八回目
駆動音、というやつで私の意識は覚醒した。
建物が、目線より低い。巨人か。
いや、妊婦のときとは違う意味で、私の中に人がいる感じがする。
その中の子は思い切り私に呼び掛けた。
「シナプス!!」
……またロボットやないかーい。
見れば前方にはキューブからいくつもの砲弾を放つよくわからない無生物のような化け物がいた。私と同じサイズだ。実弾ばかりではなく、ビームも放っている。嘘やろ。
ここは人工的に作られた島、「ラプソディーゾーン」。世界はかつて巨大異形の手によって、滅亡の危機に晒された。被害拡大防止のため、囮領域として造られたのが、このラプソディーゾーンである。そこで生まれた少年少女たちが、生きるためにこの化け物オリニスタたちと戦うための兵器、シナプスに乗る。それがこの世界観である。
最終的にラプソディーゾーンはオリニスタを道連れにして自爆し、シナプスに乗って戦っていた子どもたちごと、塵も残さず消えてしまうが、世界は平和になった、というなかなかダークな話だ。
そのシナリオの最後まで消えない絶望感がある種の層にウケて、シナリオからは考えられないほどの人気が出た作品である。私のような闇堕ちしていた人間には堪らなかった。
先程の声からするに、このシナプスの搭乗者は漣麻琴だ。ラプソディーゾーンの行く末をいち早く知り、消されてしまう少年。
それでも彼は絶望の中、戦い続けた。オリニスタを殲滅すれば、ラプソディーゾーンは自爆しなくて済むと信じて。
同じくそれを知っていた少女、鎹奏はオリニスタが延々と現れ続ける異界の存在と知っていて、滅亡の運命に抗わず、漣のことを憐れみながら、「もう何をやっても無駄」などと冷たい言葉を投げる。けれど、「無駄でも僕は生きたい!」という漣の強い言葉に意志をぐらつかせながら、滅亡直前に、主人公である鈴鴉白兎を庇って犠牲になる。無駄なのに助けてしまった彼女の心境にも漣の言葉は影響をもたらしていたのだろう。
結局、みんな死ぬのだが。
私は漣のコントロールにより、キューブのオリニスタに攻撃した。下手に武器を使うより素手の方が強いという妙なシステムである。おかげでバラバラに砕けたオリニスタは光の粒となって消滅した。
だが、漣の危機は去ったわけではない。オリニスタはまだ向かってくる。漣のシナプスに向けて。
ラプソディーゾーンがオリニスタを惹き付けるのと同じ原理をこのシナプスに組み込んだのだ。
それでも、漣は戦った。
シナプスが壊れ、コックピットが剥がれ、オリニスタに惨殺されるそのときまで。
シナプスの私はもう動けない。オリニスタに八つ裂きにされる寸前まで、闘志を絶やさなかった彼の目を、目に焼き付けて、私の意識はぶつん、と切れた。