九十二回目
ふかふかのベッド、ぽかぽかの布団。
ああ、なんて人類の文明って素晴らしいんだろう、と思いながら私は目を覚ました。
私の知る世界。私が生きていた世界なのだろう。洗面所で顔を見れば、素朴な面立ちの男の子がいた。
亮太という名前らしい。いい思い出のない名前だ。保育園の頃から一緒の幼なじみで、よくいるやんちゃな悪ガキだった。
こいつの死亡は確定している。不審者に拐われて殺されるという事件があった。犯人は未だ捕まっていないが、クリスマスイブの話だったから、とても印象に残った。その後、後を追うようにこいつの父親も亡くなったという。
中学まで上がっていたら、こいつは私にどう絡んできたのだろう。それとも、無視をしただろうか。どっちでもいい。ない未来の話をしても仕方がない。
例によって、人生は詰んでいるわけだが、今日くらいこいつがいい子でいてもいいだろう。
──クリスマスイブなのだから。
今までの傾向から察するに、これは運命の日と見て間違いないだろう。これで死ななかったら、拍子抜けだ。今まで死にまくったのはなんだったのだろう、となる。
幸せな一日だった。優しい父親と母親がいて、弟ができる来年を楽しみにして。クリスマスらしく、玩具をねだったり。子どもらしい子どもでいた。
私はクリスマスに家族に甘えたことなんてなかった。せいぜい、姉に一人勉強しているところに、新しいゲームや漫画を紹介されて、一夜ばかりの夜更かしをする程度だ。サンタクロースを信じている子どもではなかったので、私はそれで満足していた。
でも、どうだったんだろうな。
ふと思う。姉は、はるかは、「お姉ちゃんらしく」するために私にそういう振る舞いをしていたのだろうか。本当は毎年毎年……いや、それどころか毎日、私の世話を焼くのを面倒だと思っていたのではないだろうか。そういう不安を掻き立てられる。
はるかのことは、正直言って、わからない。はるかの同級生でいじめっ子だった先輩に言っていた「復讐」の意味も。私のために復讐なんてするような殊勝な姉だったか? 私ははるかに都合のいいような「夢」を見させられているのではないだろうか。
『正解は近いよ』
「え……」
何か、声が聞こえた気がした。はるかに似たよく聞き覚えのある声だった気がする。
でも、辺りを見回しても、消灯して薄暗いばかりで、何もなかったし、誰もいなかった。幻聴だろうか。
そうして、私が程よく物事を忘れ、眠った頃、布団を食い破って、ナイフが亮太の腹を貫いた。




