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六回目

 ぱちり、と目を開けると、木漏れ日の柔らかな光が私を優しく包んだ……のはいいのだが、なんか視点低くない?

 どういうことだ、と思って立ち上がるが、二十センチくらいしか視点が上がった気がしない。

 周りを見回しても状況を聞けそうな人はいないし……湖とか探してみるか。

 とことこと歩き出す。……ん!?

 歩き方の擬音がおかしくないだろうか。それに歩幅が異様に短い。走ることもできる。風のようにひゅんひゅん走れるのは前前前前前前世のお世辞にも運動神経のいいとは言えなかった私としては爽快感があっていいものなのだが、そういう問題ではない。

 思い立って、ジャンプしてみよう、とやってみて、自分の足のサイズと形の違いに気づいた。アニメくらいでしかつかないであろうぴょこん、という音でジャンプし、着地する。ジャンプするとジャンプ力が凄まじく、人間くらいの視点まで一瞬到達した。

ミニャニャニャアッ(にんげんじゃないやん)!?」

 まだ何とも出会っていないから何の世界観かさっぱりなのだが……今、叫びを上げたとき、とても可愛い鳴き声がした。自分から。

 俄には信じがたいが、目が覚めたら妊婦だったり、目が覚めたら戦闘中だったりしたこともあり、自分の転生先の衝撃ぶりには慣れてきたところだ。いや、自分よ。いつから自分は「人間にしか転生しない」と錯覚していた?

 流行りの異世界転生ものでは人間に転生するのはやり尽くされて、普段ならRPGで最初に倒されるような雑魚モンスターに転生したり、ドラゴンに転生したり、果てには無機物に転生するものまであるんだぞ? 異世界転生が人間とは限らないのはもはや常識の範疇ではないか。今まで五回も転生して、五回とも人間だったのが奇跡なんだよ! まあ五回死んでるんだけどね!

 ……ん? なんか文中におかしい響きがあったが、気のせいだろうか。

 とにかく、私は森を駆け抜けた。ミリタリズムのレンのときはターザン的だったけれど、やっぱり森は風が心地よい。マイナスイオン吸ってるって感じがする。生きている。人間じゃないけど。

 先程の自分の鳴き声から推測して、即座にマップを思い浮かべたので、わりとあっという間に泉に着いた。やはりこの世界は……

 水面を覗き込む。そこにはオレンジのウサギみたいな耳をした円らな瞳の愛くるしいもふもふ生物が映っていた。

 ミギキャプ。これが今の私の体の名前である。

 ここは「CUBEHUNT!!」というゲームの世界観である。人間より数多くいるコノミーという生き物と共に生きる平和なゲームだ。主人公は男の子か女の子かの選択のみ。一度アニメ化して子ども受けしたのだが、やっていることがえげつないとか、内容が残酷とかPTAに批判を食らって民放では放送されなくなった。

 確かに、コノミーをキューブキャッチして博士に送って生態を調べるのはいくら数がいるとはいえ、環境破壊を想起させるかもしれない。研究は健全なのだが、「コノミーコロシアム」というのがあって、自分のコノミー同士をバトルさせるイベントもある。コノミーの流血描写もあるので、動物迫害に繋がりかねないという声もあった。

 そんなに人間の子どもの倫理観は疑われているのか、と思うとショックだが、例えば、いじめをする子どもがいて、いじめられている子に手を差し伸べて好感度を得ようとする子どもがいて……最近の子どもは、残酷までにずる賢いという意見は否定できない。親の育て方の問題とかもあるが……

「イゲエエエエエエエエエッ!!」

「ミギャッ」

 私は咄嗟に水面から離れた。危険を察知したのだ。野生の勘というやつだろう。

 ずどん、と目の前に着地したのは、人間の背丈は悠に越えるであろう図体を持った大きな生き物だった。丸々としたフォルムが特徴的なこいつは、コノミーで、イケゴンという。

 イケゴンはコノミーの中でもキューブキャッチされにくく、水辺の守護者と呼ばれている。ついでに言うと、湖でも川でもイケゴンである。

 こ、これは、イケゴンが怒っている! たぶんこの泉を荒らしに来たと勘違いされている。さっさと立ち去るのが吉。

 と、踵を返したと思ったら、心地よいとは言えない浮遊感。

 そのままイケゴンの放り投げが炸裂! すごい威力だ。飛ばされた小さなミギキャプの体が木々を破壊していく。そして痛い。

 そのままどすどすと横たわるミギキャプに容赦なく踏んづけ! 内臓出るからもうやめて!

 それでもイケゴンの気は収まらず、次から次へと技を食らわせられていく私。ミギキャプといえば、回避能力の高さで有名なのだが、怒り狂ったイケゴンの前に成す術がない。

 そこへ……

「ラプチャム、雷起こしだ!」

 これは、プレイヤーキャラクター? テレビで見た格好をしている。ラプチャムという紫色の雷系の技を使えるコノミーを従えているらしい。

 だが、もう息をするのも苦しい。雷が轟音を立てて落ちるのを聞きながら、私は意識を閉ざした。

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