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三回目

 目を開けると、体は羽根のように軽かった。それはそうだろう。身重だったのだから、体は軽くて当然……ってちょっと待て。

 目を開けられる。起き上がれる。息もしている。脈がある。つまり、生きている。

 手を見つめると、華奢ではあるが、前前世の私と同じくらいの年頃であることはわかった。立ち上がると目線は慣れたくらいの……って。

 キュンッ!!

「っぶな……」

 立ち上がって全身を見てわかったが、ここはゲーム「ミリタリズム」の世界だ。二丁拳銃が腰に下がっているし、ウエストポーチが重い。そして今、明らかに狙撃された。つまり、誰かいる。安易に立ち上がらない方がいい。

 姉とやったアクションゲーム。アクションゲームは苦手意識があったのだが、この「ミリタリズム」はアクションゲームの中でも操作が楽で初心者向け。私がどはまりしたゲームである。

 ただ、アバターを作って戦うタイプなのだが、他にも登場人物はいて、この格好はおそらく、レン・シュウガという人物のものだ。つまり男。

 まだ確定というわけではないが、服装が防弾ジャケットを内側に着て、外見はシンプルなTシャツの軽装と見せかけている。ステータス的には俊敏と反射神経がよく、その速さを生かしたトリッキーな立ち回りが得意なキャラだ。

 私の推しキャラである。……まあたぶんこの情報はいらないのだろうが。

 ゲーム「ミリタリズム」では元気っ子キャラを演じているが、キャラクタークエストをクリアすると、笑顔の裏にある凄惨な過去が明かされる。

 それに……今、辺りは森。周囲に味方はいなさそうだ。レンがこの状況に置かれているということは偵察任務だろう。この状況はあまりよろしくない。

 ──なんと、私の推しキャラレン・シュウガは偵察任務中に死ぬ運命にあるのだ。ストーリーの進行上。

 ウエストポーチを探ると、小型無線機を発見する。この無線機が引き金になるのだ。

 もちろん、レンは主人公たちの味方キャラなのだが、味方キャラだと思っていたうちの一人、アスラ・ハガードに裏切られ、集中放火を受けながらも応戦、無茶のしすぎで主人公たちと通信が繋がったときにはもう瀕死の状態。裏切り者がいる、ということだけを伝えて息絶える。

 ……という、まあ死亡確定キャラにまた転生したわけだが、さて、どうしたものか。無線を使わず、このまま安全地帯まで抜けるのは難しそうだ。それに、いくらレンのステータスがあったとしても、中身の私はゲームパッドを操作していただけの人間である。一人でどうにかできるだろうか。

 とりあえず、物は試しだ。

 スキル「偵察」を使用して辺りの気配を感知してみる。

 ……うわぁ。

 四方八方を取り囲まれている。一人でやるのは無茶だ。応援要請をするのが妥当だろう。だが無線を使ったら、アスラの裏切りにより、嬲り殺しだ。

 はあ……また来て早々に死亡エンドか……なんで転生しているのかはわからないけど、ひどい異世界転生もあったものだ。

 無線を弄り、電波を調整してアスラに繋がらないようにできないか、と考えたがこういうリペアやクリエイトの能力はレンは滅法弱く、更には初心者の私が見ているので機械を弄ってどうにかする、というのはここでは無理そうだ。

 なるべく足音を立てずにこの包囲網を抜けたいところだが……

 あっ、いいこと思いついた。

 レンの身体能力なら、木を登れるし、身軽だから、木から木に飛び移れる。やってみよう。

 前前世では木登りなんてしたことがなかったが、高いところは怖くないのだ。ベランダの縁に立たされて何時間直立していられるか、とかいう意味不明な遊びに巻き込まれたこともあった。

 木が意外とみしみし言って五月蝿いが、枝や葉が邪魔になって相当の腕前のスナイパーでなければは撃てないだろう。レンには俊敏もある。

 私は忍者にでもなった気分で木を飛び移り、近場の砦を目指した。偵察を行ったところ、砦には誰もいない。これなら行ける。

 銃弾が飛んでくるが、さすが俊敏と反射神経の代名詞。一発も当たらないな。

 ……ただ、砦に誘い込まれている気もする。どうしようか。

 どのみち、二丁拳銃では飛距離がない。長距離狙撃可能なライフルとやるには近接戦闘をするしかない。が、スナイパーは一人ではないので、やはり砦に行こう。

 これで隠密スキルがあったら最高だったな。


 砦に着く。人がいないのを確認してから、無線を取った。

「やあ、レンくん」

「アスラせんぱ──!」

 ライフルの弾が左腕を掠めた。

「籠城戦で二丁拳銃一人は不利だと思わないのかね?」

 うわあ、狙ってきてる人の台詞。

 スナイパーは……うわ、遠い。

 詰んだが?

「君は邪魔だったからね。悪意に笑顔でへらへらとしているが、悪意に敏感だ」

「だったらなんだ? あんたが裏切り者ってことで間違いなし?」

「察しがいいね。さて、『みんな』のところへ戻るには随分遠いところへ来てしまったようだけれど」

 ……ここで逃げたら、仲間に被害が及ぶ。偵察はできないが、おそらく仲間のいる拠点の周辺にもスナイパーが配置されているのだろう。レンが偵察に出てから、その時間は充分にあった。

 つまり、選択肢はない。

「強行突破だ!!」

 レンの決め台詞である。自分で言えた感動もひとしおなのだが、そんなことを言っている場合ではない。

 森を抜けて拠点に向かわなければならない。が、拠点は要塞の体を成していて、そう簡単には崩されないだろう。レンが生きて帰ればいいだけである。

 また木から飛び移る作戦で、と森に潜った途端。

 肩を撃たれた。

 そんなレベルのスナイパーが!?

 ……そういえば。

 アスラ・ハガードは凄腕のスナイパーだったな。紛れている可能性を何故考えなかったんだろう。

 拠点に帰るまでに、本気を出したアスラに何度か撃たれ、服もぼろぼろ、血塗れになりながらの帰還。慌てて出てきた主人公に、裏切り者がいると伝えた。

「裏切り者? 誰だ!?」

「あ」

 ファキュンッ

 レンは頭を撃ち抜かれ、そこでまたしても私は息絶えた。

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