10・三谷ツカサの場合
僕は世界にサヨナラを告げる。
「死にたい」と口に出した。もう生きていくのは限界だった。
鏡を見ると世界で一番醜い顔が映る。何度殺してやりたいと思ったかわからない。
「お前は不細工なんだから」と育てられて、「せめて他人に迷惑をかけずに生きろ」と教えられた。
その通りに僕は自分の姿を自虐ネタにして、人に嫌われないように他人の顔色をうかがって生きてきた。
ーーー僕はいつからか自分が大嫌いになった。
他人から求められるのは「ただ都合のいい存在」としてだけの自分。
人と仲良くするのは一人になりたくなかったから。
人に優しくするのは自分の承認欲求を満たすため。
それなのに、僕は常に空虚で孤独だった。
他人から見たら僕は普通の人間に見えただろう。
実際に僕は普通の人間に見えるように着飾ってきたんだから。
でもそれももう無理だった。
社会人にもなればもう僕のメッキは全て剥がれ落ちてしまって、スカスカのスポンジでできた僕は丸裸になっていた。
苦しくて苦しくてたまらなかった。
僕は助けを求めて親にも友達にも縋った。
返ってきた言葉は全て同じだった。
「甘えるな」
その一言。
僕には辛いと言う権利すらなかった。
周りの人にとって、求めていない事を言う僕は必要のないただの邪魔者だ。
そんな風に思うと人に会うのが怖くなった。僕の家族も、僕がが友達だと思っていた人達も、みんな僕から離れていった。
あぁ、結局僕は嫌われ者で周りに迷惑をかけるだけの存在だったんだ…。
……そして今、僕は逮捕され警察署に移送されている。
警察署に向かう途中、新宿駅の東口近くで移送車は止まった。
人だかりができていて車がなかなか進まないようだった。
その理由はすぐにわかった。
車に乗っていても聴こえてくる程の激しい楽器の演奏。
そして、狂い叫ぶように絶望を歌う声。
誰もが蓋をした、絶望を解放するかのようなその音の波に…僕は電気椅子にかけられて全身に電気を流されているように感じる程の衝撃を受けた。
ーーーそれはまさに、僕の心を僕の代わりに歌ってくれているようだったんだ。
こんな時になってやっと、自分の気持ちに気がついた。もっと早くこの絶望を奏でる人達に会いたかった…。
僕は呟いていた。
「こんなゴミクズのような自分でも、無条件で愛されたかった。満たされたかった。幸せになりたかったんだ………」
僕は側に控える警察官に伝えるつもりはなかったけれど、初めて自分の心から滲み出てきた言葉を誰かに聞いて欲しかった。
それがすでに手遅れだったとしても。
サヨナラ世界:人数合わせのブス男




