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五十五回目

「魔法使いになってほしいんだ」


 ──何故私は、黒髪黒目の少年にうさぎのぬいぐるみみたいなファンシーな格好でこんなことを言っているのだろう?

 もはや思考放棄したくなるレベルの意味のわからない転生先。魔法使いの妖精。

 いやね、妖精さんが女の子に魔法少女にならない? みたいな口説き方してるのは見たことあるよ。なんで男の子なの。

 まあ、そういう世界だってわかっているけれど。

 ここは「ロザリオの導くままに」という異世界転移ファンタジーの世界……に主人公が行く途中である。次元の扉の交通事故、とやらで主人公ジンは別次元に通じる扉をくぐってしまった。そこに来て、謎の「妖精を名乗るうさぎっぽい何か」から声をかけられ、魔法使いとなって、とある世界を救う、というテンプレ作品である。

 レビュー的にはテンプレ大好き人間と冷やかし人間に分かれて、特に冷やかしがひどく、一話しか見ていないのに「テンプレ乙」と草生やす大馬鹿者がいて、ろざみち界隈は荒れに荒れた。

 普通に見ると、主人公が仲間と共に心身成長していく姿が親目線みたいに微笑ましく感動的な作品である。レビュー? 触らぬ神に祟りなしだよ。

 で、私はうさぎっぽい何かな妖精なのだが。

 実はこの妖精、ろざみちの一話にしか登場しない。マスコットキャラとしてめちゃくちゃ売れたが、最終回含めて一話以外に登場した記録がない妖精である。仕事しろ。

 まあ、制作インタビューによると、あの妖精は主人公を世界に導くきっかけでしかなくて、「妖精」という形をとった人々の願いなどの「概念」的存在だったらしい。だからどこにでもいるようで、どこにもいない、ミステリアスキャラだったらしい。

 主人公のジンは特筆するような部分のない凡人なのだが、「何かになりたい」という欲求が溜まっていた。それが次元の交通事故によって、開けなかったはずの道が開けたことになるのだろう。

「世界を救うとか、そんな大それたことは考えてなかった」

 ジンは問いかける。

「でも、その世界を救えば、その世界にとっての『何か』にはなれるんだろ?」

 私はポップな声で告げる。

「その通りさ!」

 偽善だと思う。

「世界も救えて、君の願いも叶う。一石二鳥じゃない」

 選ばない手はない、と都合のいいように思考誘導して。

 ──これは私がお姉ちゃんからもらった、宝物のキーホルダー。可愛いマスコットだから、何のやつか聞いたら、ろざみちのことを教えられた。

 あの頃は純粋に見られたのになあ。

 私も何かになりたかったよ。でも、お姉ちゃんの「妹」にすらなれなかったんだ。

「それなら、僕は行くよ」

 迷いのない姿が、眩しい。

 次元の扉を抜けて、救うべき世界へ一歩踏み出すジンを見届けると、さらさらと妖精の体は砂のように溶け出した。私も思考を保ちにくくなる。

 ……なるほど、概念だから、色々な人の願いの集まりだから、私はそのうちの一つでしかない、と。

 何者にもなれない、私に相応しい転生先だった。

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