佐賀の人喰いカチガラス ①
駆動音がおかしい。モーターの焼ける匂いがする。
目の前を走り去る数秒にも満たない時間で、本庄フウタロウは、すぐさま自機が抱える問題点を看破した。
恐らくは『天馬』の駆動系内部に微小な異物が入り、それがパーツ同士を痛めつけ、モーターに負荷をかけたのだろう。
なにぶん、荒れた路面である。まっ平らに舗装された場所ならともかく、今走っているのは土の上なのだ。公園内の整えられた路面ではあるが、それでも小石や砂によって起こるトラブルはオンロードのそれよりも比較的に上がる。
しかし、それを敗因と考えるプレイヤーは少ないだろう。
ここ数年、飛躍的に増えてきたとはいえ、各所に併設されたスタジアムは未だに数が足らず、そこからあぶれたプレイヤー達は、野良バトルと称して公園や学校のグラウンド、自宅の庭などで戦うことが日常的になっている。
オフロードを走らせることは決して少なくはないのだ。
当然、プレイヤーごとに砂や石への対策を講じるし、各メーカーからも野外用のパーツが数え切れないほど出されている。
フウタロウも例外ではない。屋外でのバトルが多いため、デフォで対応できるように改造していた上に、不測の事態に備えて、予備のパーツも持ってきている。
だが、フウタロウの頬を冷えた汗が伝った。身体が震え、喉がひどく渇いた。
本来なら、すぐさまバトルを止めてメンテ作業に入るのだが、頬に砂の感触を味わい、背中に伸しかかる人間に腕をとられ、身動きひとつできない。
フウタロウは今、地面に組み伏せられていた。
周りには他に数人の男が立ち、全員がフウタロウと同じ制服を身に着けている。
「ぐぅ、……離せ」
少年は何度目になるか分からない言葉を呻いた。身をよじり、脱出を試みたが、まだ十六になったばかりの少年では、人間二人分の体重には太刀打ちできようもない。
重たい激突音が聞こえた。
「ちくしょう!」
フウタロウの目に映ったのは自機である『天馬』が攻撃される様だった。
毎日磨いていたボディにはひびが入り、右前輪のタイヤはバースト寸前である。愛機である『戦士』に合わせ、改造し始めたばかりだというのに、ダメージからか、ちょっとした風にもバタついている。
思い通りに操作できないこともあり、もはやフウタロウの『天馬』は廃車寸前だった。
「レ、レギュレーション違反だ!」
これも何度叫んだか分からない。
そもそも、公式レギュレーションどおりに組んでいれば、ここまでのダメージを受けるはずがないのだ。最高速でお互いに正面衝突すれば分からないでもないが、相手は併走しているし、その上、相手の『天馬』にはキズひとつない。
それではなぜ、フウタロウの機体だけが破壊されているのか?
「……そこまでして勝ちたいのかよ」
相手の天馬には、公式戦では認められていない、違法なパーツ・改造が用いられていたのだ。そして、
「一対七なんて認めてないだろう!」
敵は七体もいた。ドリルやカッター状のパーツで身を固めた天馬が七台。フウタロウのマシンを取り囲むように走っている。
一人の男が笑い声と共に、指示を飛ばす。
赤で統一され天馬が速度を上げて、フウタロウのマシンに体当たりをかけた。ぶつかった衝撃でカッターが飛び出し、青色のボディを削ぎとっていく。
「おしい。次は外すなよ~」
「おら、行け!」
「ブータローちゃ~ん、あんよがお上手ね~、ぎゃははは!」
フウタロウは、歯を食いしばる。次から次に畳み掛けてくる攻撃に、自機は走行している事すら不思議な状態となっていた。
だまされた。はめられた。罠に落ちた。
フウタロウの頭をかき乱すのは、そんな諦めを含む言葉ばかりだった。