八十一回目
きーんこーんかーんこーん、きーんこーんかーんこーん、きーんこーんかーんこーん、きーんこーんかーんこーん……
お馴染みの予鈴で目を覚ました私。どうやら学生に転生か憑依したようである。……って、げ……
この制服、見たことある。近くの高校のやつだ。はるかの受験のパンフレットで見た覚えがある。
「志津ー? どったの、ひっどい顔してるよ」
志津、とはこの人物の名前だろう。声をかけてきたのは同級生の友達だろうか。私の知らない人物だ。よかった、はるかじゃなくて。
私、またはるかに会ったら正気でいられそうにない。何を考えているのかわからない。何なの、あの女。
「……顔洗ってくる」
「いってら」
私は席を立ち、トイレに向かう。幸いなことに迷わずに辿り着けた。まあ、学校なんて、よほど規模が違わなければ、トイレは五分圏内で戻って来られる場所にある。
さ、顔を洗って、気分を変えて……
鏡に映った志津の顔と目が合った。
「きゃあああっ!?」
私は思わず悲鳴を上げた。だって、そこにいたのは、見たことのある女だった。何度転生しようと、幾多の人生を歩もうと、「私」という自我がある限り忘れない。忘れられない。
こいつはあの日、私を屋上から突き飛ばした生徒だ。声はもう覚えていないけれど、あのとき言われたことは鮮明に思い出せる。
『あんたはあいつが「いいお姉ちゃん」を演じるための道具でしかないのよ』
私とはるかの関係に、疑念の雫を落とした。忘れるわけがない。その言葉が私の根底にあるから、私はずっとはるかが怖いのだ。
もう、本当に「いいお姉ちゃん」じゃないことを悟ってしまったから、そうと疑ってしまったから、死んでしまったから、はるかと向き合えないし、向き合いたくない。私を占める恐怖の根源は、この女の言葉なのだ。
「ははっ、いい気味」
そこに追い討ちをかけるように、聞き覚えのある声がした。私が今最も会いたくない人物。
「はるか……」
「いつも人を見下しているから、そんなことになるのよ、志津。私の復讐が成功しているようで何よりだわ」
何を言っているんだ、こいつは。今こいつは志津ではない。中身は私だ。まるで、こうなることがわかっていたみたいな言い様である。
「そもそも、後輩を屋上から突き落としておいて、よく高校に入れたものね?」
「それは……」
確かに、それは何故だろう。ただ、志津の内側からも、確かな恐怖を感じる。何に対して? はるかか? 私か?
はるかは、一体何を知っている?
かちん、と廊下の時計が針を鳴らした。私ははっとする。ここは学校だ。いつまでもこうしているわけにはいかない。教室に戻らないと。
はるかを置いて、逃げようとする。けれど、足が縺れて……転んだ先には、道がなかった。
階段を落下していく。
それを見つめるはるかの声が、やけに耳にこびりついた。
「バイバイ、志津。帰ってきて、なつみ」




