13・杉田タケシの場合
「死にたい」と言った人間は死刑になる。
もちろん大きな罪、例えば連続殺人だとか、無差別テロとかの凶悪犯罪、そう言った罪人だって死刑になる。
そしてそんな人よりも、本当に死刑になるべきなのは僕のような罪人だろう。
ーーー僕にとって、学校の教室はまるで監獄のようだった。
僕はさながらその監獄に送り込まれた極悪人。罪状はきっと「弱い」から。
小学校の頃から、僕は気弱で人と接するのが苦手だった。そんなだから友達は少なかった。
そんな自分が嫌で、その頃ずっとテレビで見ていた強くてかっこいいヒーローみたいになりたい、と思っていた。
そんなある日、僕が教室に着くと僕の机に花が置いてあった。
僕はなんで机の上に花が置いてあるのか、すぐには理解できなかった。
僕の反応を見てニヤニヤ笑う数人のクラスメイト。僕は何も言うことが出来なかった。
その日を境に僕はそのクラスメイトから嫌がらせを受けるようになった。
最初は机に花が置いてあるだけだったのに、それはだんだんとエスカレートしていった。
物を捨てられたり、暴力、暴言といったいじめを受けるようになった。
友達は巻き込まれるのを恐れてみんな離れていった。
辛かった。
僕がいじめられているのを見ても、誰も助けてはくれない。みんな見て見ぬフリ。
僕が憧れていた、強くてかっこいいヒーローなんてテレビの中の存在だと思い知った。
僕は弱い。だからいじめられる。
そしてこの頃、僕は「死にたい」と思っていた。
中学校に上がっても、僕はまたクラスメイトからいじめを受けることになった。
やっぱり僕は変わらず弱いままだった。
小学校では小学生なりのいじめ、というのがあった。
中学生の考えつくいじめ、というのはそれの比でないくらい残酷で、陰湿で。
そこに人としての尊厳なんてなかった。
僕は…徹底的に、バレないように巧妙に、蹂躙された。
今までの暴力は全て目立たない場所で、かつ目立たない箇所だけを狙って振るわれるようになった。
暴言は脅しと共に、逃げ場はない、助けは来ないと刷り込むように受けるようになった。
中学生になって芽生える思春の心を、クラスの女子の前で辱められた。
こうなるまで入学式からたったの数ヶ月。
僕が「死にたい」とクラスメイト全員の前で言ったら、いじめはなくなるかな。
そうしたら僕は死ぬ勇気と強さを持っていたって思ってくれるかな。
そんな事を考えるようになっていた。
ある日、僕がいつものトイレでリンチを受けている所にクラスメイトの一人が入ってきた。
その人は僕にとって初めて、いじめをやめろと言ってくれる人だった。
この人は僕を助けてくれるかも知れない。そう思った。
ーーーそしてその人は僕の代わりにいじめられるようになった。
その人はきっと僕と同じく弱い人だった。僕にとってのヒーローではなかった。
僕は脅されてその人をいじめるのを無理矢理手伝わされた。
僕がされた事をリプレイするように、僕がする。
思いつく限り残酷で、陰湿で、バレないように巧妙に、徹底的に…。
僕へのいじめは無くなった。そしていじめる側に回って初めて思った。
「僕より弱いヤツがいる。僕はそいつより強い。」
と。
僕は生まれて初めて強くなったんだ。
その感覚はこの上ないほど、僕がその人をいじめるのを正当化する理由になった。
そして…
その人は死刑になった。「死にたい」と言った。
それはかつて、僕が自分の勇気と強さを証明するためにしようとしていた行為だった…。
今更気がついた。
僕が憧れていた強くてかっこいいヒーローは「正義の味方」だったはず。
その人は強くて優しい人だった。そんな人をヒーローって言うんじゃないか。
僕は弱いままだった。
そして、彼が死んだことでクラスからいじめは無くなった。
誰かに何かを聞かれても、僕は元々いじめられていて、脅されてやったとシラを切った。
僕は弱い。
本当に死刑になるべきなのは彼のようなヒーローではなく、僕のような罪人だろう。
サヨナラ世界:監獄ヒーロー




