九十九回目
ぱちり。目を開けると、私は見慣れた部屋にいた。前までの記憶もちゃんとある。輪廻転生したわけではない。
この部屋は……はるかの部屋だ。覚えている。一緒に読んだ漫画やラノベが本棚に立ち並び、記憶を辿りながら開けた箱には一緒に遊んだゲームなどが入っていた。今まで通り抜けてきた世界のものが、たくさん詰まった部屋だ。
つまり、今の私ははるかなの?
「……最後の準備が整ったわ」
私の宿ったはるかの唇が開く。それはよく聞けば、最後の仕上げがある、と囁いた先程の声と同じものだ。
「最後の仕上げ……?」
私が呟くと、はるかは二重人格のように思っているのとは別なことを紡ぐ自分の唇に戸惑う様子もなく、はるかがくすりと微笑んだ。
「そう。なつみ、もうすぐ元の世界に戻れるからね」
何を言っているんだ?
戻るも何も、私は死んでいるはずではないか。それにしてははるかに憑依するという超常現象が自然になっているが。
「なつみ、今何年だと思う?」
「え、ええと……」
私が死んだのは、2020年だった気がするが、時間軸なんて、だいぶばらけてしまっている。
高校生のはるかは存在するのだから、それ以上の時間は経っているはずだが……
「西暦2050年、人間はコールドスリープの研究を完成させた」
はるかは私の答えを待たずに、朗々と語り出した。
「でも、研究なんて、一年やそこらで完成させられるものではないわ。当然、コールドスリープなんて、数十年越しじゃないと、成功も確認できない。人工仮死させて、その後どれくらいかほっといて、蘇生できるかって実験だもの」
はるかは部屋を出て歩き出す。見慣れた我が家は何も変わっていないように見えるが、はるかの他に人はいないようだった。
そのまま街へ出る。街並みは建物は変わっていないけれど、閑散としているような気がした。人気がない。
「それが2050年に完成したということは、当然その前から実験は行われていたわけ」
「まさか」
その被験者が私? そういう話の流れになっているが、俄には信じがたい。
「人間は死ぬことを怖がって、コールドスリープのカプセルの中に引きこもった。馬鹿よね。仮死したまま永遠にカプセルの中に入るなんて、死んでるのと一緒よ。……それから、経済が回らなくなって、でも人がいないから生きていくのに困らない程度の生活ができて、争い事も減ったわ。もちろん、貧困はあるけれど」
動いている人間が少ないため、世界戦争レベルのことは起こらなくなったらしい。仮死状態を維持し続けたら、死んでいるのと同じ、というのは頷けるが。
はるかの向かう先が見えてきた。巨大な白い建物だ。こんな建物に見覚えはない。
何やら研究施設らしく、様々な消毒を念入りにされた。微妙な心地だ。
「それで、さっきの答えだけれど」
迷いなく建物内を進むはるかが向かった先。コールドスリープのカプセルの一つが横たわっていた。
私は衝撃を受けるしかなかった。同時に、思考がぼやけていく。横たわるカプセルに意識が吸い込まれていく。
「今は西暦2100年。あなたが仮死してから、八十年が過ぎた世界よ」




