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七十回目

 ぽきり、ぽきり、とか弱い私の腕が折られていく。愉快な音を奏でるために。それは決して腕を折る音のことではない。

 小さい頃、なけなしの知識で遊んだ花。もうそんな些細なことどうでもよかったけれど、折られたその腕から鳴るぺんぺんという音は愉快で滑稽で、一時ばかりの心の安らぎをもたらした。そんな幼少の頃を思い出す。

 花が命だなんて、知る前の出来事だ。

 ペンペン草。またはナズナと言えばわかるだろうか。春先に咲くハートの形をした小さな葉をいくつもつける白い小さな花だ。春の七草に数えられているのもこの花だったろう。

 ペンペン草は葉の生える茎をぱきりと折って振るとぺんぺん、という音がするから、そういう呼び名がついた。ナズナだの春の七草だの難しい話よりわかりやすく、子どもの道楽だった。

 一人遊びにはもってこいで、ぼっちだった私は春になるとペンペン草で遊んで楽しんでいた。理科の授業で、植物もまた生物なのだ、と習うまでは。

 あのときの絶望と失望の入り交じった感情は、果たして何に向けられたのだろう。残酷な現実か。無知故の己の残虐さか。……幾多もの命を弄んで、勝手に孤独を紛らわしていた自分に罪悪を感じたのをよく覚えている。

 同時に漠然と世界というものの構成について考えた。花を命と知らずに摘む人間などごまんといるだろう。命と知って尚、摘む者もいる。花の命は儚いとはよく聞く文言だが、儚くしているのは外ならない人間だ。春に美しいと称える桜でさえ、散ってしまえば地面と同じで踏みつけにする。それをいとをかしなんて、人間はどうかしている。風流という言葉も。

 私はペンペン草になった。ご覧の通り、子どもに弄ばれる一時の玩具だ。全て手折られ、ぺんぺん音を鳴らしたら、そこいらに捨てられる。花にいちいち墓などない。命なのに。

 植物は動けない。だから動物にされるがままなのだ。人間は花を美しいと愛でるけれど、枯れてしまえばただ捨てる。弔いに花束を向けるのに、花は弔われない。

 折られた腕ではない部分が、ちくりと痛んだ。

 私は花以下の存在だ。

 決して幸せになれない。幸せになりたいと願っても、誰も許してくれない。何度転生しても、死しか与えられない。どれも後世のための死にはなれど、私のためにはならない死ばかりだ。

 私は無為に死を重ねている。無意味に転生を続けている。いつ終わるかもわからない、いるとも知れない神様の気紛れによって。

 もう、死に飽きた。

 どんな世界に行っても、私に幸福な人生という過程はなく、ただ無惨な死を与えられるだけ。

 好きだった漫画やゲーム、ラノベなどの世界に転生できて、最初は楽しかったけれど、今は虚しくてたまらない。

 私の意志がどこにも介在しないのだ。死ぬ運命に抗うことすらできない。数多ある異世界転生もののテンプレートすら踏んでいないのだ、私の転生は。

 こんなものに、何の意味があるのだろう?

 そんなことを考えはすれど、所詮今の私は植物なので、用無しになったら捨てられて、どこの誰とも知れない人間に踏み潰されて、土に還っていくだけだけれど。

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