六十一回目
とんてんかんとんてんかん、と表記されることが多い鍛冶屋だが、鉄がぶつかり、火花を散らすところはそんな擬音より派手でごつい印象を受けた。実際にやれば熱いし、重い。
……と、なんで私は刀を打っているんだろう。
まあ、異世界転生ではよくあることだよね。私の転生なのかわからないんだけど。私のは転生っていうより、その人物の人生に途中から介入するって感じだよね。まあ、死んでから異世界の人物になるのなら、異世界転生で合っているのだろうか。
それはおいといて、私は「勇者の生贄」という世界観の鍛冶屋、グラークというのを今回やっている。RPGでよくいるドワーフの鍛冶屋のおっさんだ。頑固一徹な感じだったのを記憶している。まあ、テンプレだわな。
で、今は鍛冶屋だから、剣打ってるんだけど、なかなかいいのができない。そういうシーンだ。この世界の勇者、ライが、有り金はたいて頼み込んできたのである。
この世界での勇者は、タイトルの通り生贄だ。魔王や魔神、世界の危機を乗り越えるために捧げられる供物なのである。たった一人の生贄が世界を救うから、生贄は勇者と称えられる。RPGテンプレ乙なゲーム性だが、世界観が重いので、一部の層にうけた。
ライは魔神に捧げられるための供物に選ばれた勇者だ。けれど、何もしないで死ぬのは嫌だと戦う決意をしていた。魔神なんて、途方もなく強いのに。
けれど、「勇者の剣」「英雄の剣」を作るのは鍛冶屋として誉だった。だから引き受けた。供物が抗うなんて前代未聞だが、グラークもまた、この世界の有り様には疑問を抱いていたのだ。
せっかくなら、逸品を作りたい、と鉄を打っていたのだが……
焦げ臭い。どこからか、鍛治で散る火花とは訳の違う炎の燻りの臭いがしてきた。
グラークはこの火事で死ぬ。ライに剣を残して。周りがだんだん熱くなり、赤くなり、比喩ではなく燃えながら、グラークは最後まで鉄を打ち続けた。
ライにちゃんと渡せたかは、意識を失った私にはわからない。




