名
くつしたに付いた枯れ草、名をつけてやろうか、
土を忘れた恋人の名、愛慾の迷宮にて、
断ち切れた譚のごと、ふらふらする、
幽霊おんな、おまへの名。
雲の峰で引かれた線を、
海の向こうまで、たどれば、
やがて、それも、かすれるだろうから。
わたくしは、くつひも、むすび、なおし、
だけれど、やはり、おもい、なおし、
紐という紐を、ひも解いて、靴を。ぬぐ。
時計を、野に、棄てる。
また、名を、破棄する、
草臥れた、十字架をもだ、
それから、皮膚と、
たましい、そのこと、そのもの、
も、だ。
あとに残るのは、
くつした、枯れ草、
それに、名もなき、名。
わたくしが、命名した、空白の、
名。
了。