二十八回目
ふっと意識が浮上した瞬間、目の前に見えたのは思い切り包丁を振りかぶる女の子。
ざくっ。
……痛みはない。現実味もない。何故かというと、私の今回の体から出ているのは血ではないからだ。
まあもう幾度となく人間じゃないシリーズをやってきたので、今更ぬいぐるみごときじゃ驚かない。何故切り裂かれたかはさっぱりだが。
茶髪に宝石のように綺麗な緑色の目を持つ少女はカラット。くまのぬいぐるみジェシカと唯一無二の友達である。
カラットはちょっと天然で、浮世離れしていて、近寄りがたく思われているのか、友達がいない。気味悪がられてまでいることをカラットは知らない。カラットは人の悪意を認識しない幸せな女の子だった。
ただ、遊び相手がジェシカしかいないので、ぬいぐるみとおままごとをするしかないのだが……
「ジェシカ、かくれんぼするよ」
やはり、これは「ひとりかくれんぼ」の話らしい。カラットとジェシカが出てくるのは絵本。とてつもないバッドエンドである。
この物語のひとりかくれんぼは正式な手順を踏んでいない。何故なら、カラットはジェシカを友達で、かくれんぼしたら探してくれると思っているからだ。
米を入れられるわけでもない、縫い直されるわけでもない、奇妙なひとりかくれんぼ。でもジェシカはぬいぐるみだから、動くことすらできない。
そんなときだった。
カラットの悲鳴が聞こえた。それから、足音が近づいてくる。この子どもらしいとてとてとした足音は間違いなくカラットのものだ。
やがてカラットがジェシカの元にやってきて、ジェシカをぎゅう、と抱きしめた。
「ジェシカも隠れなきゃ。悪い人がやってきて、ジェシカも私も傷つけようとしているわ」
悪い人。それは強盗だった。包丁を持っていて、やがてカラットを見つけると、ジェシカを守るカラットをずたずたに引き裂いた。ぬいぐるみが引き裂かれるより、痛々しい。
カラットが力尽きると、そいつは血塗れのジェシカの首をちょん切った。
カラットの面倒をろくに見なかった親たちが帰ってきて、カラットの亡骸に咽び泣く。
でも、私にはわかった。
この家族は周囲から浮くカラットが邪魔で、邪魔だから消した。もしくは、ジェシカを与えたことを後悔しているのかもしれない。ジェシカがいなければ、カラットは他の子どもたちと交流したはずだ。それなのに。
ジェシカはカラットの忘れ形見になることなく、四肢をもがれた。




