十七回目
転生はした、が、あの女性と一緒ではないだろう。とんだ巻き込まれだ。誰がって、私がだよ。
確かに今まで散々秒で死ぬシチュエーションだったけどさ、何もあそこまで秒刻むことなくない? 誰がこれを仕組んでいるかはさっぱりだけど、趣味が悪いにも程がある。そもそも人一人を何回も何回も異世界転生させるっていう意味がわからない。しかも何の説明もなし。まあ、何故か私が生前遊んだゲームやら、読んだ漫画、小説やら、見たアニメやらの世界観だから理解できているけれど。これ何回目よ? 十回なんてとっくに過ぎているよね? もう二十回目が見えてない?
というところで、私は自分の現状把握を始めることにした。
あまり体の自由はなさそう。手足は動かないし、そもそも視点もあんまり動かない。カタカタという音は自分と何かが触れ合うことで鳴っているようだ。
つまり、人間ではない。
そりゃ圧倒的に人間率は高いが、転生するんならせめて自由に動けるものにしてくれ。暗くてよくわからないが、布が頭上に張られて、運ばれているようだ。ドナドナかな。
布が張られた隙間から見える光で、微かに自分の近くにいるものの目が煌めくのが見えた。紫色の目。肌は白い。人の形をしているが、小さい。それに、瞬き一つしない。
これ……人形だ。自分も同じくらいのスケール感だと思う。ということは、自分も人形らしい。
「どうしたの、エテ。わたしの顔なんか見て」
声がした。感覚的にも台詞的にも眼前の人形からだろう。その紫色には疑問が宿っているように思えた。
人形が喋った!? などと今更狼狽えるのも馬鹿馬鹿しい。羽根ペンが喋るのに比べたら数倍常識的だ。それにここが何の世界かわかった。
ここは「WELCOMEtoDOLLsCIRCUS」というダークファンタジーの世界観だ。人形たちは全て喋り、私の体である人形のエテも例に漏れない。ついでに紹介しておくと、紫の目の彼女はパファ。綺麗な金髪の女の子の人形だ。
エテ、パファ他諸々はロキという青年に連れられて人形サーカスをやっている。ロキは手先が器用で、人形を動かすことに長けている。つまりは人形使いだ。ロキのサーカスは評判なのだが、ロキの持つ人形はみんな喋るので、曰く付きと言われている。
まあ、いじめを受けたり、暗殺されたりとそういった経験は豊富なので、今更曰く付きごときで傷ついたりはしない。
「なんでもないよ、パファ。外が明るいな、と思って」
「そうね、ちょっと眩しいわ」
エテとパファは仲がいい。ロキのところにいる人形の中でも一番の古株である。そのため、他の人形はこの二人に嗜められた場合、ちゃんと言うことを聞く。
ロキも二人を大切に、頼りにしており、時折、次の公演について相談してきたりする。
まあ、そんなこんなでほのぼのと人形生活を送れる……はずだった。
ロキが今晩の宿を見つけ、食事を摂りに去った暗闇の中。
窓から射し込む月の光を背にゆらりと立ち上がる人形が一体。その目は禍々しく、妖艶に、紫の輝きを放っていた。
「パファ?」
人形は基本、動かない。喋ることはできるが、サーカスで人形たちを動かすのはロキだ。
──「WELCOMEtoDOLLsCIRCUS」の世界観で、人形が動き出す、ということは、本格的に呪いを振り撒く人形になることを示す。
やっぱりか、と私は思った。原作でもパファは暴走し、エテが必死に止めた。
それが今、起ころうとしている。パファはロキの道具箱から、ハサミを取り出し、人形を刺したり、切り裂いたりしていく。
「やめろ、パファ!」
エテは裁縫道具から針と糸を出し、応戦した。けれど、エテも動けるようになったということは、いつパファと同じような状態になってもおかしくない。
だからエテは縫った。
パファと自分を縫い合わせることで、互いに身動きが取れなくなるようにして。
縫い終わって何もできなくなったエテの手から、ぽろりと針が落ちた。
ロキが来たのはそのあとのことだった。
「……最後の公演はこれで決まりだね」
ロキはそう呟き、翌日、縫い合わせられたエテとパファは「一生離れたくないと望んだ恋人たちの成れの果て」という題材で見世物にされた。
公演の終わりに、ロキはエテたちに火を点けた。
「こうして、二人は永遠になるのです」
長い付き合いだったはずなのに、涙一つ流さないロキ。ほっとしているようだった。
やはり、喋る人形である自分たちは呪いの品で、本当は疎まれていたのだ。
「これにて今日のサーカスは、フィナーレです」




