五十三回目
木に凭れて眠っていた。胸には大事に剣を抱きしめていた。
きらきら光る七色の雪が降り積もる森。とても幻想的で美しい。その森が囲うのは、一つの塔。五階くらいはあるのではないだろうか。
この世界を私はやはり知っていた。「騎士さまは裏切ら×れない」という童話風ダークファンタジーだ。
どうやら、その中の騎士さまに転生したらしい。ううむ。
タイトルで騎士さまの死亡フラグ建ってるんだよな……まあ、美しい死に方といえばそうなのだけれど。
あの塔には少女が閉じ込められている。何千年も前、世界を救うために戦い、世界の危機の根源として不当に幽閉されてしまった魔女が。
この騎士はいつかその魔女を救うのが夢だった。今は人間への恨みから呪いの権化となっていると聞いたが、ちゃんと感謝したかった。
この世界が今もあるのはあなたのおかげだ。救ってくれてありがとう。誤った選択をした人間を滅ぼさないでくれてありがとう。……そう伝えたいのだと。
森に降る七色の雪は魔女の呪いらしいから、触れてはいけない猛毒らしい。毒すらもこんなに美しくしてしまえる魔女に、騎士は興味があった。
あなたの魔法はすごい、と伝えたかった。それから、拘束を解いて、抱きしめたかった。人間が彼女に与えなかった愛を自分が精一杯伝えたい、と。
叶わないとわかっている夢を叶えに行く。塔の螺旋階段を上がる私は滑稽だ。
この物語は最後がとても美しいのだ。
「だれ……」
もうこの世の誰も信用していない少女が、塔の頂上にいた。鉄の手枷足枷を鎖で壁に繋がれて。体にある傷痕は誰がつけたものだろう。それとも、自分でつけたものなのだろうか。
騎士はそんな彼女の前に跪いた。
「あなたを助けに参りました」
ご無礼を、と短く紡ぐと、目にも止まらぬ速さで剣が振るわれ、直後には鎖が全て斬られていた。いや、自分でやっといて意味わかんない。
少女も、意味がわからない、という顔をしていた。全てのものに裏切られ、魔力故に死ぬこともできないまま、幾千の時を過ごした魔女。
「今更、解放されたって」
時代は変わりすぎてしまった。魔女なんておとぎ話の存在だ。事実この騎士も、おとぎ話として幼い頃にこの塔の話を聞いた。
そんな中で、魔女である少女は生きにくいだろう。
「俺が、何があってもあなたを守ります。譬、騎士団や国を裏切ろうと、あなただけは裏切らない。そう誓います」
少女はますます困惑した。
「あなた、魔女に誓いを立てる意味をわかっているの?」
魔女に誓いを立てるということは、その誓いを破ったら死ぬのだ。ましてや、何千年と世界を呪い続けてきた相手に……。
「それでも、俺はあなたを救いたい」
あなたを救わない世界なんて正しくない、と。
真っ直ぐに言う彼に私は幼心に憧れたことを思い出す。
そんな言葉を私にも向けてほしかったから。
だから私は騎士の誠実さをそのまま再現した。
「あなたのためなら毒だって飲んでみせましょう。俺はあなただけの騎士になる」
「……そう」
少女は跪く騎士に顔を近づけた。
「それなら、わたくしに口付けてご覧なさい。わたくしは人間にとって、毒なのだから」
少し、どきりとした。とても秀麗な少女に口付けとは……一応体は男なので、緊張する。
けれど、そっとその白い頬に手を添えて、引き寄せる。触れるだけのキス。ほんの一瞬だったけれど、確かに唇と唇が重なった。
毒に、目が回るような心地だけれど、騎士はいつまでも少女を見つめていた。




