「どうやって決めるんだ?」


 訊いてきたのは池。こやつ、女の子に配慮したいんだな。


「いま回ったルートを、男だけで1周する。で一番遅かったやつが鬼!でも、今回は増やし鬼でいくから、最初の鬼は交代できることにする!あと、全滅するまで続けるけど、最後の1人は優勝!」


「「「オッケー!!!」」」


 増やし鬼にすれば、大体みんな受け入れる。鬼でも厳しくないからな。


「よーし男子、位置について、よーいどん!」


 俺の掛け声で一斉に走りだす男子達。


 俺は経験と頭脳を活かしてどんどんクリアする。


 そして、2位の池に3身差を付けて1位になった!


「「「ヅキくんさすが!!!」」」


「やるな、ヅキ」


 あーやっぱマウントは最高だ……。


 ちなみに最下位はジャングル迷路で迷ったガッシーだ。雑魚め。


「よーし、じゃあ始めるk」


「面白そうじゃん。私もやる」


 始めようと思った瞬間、女の子の声がかかる。こいつは、美香だ。俺の姉であり不倶戴天の敵。その美香が取り巻きの女子2人を伴いながら参加してきた。


「……いいだろう。増やし鬼、エリアは原っぱ以外。歩道のこっちがわまで」


「オッケー」

「承知いたしましたわ」

「よろしくてよ」


「よし、始めるぞ。ガッシーが30数えたら開始な!よしみんな逃げろ!!」


 歓声を上げながら、逃げる園児たち、数を大声で数えるガッシー。


 さて、ここからは簡単だ。山の斜面にある植木(しゃがめば全身が隠れるくらい)は迷路のような作りになっている。ここに隠れながら鬼をやり過ごし、やばくなったらジャングル迷路に逃げ込む。

 立体機動において今の俺の右に出る者はいない。楽勝だぜ。


「つかまえたー!」


 お、早速一人捕まったようだ。

 加えて、鬼から開放されたガッシーの騒がしい声が遠ざかっていく。


 声のする感じは遊具の方だった。


「つかまえた!」


 はや!

 女の子の声!

 増やし鬼だから捕まえられた時に数える必要はない。すぐ近くにいたのかな?

 

「ミカちゃんつかまえたのはじめて〜」


 なに!? 美香が捕まった!? ありえん! 美香が!?

 思わず茂みから顔を出して確認してしまう。


「!?」


 目が合った…! 美香が! こっちを見ていた!


 まさかあいつ、わざと捕まったんじゃ……。


 少し場所を移動し、枝の隙間から様子を伺う。


 どうやらこちらにすぐに向かってくる様子はないが……。まただ。男子だろうと容赦なく捕まえ、自身の尖兵とし放っている。


 だが、山エリアには誰も来ない。遊具エリアのやつらを捕まえきってから来るつもりか?


 と、思いきや、1、2、3、4、、、8人、鬼が8人になった瞬間、美香が命令を出して一斉にこちらに向かってきた。


 まだジャングルジムのてっぺんでガッシーが騒いでいるのに。

 そちらには目もくれず、山エリアに向かってきた。


 茂みに隠れながら観察する。


 山を登るルートは主に3つだ。


 山に向かって右側、コンクリ斜面ルートと、左側、木の階段ルート、そして真ん中、滑り台&すべり台の真下や周りの植木迷路ルートだ。


 美香は鬼を4手に分け、自身含む2人がコンクリ斜面ルート、中央すべり台と植木迷路ルートに3人、木の階段ルートに2人、それぞれ園児を派遣し、取り巻きAを遊具エリアに残し、全体への指示出しをさせるようだ。


 かなり隙がない布陣だ。


 さすが美香。


 だが、俺は生き残る。最後の1人になるのさ。簡単に捕まるわけにはいかない。


 そろそろと俺が潜む中央植木迷路に鬼が3人、近づいてくる。


 山に踏み入る3人の内、1人は滑り台下を登るようだ。


 ま、滑り台下は迷路なんてなく、カーブが2回、つまり斜面を2回折り返すだけで、一本で繋がっているからな。


 登りやすいし、山エリアに潜むやつらの一番の逃走ルートである滑り台を押さえられる。手を伸ばせば滑ってるやつに触れる高さだからな。


 美香、あの短時間でここまで正確な指示を出すとは…。


 だが、甘いぜ。相手は園児なんだ。いくら指示が正確でも、それをその通りに実行できるとは限らない。見せてやるぜ。


 まずは山に向かってすべり台の右側を登ってきているモブ男。こいつに陽動をかける!植木を挟んですぐ上から、姿を見せ声をかけてやる!


「おい! ここ! 目の前!」


「ぬあ! ヅキ!」


「じゃあね!」


 そして、しゃがむことで一瞬で姿をくらます。加えて、少し木を揺らして、滑り台から離れるように見せかける!


 ……かかった。案の定、モブ男は滑り台から離れるように俺を追いかけようとしてる。

 だがここは迷路。そっちから行くと、簡単には上に上がれないぜ。だいぶ遠回りを、それこそコンクリ斜面近くまで回る必要がある。


 あとはこいつが上がってくるまで、かつ、他ルートから上がってくるやつらが滑り台乗り口を押さえる前に、滑り台押さえ役を釣り出すことにより逃走ルートを確保。俺は滑り台から山を脱出する!


 今度は滑り台下を登るやつの目の前に姿を現す!今度はちょっと離れた位置に!


「おーい! こっちこっち!」


 滑り台下を、誰も逃さんとばかりに慎重に登っていた、あれは取り巻きBだな。B子を釣り出す!


「あ! バカ弟!」


 なんだとてめえ。美香の弟つっても同じ学年だぞ。双子だからな。

 だが簡単に釣れたな。ま、B子は肉体派だからな。お前も頭がよろしくないんだよ。頭の良いA子は下で全体への指示出し役だからな。お前の頭の悪さ、もとい、物怖じのしなさは、滑り台を高速で下るやつにタッチするという、割と勇気のいるポジションにお似合いさ。ま、その頭の悪さのせいでタッチもできなくなるんだけどな。


 本来俺を追いかけるはずの中央右翼を進撃するやつは絶賛迷路で迷子。

 自分が追いかけるしかない、とか思ってるんだろ?バカめ。


 B子とつかず離れずをキープし、山を駆け上がる。

 順調にB子は俺に付いてくる。


 そしてついに、滑り台のスタート地点近くまで来る。

 下から見ればわかりやすいが、スタート地点は頑丈な土台の上にある。


 つまり、一段と高い場所にあるのだ。

 スタート地点の真下は、園児がどれだけ手を伸ばそうがジャンプしようが届かない。

 大人なら立ったまま届くだろうが、園児では届かない。


 俺が滑り台をスタートとする時にちょうどB子がスタート地点の下になるように調整、釣り出す! B子にとってはもう少しで捕まえられる、という距離を演出し、美香の指示を忘れさせる!


 土台を登り、周りを見ても、まだ他ルートの鬼はいない。

 むしろ逃げてきた園児が滑り台に向かってくるところだ。


 フッ。美香にしては遅い、お粗末だな。


 他の園児に先に滑り台に乗られる前に、俺が一番乗りで逃げるぜ!

 後ってのはつっかえるもんだからな!

 アディオス!


 ギュワッ! ジャアアアアァァァァ!!!


 足元のローラーが唸りを上げる。


 横目にはB子が手を伸ばす姿が見える。ざぁ〜んねん。届きませーーん。


 俺は順調に加速し、滑っていく。

 全てが順調、俺の計画通り。

 ……なんか順調すぎる。態々鬼ごっこに入ってきた美香が、だ。おかしい。


 謎の緊張感に包まれた刹那、二つ目のカーブに差し掛かる手前、風のように過ぎていく風景の先に、人影が見えた。


 すぐにその地点にたどり着く。たどり着いてしまう。


 滑り台の下から、手が伸びてくる!


「うっわぁあああ!!」


 滑り台の上、高速で滑りながら、無理くりジャンプする。


「チッ」


 今はもう通り過ぎた後ろから、舌打ちが聞こえる。


 滑り台に着地しようとしたが、カーブの後に無理くりジャンプしたせいで、うまく着地できず、勢いがついたまま腹ばいに倒れ、そのまま減速することもできず滑り台の終わり口から射出される。


 ガザザザザアアアアァァァァ!!!!


 とても先程のような綺麗な着地ではない。


 手とお腹を盛大に擦ってしまった。


 だがそんなことはどうでもいい。逃げないと!


 運動能力うんこのA子の横をすり抜ける。


 後ろも振り返らず逃げ、ジャングル迷路に取り付く。ひたすら登って、ジャングルジムの頂点に座る。


「ようヅキ。さっきのわろたわ。ちょうころんでやんの」


 うっさいガッシーは無視する。


 山の方を見やると、全方位から追い立てられ、山の頂上から唯一の脱出ルートである滑り台で逃げようとした園児たちが滑り台下に潜む美香のところで一網打尽になっている。


 最後の3人なんて特に酷い。


 実は裏で付き合っている、池の彼女である腹出照子はらで・てるこ、通称テルコが滑り台のカーブのところでひっかかって身動きできなくなり、3人がそれに突き当たって立ち往生したところを何の抵抗もすることができず捕まったのだ。


 その中の一人は池である。レディファーストでテルコを先に行かせたのだろう。美香とドッジボールで死闘を演じたあの池があっけなくやられてしまった。


「あーみんなつかまったー!」


 ガッシーが声に出す。見りゃわかる。

 そして、そう、見たところ、残るは俺とガッシーのみのようだ。


 あの時、おかしいと直感で思い、臨戦態勢になっていなかったら、油断していたら、俺は美香にやられていた。


 あの3ルートの布陣自体が陽動、おとりだったのだ。


 斜面ルートを途中で引き返し、B子が抜かれるのも予想済みで、自身で最後の逃走ルートをシャットアウトする腹づもりだったのだ。最初から。


 危なかった……。だが逃げ切った。


 これで残るは二人。ガッシーならなんとかなる。


 これで優勝は俺だ。


 山を降りてくる総勢14人。ついにジャングル迷路が完全包囲される。


 「A隊、行きなさい」


 美香の号令で、運動能力の高いやつらがジャングルジムを登り始める。


 だが池は登ってこない。切り札は温存しておくということか。


 俺はガッシーにコショコショ話をする。


「ガッシー、このままじゃ逃げ場がない。やられる。イチかバチか、ジャングル空中通路逃げよう。雲梯じゃ逃げようがないからな。もう一つのジャングルジムに行って、逃げよう」


「お、おう、そうだな、うん」


 包囲されテンパっていたガッシーはうなずく。ま、こうなればガッシーなんて口八町でなんとでもなるからな。楽勝。


「よし、俺が5数えて合図をしたら急いで降りて、飛び降りるんだ。オーケー?」


「オッケイ」


 ズドン。


「よし、いくぞ、5、4、3、2、1、今だ!」


「うおおおお!!!」


 ガッシーが騒がしく声を出しなたらジャングル空中通路の方へジャングルジムを降りていく。俺も横を降りる。そして、ガッシーよりワンテンポ早く、ジャングルジムの中程から飛び降りる。


 俺は前世でどこまでなら飛び降りて大丈夫か、死ぬほど検証したからな。


 知り尽くしているのだ。


 既に高所からのジャンプによって遠くに着地し、包囲を脱した俺は走る。


 一足遅れてガッシーも付いてくる。チッ。お前は包囲を抜けなくてもいいのに。


 二人して走る。


 ガッシーはジャングル空中通路へと。俺は……雲梯へと。


「ヅキ!?」


「ガッシー! 逃げろ! ここは任せろ!」


「ええ!? うん! ありがと!」


 バカめ、お礼を言いたいのは俺の方だ。


 向こうには池がいるのだ。遊具2つ分離れたジャングル空中通路になんてどうやったってたどり着けない。


 ならばとなりの雲梯に行くのが上策。雲梯じゃぶら下がるだけですぐ捕まるんじゃないかって? 甘いよ。雲梯は、歩くものだぜ。


 池に追いつかれる前に雲梯の上に登る。そして高くなる中央付近まで歩いていく。これで下からはタッチできない。


 これを見た池はガッシーを追いかける。


 ……ほら、辿り着く前に追いつかれた。


 ついに雲梯の周りを総勢15名の園児が取り囲む。


「やるな、ヅキ」


「ヅキ〜てめ〜」


「チッ。ヅキのくせに生意気」


「ヅキくん……///」


 俺は雲梯の真ん中で仁王立ち。いろんな感情を表情に表すみんな。ああ気持ちいい。


 ところで十影くん、なんで顔を赤らめているのかな?


「俺の……優勝だああああああああ!!!!」


 美香とその取り巻き以外の拍手の中、俺は雲梯から飛び降りる。


 そして、ガッシーの張り手を食らう。


 おいてめえ。


 まあ、良い。良い生贄になってくれたからな。マウント取れて気持ちいいから許してやる。ああ〜最高だなあ。



「B子、私の言う通りに動かなかった。後で、おしおき」


「美香ちゃん!? わたし、がんばったのに! …ヒィ! ごめんなさい! お仕置き受けます! …でもちょっとご褒美かも///」


「まあ! 美香ちゃんのご褒美……もといお仕置きなんて! わたくしも! わたくしも悪い子でした!」


 美香達がなんか言っているが、聞こえないな。うん、聞こえない。


 あー今日は最高の一日だなあ。



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