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s_complex  作者: 秋山 楓
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プロローグ

この物語は、電撃文庫の『嘘つきみーくん、壊れたまーちゃん』を目指して執筆しました。

もちろん、内容とクオリティは全然違いますが・・・。

 距離も分からぬ灰色の世界。


 澱んだ空は、墨汁を溢したかのように暗く、


 茨の足元は、地面も見えぬほどの白骨で埋め尽くされている。


 一歩踏み出すと、『パキリ』と乾いた音が鳴った。


 パキリ、パキリ、パキリ。


 歩を進めるごとに、元々人間の一部だったものがあっけなく折れる。


 こんな脆い物が自分を構成していると思うと、全身がむず痒くなった。


 できるだけ自覚しないように、一度周囲をぐるっと見回してみた。


 小高いこの場所から一望できるその風景は、一面の骨、骨、骨。


 遮るものは何もない白骨の海に佇むのは、僕一人。


 何度か見覚えのあるこの光景を目の当たりにして、僕は溜め息を吐いた。


 余計なことは考えるな。


 首を振り、自分に言い聞かせて再び歩き出す。


 目指すは人骨で埋め尽くされた丘の頂。


 そこに僕の求めるもの……答えがあることは知っている。


 急かす気持ちを抑えながら、一歩ずつ確実に歩む。


 パキリ、パキリ、パキリ。


 人骨を踏みしめて目的を達成させるという罪悪感はまるでない。


 生きていたって、人は他人を貶めて利益を得るのだ。


 人間の僕が、人間だったモノに遠慮をする道理はない。


 自分のためならば、僕はいくらでも死体を踏みにじってやる。


 と、決意する間にも、坂の傾斜が緩やかになってきた。


 ようやく平坦な場所に出る。ここが山頂だと、僕は知っていた。


 両膝を折り、脛で足元の白骨の群れを押し潰す。


 目の前には二つの頭蓋骨が並べられていた。


 これが僕が求めていた答え。探していた結末。


 片方の頭蓋骨を手に取ってみた。


 慎重に、小猫を撫でるような繊細さで人間の頭部を抱える。


 するとその頭蓋骨は突然、崩壊を始めた。


 まるで砂を掬い上げたように、頭蓋骨は白い粒子へと変化する。


 そして舞い上がる。風に乗って、暗黒の空へ白い雑音を送り込む。


 僕は待った。手の中の粒子がすべて離れるまで、じっと待った。


 やがてすべての粒子が天へと流れ、僕は頭を下げる。


 残ったのはもう一つの頭蓋骨。


 空洞の眼窩が僕を見つめる。


 僕もその頭部を見つめ返していた。


 これが探していた答えなのだろう。ただし持ち上げた頭蓋骨がそうなのか、残った頭蓋骨がそうなのかは、僕にも分からない。


 頭蓋骨と見つめ合うこと数分、不意に背後から肩を叩かれた。


 この夢の終わりを示すその合図は、一刻の猶予も与えてくれない。


 誰がそこにいるのか、誰が僕の肩を叩いたのか、分からぬままいつも眼を醒ます。


 過去に体験してきたいくつもの経験を知っているため、僕は早急に振り返った。


 僕の肩に手を置いているのは女性だった。


 しかし顔が見えない。


 まるで逆光のように彼女の表面が陰で覆われ、その顔を窺うことができない。


 女性が何か囁いた。しかし何も聞こえない。


 誰? 貴女は誰なの? そして何を言っているの? いつもどんなことを囁いてるの?


 求めるように両手を伸ばした。


 ゆっくりと、神々しい光に向かって、僕の両手が伸びる。


 しかしその女性は、駄目だと言わんばかりに首を横に振った。


 どうして駄目なのか、何が駄目なのか、僕にはまったく分からないし、関係ない。


 僕は貴女が誰なのかを知りたいだけなんだ。


 女性の拒否を無視し、僕は思うがままに彼女へと両手を差し伸べた。


 指先が首筋に触れた。がしかし、結局――


***


 けたたましい電子音とともに目が覚めた。振動するバイブがその機体を畳の上で躍らせているために、布団から伸びる僕の手は二三度ほど空の場所を叩く。

 ようやく携帯電話を手に取ることができ、目覚まし機能をオフにしようと開く。だが、どうやら設定時間からすでに一分が経過したようであり、夢を遮った元凶のその電子音は謝罪の言葉もなく沈黙した。


「……」


 朝。カーテンの隙間から差し込む乳白色の朝日は、僕を完全覚醒へと導いてはくれない。なぜなら頭の上から布団を被っているからだ。分厚い布団は、隙間がなければ完全な闇を創造できるほどで、携帯の設定時間を覚えていなければ、今がまだ夜中だと勘違いするほどだろう。つーか、六月でこれはさすがにあちーよ。


「……」


 早く起床しなければ、学校に遅れることも分かっている。少しくらい寝坊できる余裕があるとはいえ、二度寝はさすがにヤバい。次はいつ起きれるか分かったもんじゃないし。


「………………ふー」


 密閉された布団の中で、溜め息を吐いてみた。別に布団の中の二酸化炭素の濃度を上げて、息苦しくなって無理やり出なければならない状況にしたわけではない。

 単純に、自らに対する失望感が自然とそうさせたのだ。

 最初に浮かんだのは、情けないという落胆。あまりの自分の情けなさに頭痛がする。


 もう何度あの夢を見たのだろう。明晰夢とでもいうのだろうか。夢を夢と自覚して見ることはともかく、その回数が問題だ。覚醒してからも鮮明に覚えているその夢は、もういつから見ているのか、何度繰り返し見ているのかも思い出せないほど。まったく、女々しいったらありゃしない。

 夢の中でしか答えを見つけられないにもかかわらず、その夢でも毎度答えを知る前に起きてしまい、さらには何度も見るってことは無意識にその夢に縋ってるってことだ。

 まるで現実じゃうまくいっていないから、夢にすべてを託したただの夢想家だ。

 ホント、小さな男だよな、僕は。


「……」


 予備動作なく上半身を起してみた。六畳もないボロい和室がいつものように僕の起床を歓迎してくれるが、別に嬉しくはない。


 正面の壁掛け時計を見上げれば、ちょうど七時。僕が通う高校は、八時に家を出たところで十分間に合う距離にあるので、もうあと五分十分くらいはゆっくり寝られる。

 だからというわけではないが、僕はいつも通り、頭を抱えて長く深い溜め息を吐いてみた。


「………………はーーー、情けねー」


 ホントにね。

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