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八十八回目

「……す……ぼす……ボス!!」

 耳元で叫ばれ、私は飛び起きた。ベッドのスプリングが軋む音。その傍らには、むすっとした顔の男性が一人。目をぱちくりする私に呆れたような視線を向ける。

「ったく、いつまで寝てんすか……」

「すまん」

 なんとなく、起こしてくれたこの男性には見覚えがある。久しぶりの異世界転生だろうか。何かの漫画のキャラだったと思う。

 と、思考を巡らそうとして、肌寒いことに気づいた。目を落とすと、自分の体が屈強そうな男性のものであると認識するのと同時、上半身裸であることに気づいた。まあ、胸や肩には包帯がぐるぐると巻かれていたりするのだが。

 ボス、と呼ばれていたこと、あまりまともとは言えなさそうな部屋の造りからして、たぶん盗賊か何かなのだろう。ストーリーを思い出せないのだが、何故だろう? 私はそこそこのヲタクだから、大抵の作品は早口紹介できるレベルなのだが。

「ほら、早く着替えろよ。飯食いっぱぐれんぞ」

「そいつぁいけねえな」

 というか私、思い出せないのになんで普通に喋れてるんだろ……体の記憶かしら?

 放り投げられた衣服を簡単に身につけ、ズボンも履き替える。なんとなく、気分が引き締まったような気がする。

 食堂、と呼べるような立派なものはなく、たまり場といった感じのところで仲間たちと食事を摂る。……まっとうな仕事ではなさそうだ。マフィアじゃないなら盗賊か?

 盗賊、盗賊な……なんか喉に小骨が引っ掛かったように答えが出て来ない。スープで飲み下すこともできない。

 そんな違和感を抱えたまま、「次の獲物」について話す。起こしに来た男性が、嫌そうにしていた。

「こないだ大物獲ったばっかじゃないすか。間を置きましょうよ」

「何言ってんだ。欲しいときに欲しいもんをぶん盗る。それが俺たちのやり方だろ?」

 何か、心配事でもあるのだろうか。気乗りしていなさそうだった。

 言っていることはわからなくはない。大物を狙い、獲ったなら目をつけられる。それが続けば、向こうからこちらを狙ってくることだってあり得る。危険だ。

 そんな危険も一つのスリルで完結してしまうボスと、看過できない部下、といった感じだろうか。やはり、読んだことがある。そしてこの先、よくないことが起きるのも、うっすらと思い出した。

 それから私は、あらゆる異世界に転生したときのことを思い出した。私はありとあらゆる世界の人物に転生し、その人生の終わりに触れた。一部、不可避のところもあったが、覚えていたからいくらでも死を回避できるシチュエーションはあったはずだ。けれど、私は抗わずに死んだ。

 何故?

 転生してきた中には推しだっていた。推しの死は悲しいものだった。それを知っていて尚、何故私は死なせてしまったのだろう。

 それは……

「ボス?」

 ごはんを食べる手を止めた私を部下が怪訝そうな目で見てくる。私はなんでもない、と告げて、残っている分を掻き込んだ。味がしなかった。

 何故って、答えは簡単だ。私は死にたくないという意識より、彼らの物語を大事にしたい。好きだから。その先にあるのが死だとしても、彼らが懸命に足掻いた軌跡を自分の都合で書き換えたくなかった。

 物語が好きだ。現実は物語のように綺麗じゃないから、私は物語が好きなんだ。

 抗うことなく死のう。その人の生きざまの一部に触れられることは栄誉なのだ。

 ──ここは、「PRIDE」という世界観。作品と同じ名前の盗賊団のボスが、今の私。ナンバーツーは決まっていないが、何かと世話を焼いてくる、盗賊には向かなさそうなあの人がなんとなくそう見られている。

 私、もといこのボスは、次の襲撃で死ぬ。仲間もほぼ全滅し、残ったのは二人だけ。半死半生で逃げる中、もう一人がボスを引き倒し、ナイフを振りかざす。

「てめえの矜持を忘れるな」

 ボスはそうとだけ微笑んだ。それから、泣きそうな顔で、首を刺し貫いて。

 海に、落ちに行く。

 冬空の寒い海の底へ、誰にも見つからないように。

 それを私は美しいと思ったのだ。そのままの道を辿れてよかったと思うのだ。

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