五十回目
そこは城だった。細やかな装飾が壁や柱に施されていて、とても豪奢だ。
城でお目覚めは何回かあったが、その中で一番上等だったかもしれない。それもそうだ。
鏡に写るのは銀髪碧眼の美少年。シャルルドネ・アーヴァンシェである。まあ、世界観としては次期国王の王子さまなのだが、私が転生している時点でお察しだろう。死ぬ。
なんでこんな美形の王子さま殺すん? ってゲームに問いかけたことがあるけれど、乙女ゲームって本当理解できないよね。
これは「サイキックポーション」という乙女ゲームの世界観で、ありとあらゆる王子さまを攻略する乙女ゲームである。で、シャルルは一番攻略が難しいキャラだった。ゲームの顔なのに。
実はヤンデレ第二王子さま、つまりシャルルの弟がシャルルのことを溺愛していて、一歩間違うとシャルルは第二王子さまに殺されてしまう。
ゲームの顔攻略が最高難易度という、ね。
まあ、他ルートから見ると正規ルートに見えるし、他キャラ攻略ならシャルルは死なないのだが、ゲームの顔なこともあり、攻略しようとする乙女はたくさんいた。そして爆発四散していくのである。
私はシャルルの弟のアントワネルートを周回していたが、アントワネは前述した通りなので、攻略するのがすごい難しい。一歩間違うとこいつも死ぬ。兄と心中する。
まあ、そのためでBL二次創作界隈では「アンシャル本」が大量生産されたわけだが。そんなことはどうでもいい。
今、シャルルである以上、アントワネに殺されることに変わりはない。後からアントワネがついてくるか否かの問題である。
どっちなんだろう、と思いながら、窓の外を見つめる。ひらひらと白い花弁のように雪が舞っていた。
こんこん、と忙しなくノックが鳴る。「僕だよ、兄さん」という声は間違いなくアントワネだ。
シャルルはアントワネにとても優しいのだが、この後を知っているから微妙な気分だ。
「アントワネ?」
問いかけると、扉の向こうから至福に満ちたアントワネの声が聞こえる。うーん、愛が重いのがわかってしまう。
扉を開ければ、黒髪に黄色と赤のオッドアイの少年が立っていた。その風貌と妾腹の子であることから、アントワネは城の者からも避けられてきた。そんな中、唯一優しくしてくれたシャルルに心を開くのは至極当然のことと言えた。
「ふふ、兄さん、寝癖ついてる」
「そういうアントワネも」
城の者に世話をされていないアントワネの髪はぼさぼさだ。こういう陰キャ感に共感を持って私はアントワネ専をしていた。
しかし罪なお兄さまだ。こんなことされたらときめくしかないだろう。
アントワネも笑っていれば無害な子どもなのだが。
「あ、シャルルドネさま……ひっ」
アントワネを見た侍女がひきつった声を上げる。思わず眉をひそめた。アントワネはこんなに可愛いのになあ。
アントワネは惜しげにシャルルから離れた。
まったく、これはどうにかならんものかね。アントワネ幸せにしたいよね。
まあ、アントワネの幸せはシャルルが自分の中で永遠になるというか、シャルルの中で自分が永遠になるというか……
駄目だ、業が深いエンドにしかならぬ。
侍女に着替えさせられながら悩んだ。
公務をして、騎士団の様子を見に行き、恙無く終わる一日。
日が傾き、月が顔を覗かせる頃、アントワネがやってきた。
「兄さん、お茶を入れたんだ。甘いお菓子もあるよ」
おっと。
これはどちらかに仕掛けられているか、どちらもか。どっちだ。
「ありがとう、アントワネ。二人で飲もうか」
「うん!!」
アントワネの幸せそうな顔を見られて幸せなのでそれでよし。
晩餐の頃、シャルルは静かに息を引き取った。
アントワネに看取られながら。
「おやすみ、兄さん」




