掌編小説 其之陸
空を飛んでいた。
私は紅い、自分の体がすっぽり入るクッションに乗っている。
金色の複雑な刺繍が入っていた。
クッションは、いきなりグンッと上がったり、ガクッと下がったり、まるでジェットコースターだ。
落ちないよう、しっかりとクッションを握る。
風がビュンビュンと頬をかすめる。
ふわっと、空を流れるクッションが安定して飛びはじめた。
目を、開けた。
下を見ると、花畑が拡がっていた。
茜、白、中黄、菫、碧、鴇。
何の花かはわからない。
上を見上げると、薄い桜色と卯の花色がふんわりと広がっていた。
雲は、なかった。
花びらが舞っていた。
掴もうとすると、すり抜けた。
桃色。半透明だ。
横をふと、見る。
そこには、巨大な樹が立っていた。
空と同じ色の花が咲いている。
花びらは、この樹から流れてくるようだった。
一番上は、空に溶けていた。
クッションはぐるぐる、ぐるぐる、樹の周りを緩やかに回っている。
顔がほころび、私の笑い声が響く。
突如、クッションは急降下する。
浮遊感
手を、離してしまった。
落ちた。
気が付くと、林の中にいた。
周りは落ち葉だらけで、秋一色
遠くの方で、微かに樹が見えた。
しかし背を向け、歩いて林の中を進んで行く。
どれくらい歩いただろうか。
赤い鳥居がみえた。
くぐると、白い光に包まれた……