8・入谷サトコの場合
「次は〜霞ヶ関〜霞ヶ関〜」
千代田線の地下ホーム、私はある目的のためにここにきた。
【希死念慮口外禁止法】が制定されてから長い時間が経った。
この法律によって「弱者」は切り捨てられて当然の世界になった。
民主主義を掲げているこの日本なのに、この法律に疑問を持つ人間はほとんどいなかった。
みんな自殺したから。
みんな精神を病んでいて、みんなまともじゃなかったから。
この国には「死にたい」と思う人間かそんな弱者を喰いものにする人間しかいなかったんだ。
まともな人間がいない世界で作られた、弱者を切り捨てるための法律。
私はこんな世界が正しいとは思えなかった。
弱者を救いたい、そしてこの世界を変えたい。
誰もやらないなら唯一まともな私がやるしかない。
私がそう思い始めたのにはきっかけがあった。
友達が死刑になったのだ。
普通に生きてきた彼がたった一度「死にたい」と口に出したせいで死刑になったのだ。
こんな世界は間違っている。
私はたった一人でレジスタンスを掲げ、世界を変えるために生きることを決めた。
そして私は公務員になった。もちろん助けが必要な人を救うため。そしていつかこの世界を内側から変える同士を募るため。
しかし、私が救いたいと思えるような人は現れなかった。
生活保護を受けたいと申請してくる人全員が甘えた考えしか持っていない。
この世界を変えたいと思うまともな人間もいなかった。誰もが「死にたい」と思わないように必死なだけだった。
私は助けが必要な人を救うために公務員になったはずだった。
手を差し伸べるべき人も、手を取り戦ってくれる人も誰一人としていなかった。
私は方法を間違っていた。
もっと根本的に解決する必要があると気がついた。
ーーーこの世界を変えたい。そのためには、唯一まともな私がやるしかない。
私は改札を通り地上出口へ向かう。
用意したものがちゃんとバックに入っているか、バックの表面から感触を確かめる。
間違いなく入っている。
出口からしばらく歩く。平常心でいられるはずもなく、全身に汗をびっしょりとかいていた。
目的地が近づくにつれて心臓が高鳴る。目に入った汗のせいで視界が霞む。
歩みは早くなり、気がついたら走っていた。
そして私は目的の場所に着く。
ーーー国会議事堂。この国の中心部。
敷地に入る前に警備員が近づいてくる。
私は警備員に捕まる前に、用意していたプラスチック爆弾をバックから取り出す。
それを握りしめながら叫ぶ。
「死にたい」と。
これで世界は変わるはずだ。私はたった一人で戦った。そしてやり遂げた。
その暁には私を英雄と褒め称えてくれ。
私を救世主と呼んでくれ。
私を革命の象徴としてくれ。
サヨナラ世界:誇大妄想のテロリスト




