七十三回目
私は笑っている。ずっと笑っている。写真の中で。
その写真の私をじっと見つめる目があった。吸い込まれそうなアメジストの目となんてんを食べてしまったような目。色違いの目が、燃えていそうな色合いの目が、何の熱も持たずに私を見ている。
当たり前の話だが、通常、写真に自我などない。ただ、私は写真の中で「笑顔」で時を止められた誰かなのだ。何故見つめられているかはわからないし、おそらく「私」という自我は写真の中の人物とは全くの別人なのだろう。
私はこの写真にたまたま憑いてしまった何かなのだろう。自分が何物なのか、皆目見当がつかない。ただ、ここが自分の居場所でないことだけがはっきりとわかる。まあ、私に居場所などそもそもあるのかわからないが。
わからないなりに、色違いの彼を見ている。それでわかるのは、彼のほんの小さな感情。寂しいという思いと、それを認めたくない心。複雑なようで単純だ。冷たくなりきれない彼が、この写真を捨てたり燃やしたりするのを躊躇っている。ただそれだけ。
捨てられて、燃やされて、なんてしたら、私はどうなるのか。そんなことは私にはどうでもよかった。何故なら私は生きていない。ただの写真だ。生き物ですらない。しがみつくような生を持たぬものが、死にたくないなどと喚く必要もないだろう。
ちり、と焼けるような痛みがして、なんだと思ったら、ろうそくにあてがわれたようだ。掌に収まる小さな写真はほどなくして消えるだろう。もちろん私も消える。
願わくは、写真を燃やすことが、この人物の救いとならんことを。




