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五回目

 びゅん、と鼻先を駆け抜けた風に、私の意識は覚醒した。

 目の前にいる黒塗りの生き物は、幼い頃の記憶を触発する。……っていうか戦闘中なのね!?

 触発された意識の下、私は得物のサーベルのようなものを振るう。年齢はおそらく前前前前世の私と同じ中学生くらい。可愛らしいふんわりとした衣装に身を包み、戦っている。

 彼女はあるときはただの中学生、あるときは世界を守るために戦う魔法少女。名を七瀬(ななせ)愛莉(あいり)という。

 名前までもが可愛らしい。イメージカラー緑の魔法少女だ。私が保育園に通っていた頃に日曜朝でやっていた「天使も悪魔も八つ裂きに」というタイトルのアニメのキャラである。今思うとなんじゃこのタイトル、となるが、あの頃は「てんやつ、てんやつ!」と日曜日も目を輝かせてこれのために起きていたものだ。懐かしい。

 まさかその中のキャラクターとして、しかも魔法少女として戦う日が来ようとは思ってもみなかった。てんやつが終わって楽しみが一つなくなったことを嘆いて泣いた小学校低学年の頃の私に教えてやりたい。

 が、問題はそこじゃない。

 てんやつの魔法少女はタイトルからわかる通り、天使や悪魔と戦うダークファンタジー。今思うと、どうしてなんでもない顔で日曜朝に放送されていたのか疑問に思うくらい重たい内容で、ざっくり言うと、人間の世界を侵略しようとする天使と悪魔を倒す話なのだ。

 今だからこそ理解できるが、これは一種、宗教戦争的側面があって、神様を信仰するか、悪魔を信仰するかというテーマが背景にあり、どちらにも染まらない、自分を貫く、という人間の強い意志を描いたものである。

「はあっ!!」

 愛莉は連続斬撃を繰り出し、天使たちが吹き飛ばされる。が、天使たちのいた地面から、黒くてどろどろした形のない悪魔が涌いて出た。

「次から次へと……」

「愛莉ちゃん!」

 そこへ駆けつけたのはイメージカラー青の香住(かすみ)マヤ。愛莉と一緒の学年で、眼鏡が特徴的な魔法少女。てんやつの主人公は留川(とめがわ)明日菜(あすな)でイメージカラーはピンクという王道なのだが、大人っぽい女の子に憧れた子たちは愛莉とマヤの「寒色系コンビ」の二人に憧れたものだ。

「射止めちゃえ!」

 マヤが使うのは弓矢。青いハートに翼モチーフの愛らしいデザインだが、その矢は放たれると同時に無数に増え、ぞろぞろと涌いた悪魔たちを射抜いた。

 うーん、今見るとえぐい。

「マヤ、明日菜は?」

「もうすぐ頂上に辿り着くって」

 ということは物語も最終局面、明日菜がタワーに登っているところだ。うん、言われるとちゃんと覚えているもんだ。小学生になるかならないかくらいの記憶なんて薄れていると思ったが。

 タワーは突然現れた天使と悪魔の侵攻拠点である。信仰と侵攻で言葉遊びをしているのはともかく、変な話だが、天使と悪魔は今、共闘しているのである。

 というのも、明日菜たち魔法少女が現れたことにより、敵の敵は味方理論で一時休戦したとかなんとか。ご都合主義は日曜朝の特権じゃ!

 ところで、これからどうなるんだっけ? 確か、明日菜がオレンジの美那(みな)とイエローの沙梨(さり)と一緒にボスと戦うんだけど、美那と沙梨は死んじゃうんだよね。大泣きした覚えがある。

 でも、仲間の死に激昂した明日菜がその秘められたパワーを解放して、ボスを倒すんだっけか……あれ、愛莉とマヤは?

 ……やっばい、完全に忘れた。

 とにかく、天使と悪魔を二人で引き付けるのが愛莉とマヤの役目。愛莉とマヤは武器こそ小振りだが、魔法少女としての力を上乗せするととにかく手数が多い。そのためタワー前で無双しているわけだが。

 っと、天使がマヤを狙ってる!

「切り裂け!」

 サーベルの斬撃が弓矢をつがえた天使を吹き飛ばす。

「キリがないね、マヤ。……マヤ?」

 振り向くと、マヤはそこにいたし、そこにマヤはいなかった。

 胸のリボンは黒い爪に撃ち抜かれ、体が黒く変色し始めている。普通なら息絶えるはずの悪魔からの攻撃だが、魔法少女であるマヤは、死ななかった。

 ただ、体を侵食されて……

「マヤァァァァァッ!!」

 ……そうだった。ここでトラウマレベルの現象が起こったから、私は記憶を封じたんだ。

 悪魔に侵食されたマヤと戦い、愛莉は相討ちする。最愛の親友との心中。当然大泣きした。友達作りたくないって家に引きこもった覚えがある。そもそもいじめられているから友達ができることはないという発想の転換で立ち直るまでは親から面倒くさかったと言われた。

 歯を食い縛り、涙を飲んで、サーベルで親友だった体を貫く。

「ごめんね、愛莉ちゃん」

 そう言ってマヤが息絶えるのと同時、愛莉に向けて侵食されたマヤの弓矢が放たれたのだった。

 その「ごめんね」の意味を私が知る由はな……

『こやつは我々悪魔に魂を売ったのだ。助かりたいがためにな』

 頬を伝ったのは誰の涙だったのだろう。

 私は愛莉の命の喪失と共に、意識が闇に飲まれた。

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