十五回目
きーんこーんかーんこーん……
お馴染みの学校の終業の鐘の音が鳴り、私はぱちりと目を開けた。本当に眠っていたようで、ふわあ、と欠伸が零れる。羽根ペンとして焼かれたり、脳天ぶち抜かれたり、魔王に体を乗っ取られそうになったりしたけれど、あれは夢だったのかな。
だって、私は今、自分の学校の制服を着ている。見慣れた机。見慣れた教室。屋上から落ちたところから、きっと、悪い夢だったんだ。
にしても、異世界転生するたびにすぐ死ぬって、散々な夢だったなぁ。もっとましな夢を見たかったよ。
「あーやねっ!」
「ん!?」
突如として肩をぽん、と叩かれ、スキンシップに戸惑う私。いや、そこではない。
私を「あやね」と呼ぶ声。色々な世界で色々な名前を名乗ってきた私だが、「あやね」ではない。これは確信を持って言える。
私は声のした方を振り向いた。
「よく寝るねえ。そんなんだから、補習ばっかなんだぞ」
「っあああっ!?」
オレンジ髪の同級生を見て、私は声を上げる。これ、私が中学になる前に読んでた少女コミックスの世界観だ。彼女の名前は冴渡壱架。私は今「劣等なりに頑張ります!」という作品の主人公、渡邊綾音になっている。私と正反対の超ポジティブ主人公だ。
この作品はSNSでも有名で、俗に「列島」とか「日本」と呼ばれている。公式の通称は「れつなり」なのだが、成り上がり系の作品と勘違いされてバカ売れし、夢を見た成り上がり系大好きさんたちがバッシングを送ったというある意味伝説の作品である。
綾音はいつも授業が退屈でうたた寝をし、テストで赤点を採るお馬鹿キャラである。今も寝ていたらしい。それが先生に気づかれないのは、彼女の苗字が渡邊でどうしても後ろの席になることと、席替え時のくじ運が半端ないからである。
「そんなんでよく生徒会やろうと思えたね……」
「やめて、そういう同情が一番辛い」
そう、綾音はこう見えて生徒会役員なのだ。まだ下っ端の庶務だが。
綾音が生徒会に入った理由は、まあ邪といえば邪である。
このムスカリ女学校には、カリスマ的生徒がいる。この学校の者なら憧れぬ者はいない流川古都副生徒会長。
何がいいって、生徒会長ではなく、副会長という辺りがとてもいい。奔放な会長を裏で支える影の立役者。それを偉ぶることがないのが古都さまの良いところ。
あ、古都さまを古都さまと呼ぶのはオタク的なあれではなく、列島を知る者なら常識である。
「古都副会長の助けになれるもの。頑張るわ!」
「その前に勉強な」
「ぐぬぬ……」
思い出した思い出した。確か、制服がうちの中学のやつに似てて興奮したんだよな。そしたら作者がまさかの先輩で興奮したものだ。
さて、綾音はどうなるんだっけか。
「そんな軽い調子で、古都さまの隣に立つなんて……」
「ん? 壱架?」
早速様子がおかしいのだが。
すると、壱架が飛びかかってきた。手に握りしめられたカッターナイフが首に押し当てられる。
そうだった。壱架はものすごい古都さま信者で万年赤点の主人公を妬んでいて……え、主人公だから死なないよね?
と思ったが、確かここで取っ組み合いになって、開いていた窓から落ちるんだったな。で、壱架も綾音も入院、壱架は退学、綾音はリハビリしながらの学校生活……
え、私どうなるん?
……と思っていたら、窓から落ちた。
急激に酸素が薄くなったような気がして、私は自分の意識がここで飛ぶのだとわかった。
さよなら、憧れの列島世界観。せめて古都さまに会いたかったよ……




