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十四回目

 天使も死ぬとは……さすが創作。

 いや、いつから天使は死なないと錯覚していた?

 ……という私は。

「おはよう。今日も勉強頑張ろうね!」

「そうだね、ニップ」

 ……何の因果か、羽根ペンになってしまった。

 これはイカ天の延長線上とかそういうわけではなく、ペンというペンが喋り倒す世界「灰色のニップ」の世界観である。筆も鉛筆もガラスペンも、とにかくペンであればなんでも喋る。そんなイカれた世界観である。

 まあ、こんなマイナー世界観も私にはツボだったので覚えているわけだが。ペンが喋る世界なんて夢があるじゃないか。ペンは子どもにとって身近なものだ。私は友達がいなかったから、「ニップみたいにペンの友達がいればいいのに」とか思ったことがある。

 だが、ペンになりたいと思ったことはない。これは念押ししておきたい。

 ニップとお喋りできるのは楽しいがペンとお喋りなんてよく考えたらイマジナリーフレンド的なヤバさがあるし、そもそもペンだから直立不動だよ。窮屈じゃん。

 ニップはこの物語の主人公……というか「灰色のニップ」は絵本の世界観である。ほのぼのとした日常を描いた作品だが、最後にはニップに捨てられてしまう。

 成長していくと、子どもは喋るペンたちをうざいとか思うようになり、折ったり砕いたりして友達だったそれを壊すのだ。そうして大人になっていく。一度ペンを故意に壊すと、もう二度とペンの声は聞こえなくなり、それが「大人になる」ということらしい。この世界では。

 要するに「現実を見ろ」という話なのだろう。絵本なのに世知辛い。

 ニップはずっとこの羽根ペンを大切に使ってくれている。ニップにこのペンをくれた人のことを今も想い、大人になれずにいる。

 そんなニップを大人にするために存在するのがこの羽根ペンである。

「リト、そろそろ行こうか」

 ペンに名前があるなんて不思議だが、これはこの羽根ペンの名前。

「そうだね。図書館へレッツゴーだ」

 ……ニップはもう子どもと呼べる年ではない。周りの子どものほとんどが、もうペンを壊して大人になった。学校に通う年でもなくなった。

 それでもニップはリトを捨てなかった。捨てられなかったのだろう。ニップは友達がいないから。

 リトとしては周りから浮いてしまうニップが心配なのだが、私としては強いな、と思う。そうまでして貫ける「自分」があるということが羨ましい。

 ただ、ニップを大人にするためには、壊されなきゃならないんだよな……

 羽根ペンは折れないし砕けない。まあ、ハサミでも使えばバラバラになるだろうが、これでいて丈夫なのだ。だから羽根ペンは……

 ──焼かれる。

 うーん。死ぬ運命としても焼死は結構嫌だぞ。あとリトが死ぬ最後までニップのことを思って泣きながら喋っていたシーンは子どもの頃の私大号泣だったからな。

「ニップは、大人になりたくないのかい?」

「うーん、みんなはペンとお別れすることが大人になるっていうことだっていうけど、僕は別に大人になる方法があると思うんだ」

「どんな方法?」

「それがわからないから、勉強するんじゃないか」

 勉強して、賢くなって、みんなに認めてもらえるようになれば、それが大人だとニップは思っているらしい。

 ペンの中でも珍しい羽根ペンを使うニップはそれだけで浮いている。けれど、周りの目は気にしない、マイペースな子どもだ。

「でも、世の中は正しいことばかりじゃなくても、従わなきゃならないことがあるんだよ」

「……リト? どうしてそんなこと言うの? 僕と一緒にいたくないの?」

 ここから、不穏が始まる。

 ニップに大人になれないことによる周囲からの顰蹙を味わわせたくないリトとリトとずっと一緒にいたいニップの間に亀裂が生じていく。

 それで揉めた果てに……

「リトの意地悪! もう嫌い!!」

 火の着いた蝋燭にリトを投げてしまうのである。

 意外と熱いとは感じなかった。喋るだけの羽根ペンで、痛覚が存在しないからだろうか。

 ひとりぼっちの先輩として、私からちゃんと言ってあげないと。

「おめでとう、ニップ。これで君は大人になれるよ。周りと仲良くするんだよ」

「え……リト……?」

 リトは最後までニップのことを思っていた。だからわざとニップに意地悪を言って、ニップに自分を燃やすように仕向けたのだ。

 友達への、最後の餞として。

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