A not bad day
「それでは今日の練習はこれで終わるです。お疲れ様でした」
「「「「お疲れ様でしたー」」」」
練習を終え、帰る支度をしていると、
「さやかー、帰りにちょっとスーパー寄って行きましょ」
「……いいけど、またお菓子作り?」
「そう! 今度、クッキーとビスケットとサブレを作ろうと思ってるの」
という先輩方の会話が聞こえてきた。
似たようなものを作って何が楽しいのかと少し気になったが、下手に興味を示して巻き込まれたらたまったものじゃないため黙っておこう。
それより、スーパー、という単語でふと思い出したことが。
「そういえば、この前スーパーに行ったですが、どうしてあんなに鯖缶の品揃えが充実してるですか?」
福島のスーパーでは他の缶詰製品と変わらない扱いだが、三ヶ瀬では特設コーナーと見紛う程の量が陳列されていた。
「え? あれが普通じゃないの?」
「和音、残念だけど山形は特殊なんだよ」
「ええっ……!」
あれを普通と思うのは流石にどうかと思うが、こういうところはやはり、良くも悪くも和音さんらしい。
「……山形は鯖缶の消費量が全国1位」
「やっぱり、ひっぱりうどんが定番よね」
「なんですかそれ……」
名前から想像できる範囲では、あまり料理としての魅力を感じない。
「山形の郷土料理よ。茹でたうどんを釜とか鍋からすくって、納豆とか鯖缶で作ったタレに絡めて食べるの。とっても美味しいのよ!」
「納豆と鯖缶って合うですか?」
一緒に食べよう思ったことは一度もないが……。
「……最初は戸惑ったけど、意外と美味しいわよ」
「栄養豊富で身体にもいいんだぞ」
そういえば、菫先輩と若菜さんは言うまでもないが、和音さんも意外と……。もしかして、鯖缶には胸を大きくする効果が……?
全員を一瞥していき、紗耶香先輩に視線を移した時、その思考は打ち消された。
「……今、凄く失礼な視線を向けられた気がするのだけど」
「気のせいですよ」
「鯖缶って、骨まで柔らかくて丸ごと食べられるから、カルシウムを摂るにはぴったりって言われてるよね」
「心春が小さいのは鯖缶を食べないからじゃないか?」
「小さいって言うなです!」
背も胸も大きいからっていつもそうやって……いつか痛い目見せてやる……。
「うふふ、じゃあ今度、第二音楽室でひっぱりうどんパーティーしましょう?」
「素敵です……!」
「……できる訳ないでしょ」
「あはは、でも楽しそうですね」
夕日の差し込む室内に、笑い声がこだました。
この人たちは今日も賑やかだった。でも、こういうのも案外悪くない、と思ったりして。