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四十四回目

 ぱちりと目を開けると、私はお行儀よく座っていた。着物がなんだか中華風だ。何気に中華ものは初めてかもしれぬ。頭が重いのだが、髪全部結い上げられてるのかな。

 建物は大きそうだ。まず私のいる部屋が大きい。学校の教室一つくらいなら余裕で入りそうだ。まさか一人のためにこんなに空間を使っているわけではないよな。

「マオ」

 名前、とおぼしきものを呼ばれ、びくりとする。

 そこには青年が立っていた。今までから例外なく、その顔には見覚えがあった。電子コミックで見た顔だ。なんだっけ。宦官っていうんだっけかな。性別を失っている人。で、城で働いている人。顔はいいのに何をどうしたら「死ぬより重い罰」を受けることになるのやら。私には想像もつかない。

「チェチャリキさま」

 私はそれらしい礼を執って頭を下げた。チェチャリキはマオ……城の下っ端のこの体の上司だ。うん、とても言い方が悪い。

 ひとまずマオが呼ばれるとしたら理由は一つ。

「昼食の時間だ」

「かしこまりました」

 心臓が嫌なひくつき方をする。マオも不安だろうし、私だって嫌だ。

 マオは毒見係なのだ。

 よくある話である。城の重鎮、つまりは雇い主や王に毒が盛られないための対策として、料理は出す前に念入りに毒見をする。ということはつまり毒見をする役というのがいるわけで、死ぬかもしれない毒見係を城の重鎮に任せるわけもなく、下っ端のマオが宛がわれているというわけである。

 マオは「毒から始める呪術講座」という漫画で一番最初に殺されるキャラクターだ。幸薄い少女なのだが、体が丈夫で、毒や薬に耐性がある。……と思われている。

 本当は体に淀んだ毒が溜まっていて、いつそれが死を引き起こすかわからない。毒が効くまでに時間がかかるだけなのだ。

 毒は見た目や味でわかるらしい。毒でも生ゴミでも食らっていなければ生きていられなかった。幸薄くはあるが、チェチャリキに拾われたことは僥倖だったと言えよう。でなければこんな広い部屋で布団の温かさを知ることはできなかったはずだから。

 まあ、マオは毒見以外は能がないので、華やかな服を着て、見世物にされる瞬間だけ、自分に価値が生まれると思っていたようだ。

 幸福なんて、私にはわからない。自分の価値もわからない。ただ、息をしているだけの生き物であるということだけが確かだ。転生を何度もしている……即ち、何度も死んでいるので、もう自分を生き物と呼んでいいのかもわからなくなってきたが。まあ、人間なだけましだろう。

 昼食一つの毒見のために化粧まで施されて。見目のいいマオはよほどいい見世物だったことだろう。

 ところで、私は毒の知識なんかないけれど、大丈夫だろうか。

 毒見の場に行くと、高官や物好きな貴族が見に来ていた。うわあ、とは思うも、席に就く。マオに拒否権はない。マオは下っ端なのだから。

 ああ、転生してからあっという間に最後の晩餐だよ。昼だけど。

 貴族さまが食べるような豪華な食事なのが救いか。

 品のある料理が立ち並ぶ中、マオが自然と呟いた。

「これ、毒じゃないけど……」

 毒よりもっと、たちの悪いものだ、と呟く。直感がそう言っている。

 この料理にかけられている、呪いがわかる。

 口にしたくはないけれど、仕える相手のためならば、死ななければならない。なんという世界だろう。

 口にした呪いはとても甘かった。

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