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サヨナラ世界  作者: こぶた
5/19

5・上野マサヤの場合

「あなたは強くて優しい人になって。」





記憶の中の母さんはいつもそう言っていた。僕が覚えている母さんの記憶はこの言葉以外はほとんどない。





僕が小さい頃、母さんは死刑になった。




僕はまだ小さかったから、なぜ母さんが「死にたい」と言ったのか理解できなかった。




ただ母さんが居なくなったのはすごく寂しかったのは覚えている。






僕は顔も知らなかった父さんに育てられることになった。



父さんからは僕が見えないみたいだった。

まるで存在しないかのように僕を見なかった。





だから、僕は母さんの言葉を守って生きていくことに決めた。

僕には母さんの言葉だけがあればいい。





僕は常に人のことを考えて行動して、他人を傷つけたりは絶対にしなかった。




困っている人を見たら手助けをして、進んで面倒ごとを引け受けて。




そうやって生きてきた。母さんの言葉が僕の生きがいだったんだ。






中学校に上がって少し経って、僕はクラスでいじめられている人を助けた。

その代わりに僕がいじめられるようになった。




それでも僕は自分はいいことをしたんだと自信を持って思えた。




どれだけ僕が殴られても、蹴られても、罵倒されても。僕は母さんの言葉の通りに行動した。僕は正しいことをした。






……そう思っていた。






僕はずっと周りから疎まれていた。そのことにこの時まで気がついていないだけだった。

すぐにクラス全員から陰湿ないじめを受けるようになった。




そして、僕が助けた人もいっしょになって僕をいじめるようになった。







「あなたは強くて優しい人になって。」




…………僕には母さんの言葉だけがあればいいと思っていた。






………僕にはそれしかなかったんだ。






僕はいるだけで迷惑な存在と言われて顔面を殴られた。


僕は弱い人間だと言われて腹を蹴られた。


僕は偽善者と言われて罵倒された。





母さんがなんで強くて優しい人になってと言ったのか、なんで母さんが「死にたい」と言ったのか、その理由がようやく僕にもわかった。






ーーー母さんは強くて優しい人になれなかったからだ。


だから母さんは僕に強くて優しい人になってほしかったんだ…






ごめんなさい、母さん。


僕は母さんのたったひとつの言いつけも守れない、悪い子だったみたいだ。


僕は母さんが言っていた「強くて優しい人」になれなかったんだ。


サヨナラ世界:悪い子

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