七十二回目
何故私には意識があるのだろう、と考えた。
だって私は本だ。今、人の手によってページをぺらりとめくられている。内容はなんとなくだがわかる。人間の作りものの話だ。小説とかいうやつ。
私の持ち主はプラチナブロンドの髪をしていて、聡明そうな蒼玉の瞳を持つ。ただ、私という本が何物かわからないらしく、哲学書かな、と呟いていた。
哲学だなんて、そんな小難しいことは書いていない。私に書かれているのは、なんでもないような人間同士の戯れの話だ。人間の言葉では「愛」だとか「恋」だとか言うのだったか。本である私からすれば、とてもどうでもいいことだ。
この持ち主は字が読めないのだろうか。それとも、難解な字で書いてあるのだろうか。内容の理解はできても、識字しているわけではないから、私からは何とも言えない。
これが哲学書ではなく、恋愛を綴ったものだと知ったら、この人間は私をどうするだろうか。ぱちぱちと火が弾ける音がする。おそらく暖炉だろう。私は紙だから、下らないと飽きられたら、あそこにくべられるのだろうか。
まあ、ただの紙の束の末路なんてそんなもんだろう、と思っていると、持ち主は本を閉じた。
「また読もう」
そう言って、私を本棚に仕舞った。
それから、どれくらい経っただろう。
私を囓るちんけな虫のつけた傷が、私を蝕んでいた。本は声を持たないので、誰も助けてはくれない。きっとあの持ち主は私のことを忘れてしまったのだろう。興味をなくしたのだ。それでは仕方がない。
どうせなら、火にくべられた方が楽だった、と、謎の思考を残して私は終わった。




