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七回目

 目を開けると荒れ果てた荒野。それは草木一つ生えていない、生命の存在を感じられない空間だった。

 ここはどこか。んでもって私は誰か。

 こうも見事に荒れ果てた荒野なやつあったっけ? いや、しかし、転生先の全てが全て、私の知る世界とは限らない。少なくともさっきまでの「CUBEHUNT!!」の世界でないことはわかる。

 何故ここはこんなに荒れ果てているのだろう? そもそもここはどこなのだろう? 私は自分の目で確かめるべく動こうとしたが。

『警告、警告』

 うおあっ!? 突然機械音声みたいなものが鳴り出したぞ。脳内で。サイレンの音も頭に響いて五月蝿いな……何事だろうか。体は動かないし。

 すると、機械音声は続けた。

『マスターの指示に背くエラーが発生、フォーマット開始』

 ほあっ!? フォーマット? フォーマットって言ったらよくパソコンとかで聞く「初期化」のことだよね。私人間、フォーマット嫌。

 ……ん、ちょっと待て。私は本当に人間か?

『識別番号f-七二三、フォーマット開始』

 ちょっと待ってくれってば! 状況を理解させて!

 しかし、フォーマットは強制執行され、私の体は更に言うことを聞かなくなった気がする。

 だが、フォーマットも悪いことばかりではなかった。走馬灯みたいなものなのか、この体が見たらしい記憶、聞いた声が簡素ではあるが状況の説明にはなった。

 私の今のこの体は型番が七二三というロボットらしい。ロボットにはマスターがいて、そのマスターは男性、温和なオレンジ髪の青年で名はリロッド・ソイ。私はナッツと呼ばれている。

 これは、「一から始まる世界構築」という作品の世界だ。何が原因かはわからないが、この世界は一度滅んでしまった。全ての生命が死に絶え、何もない土地となってしまった。けれどこの滅亡は予知されていたのか、何人かの人間がコールドスリープされており、コールドスリープを解除された者たちの補助につくのが、世界の叡知を詰めた機械人形、というわけである。

 機械人形はマリオネと呼ばれ、目覚めた対象者に状況の説明を行い、ある程度対象者が状況に順応すると、対象者の補助役に回る。つまり最初は親だが、後に主従関係を結ぶことになるのだ。

 お察しの方も多いと思うが、マリオネという呼称はおそらくマリオネットからきているものと思う。マスターの指示通りにしか動けない人形だから、ある意味操り人形で間違いないのだろうが、皮肉が利いている。

 で、そのナッツのマスターであるリロッドからの最後の命令は「ここで待っていて」だった。故に命令違反でフォーマットされたわけだが、フォーマットが私の意識まで初期化しなくてよかった。

 あと、一つ言わせてもらうとするならば、これは異世界転生でいいのだろうか。

 ミギキャプは瀕死だったけど、あの後死んでしまったのだろうか。だとしたら悲しい。あんなに可愛いキャラなのに。あわよくば生きて主人公に懐いて愛でられたかった。

 まあ、いちせかでもできないわけではないが、……リロッドの性格に問題があるわけでもないし、むしろナッツはリロッドに可愛がられるわけだが。

 マリオネは自発的に喋ることができない。いや、喋ることはできるが、プログラム通りのことしか言葉にできない。故に、コミュニケーション能力がないのだ。……あれ、なんか言ってて悲しいな。

 更に悲しいのはこんなマリオネに健気に話しかけてくるリロッドなのだが。独り言を言っているようにしか見えないため、他の者からは白い目で見られていたりする。可哀想に。

 しかし、リロッドは確かいちせかの主人公だ。確か、「人間に造られたものだとしても、それが生き物なら進化の可能性はある」という名言を残している。マリオネは生き物かわからないのだが……

 あれ、でも確か最後……

「お待たせ、ナッツ」

「おかえりなさいませ」

 ナッツはなかなか流暢に喋る。おそらく滅ぶ前は高度文明が栄えていたのだろうな。

「質問です。マスターは何をしに?」

「いい質問だ。よし、来てくれ」

 なんだろう。リロッド楽しそうだな。

 リロッドは天真爛漫なよくある主人公キャラなので、他作品の中にいちせかは埋もれてしまったが、偉い人は「シンプルイズザベスト」という言葉を残している。

 私も現実ではああだったので、荒れ果てた中で喜怒哀楽を思いのままに表せるリロッドは羨ましいと思ったし、その存在に癒された。埋もれた名作でもこうして小さな心を支えていたりする。

 そうしてリロッドの後をついていくと、そこには何輪かの花と地に根を張り始めた苗木があった。

 そういえば、リロッドはこうして、植物を育て、栄えさせることを担当しているのだったか。

「見てくれよ。俺が撒いた種、こんなに成長したんだ。苗木も順調」

「認識、経過良好」

「そそ。それに綺麗だろ?」

「……キレイ?」

 うーっ、マリオネなのがむず痒いよ。マリオネは喜怒哀楽とか、感情を持たない。所詮はロボットというわけである。だから、綺麗とか美しいとかがわからないのだ。ナッツの中身である私はぶんぶん首を縦に振りたい気分なのに。

 お花綺麗だね。リロッド毎日一所懸命水やりしてたんだもんね。お花も綺麗だし、リロッドのその笑顔も満開で綺麗だよおおおおっ。

 ……というのが私の心の叫びである。

 いちせかは前述した通り、数々の名作に埋もれてしまった作品なので、原作のコミックしか媒体はない。アニメ化などもなかったため、こうして動いて喋るリロッドを見られるなんて、感動も一入だ。

「ははっ、ナッツは色々知ってるのに、感情だけぽっかりなくて面白いよな。まあ、そのうち俺がわけるように教えるよ」

「教える? 指示ですか」

「そういう強制的なものじゃなくて、あー……なんて言ったらいいんだろうな。とにかく、これからもよろしくな、相棒!」

「相棒、パートナーの意。マスターと私は主従関係。相棒は不適切と進言します」

 ナッツの硬い声にリロッドはからからと笑う。

「ほとんどずっと一緒に行動してるんだ。パートナーでもあながち間違いじゃないだろ?」

「理解。先の発言を撤回、マスターはマスターであり、相棒です」

「そゆこと!」

 こんなきらきらした人との生活が、体無機物とはいえ、体験できるとは思っていなかった。

 ……それも、ある日終わるのだが。


 形あるものはいつか壊れるとはよく聞く話だが、ナッツは壊された。

「なんでこんなポンコツがリロッドの相棒で、あたしはただの友達なのよ!」

 ──ナハ・ホワイト。リロッドと同時期に目覚め、交流も深い女性だ。まあ、女性としての特徴的な部分が見事にぺったんこな少女だが、それはロボットのナッツも同じことなので言わないでおこう。

 ご覧の通り、ナハはリロッドに憧れている。カップリングとしてリロナハはいちせか界隈ではマイナーである。ナッツが人間ならよかったのに、というのはよく言われることだ。

 何故なら彼女はナッツを壊すためのウイルスを入力し、ナッツを再起不能にするからだ。それがどれだけリロッドに孤独をもたらすかも知らず……

 警告音が聞こえる。脳内がサイレンとエラー対応音声で埋め尽くされる。

『警告、警告、悪質なウイルスを発見、除去。失敗しました。エラー、エラー、エラー、エラー、再起動のため、フォーマットを施行します。エラー、エラー、エラー、エラー、エラー、エラー、エラー、エラー、エラー、エラー、エラー、エラー……』

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