九十三回目
意識が戻ったのはすぐだった。ただ、衝撃的な絵面だった。
サンタクロースの格好をして、亮太にナイフを突き立てていたのだ。ふわふわとした布団はナイフに切り裂かれ、大量の羽毛を散らす。亮太の体に近いほど、その羽根は赤くぐっしょりと濡れていた。
まさか、正体不明の犯人が、サンタクロースだなんて思わなかった。クリスマスになんちゅうプレゼントを。死ぬのは人生で一度きりだというのに。
……一度きり、か。私はもう何度も死んでいるのに、おかしな話だ。もしかして、亮太を含め、今まで死んだ他のやつらも転生したりしているのだろうか。無機物とかもあるけど。
でも、「そのときの自分」で生きられるのは一度きりだ。誰も、誰の代わりもできないんだから……
例えば、私がこの体でするなら、一人の男の子を殺めたという事実を自首することだろう。もしくはバレないように逃げるか、いっそ自分も死んでしまうか……
と、そこまで考えたところでふと気づく。サンタの目から、ぼろぼろと涙が零れていたのだ。
「ごめんな、ごめんな、亮太……」
口から零れていくのは、私の意思の伴った言葉ではない。何より、今日一日亮太として傍にいた人物のものだ。
亮太の父親である。
よく考えれば、わかるからくりだった。今の時代、煙突もない家屋にサンタクロースは侵入できない。侵入したとして、不法侵入で通報されてしまう。この家は二階建てだ。部屋は他にもある。何故このサンタは迷いなく亮太の部屋に来られたのか。外から来たとして、バレないための侵入経路となるであろう窓が割られることもなく、開けられることもなかったのか。答えは簡単だった。このサンタがこの家の住人であるなら、何一つ問題ないのだ。
問題は、息子を殺した事実をどうやって妻に隠したかだが……たぶん、それは今考えてもどうしようもないだろう。非情なことを言うようだが、この人も亮太も、今となっては私に何一つ関係のない人物なのだから。
サンタに扮した父親は、冷たくなった息子を袋に詰め、サンタの格好のまま、それらしい袋を背負い、遺体を遺棄しに行く。そう遠くない山の中だった。亮太が発見された場所だ。
あとは、サンタの格好の服を焼いて捨てた。
今回の私は憑依らしい。あとはもう、知るままの結末。
海辺で酒を煽って、「亮太」と呟き、身を投げた。




