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氷竜の盾  作者: ま蔵
血は流れて
8/10

葡萄酒

久しぶりとなってしまいすいません

 ファーガンは、

 ハリクにて束の間の休息をとっていた。

 その間にもハリクの復興は進み、

 街の機能が昔程ではないが回復してきている。

 彼はどうやら長く休んでいられる時間を持ち合わせていないらしい。

 そんな彼の下に使者がやってきたのは、

 ヴェリアから「風」を追い出して半年程経った頃だった。




「ヴィンケルがガルリア軍の侵攻を受けています!

 多くの村々が焼かれております! 」




 ヴェリアの西方に位置し、

 ガルリアとの境界に位置する、

 ヴィンケルがガルリアに攻撃されているようだ。

 豊かな穀倉地帯である。

 ヴェリアの食糧事情を支える大事な土地だ。

「風」の略奪を受けて、

 ヴェリアが弱体化している今が好機と見たのだろう。

 相手の狙いは差し詰めヴィンケルなどのヴェリア西方地域の割譲であろうか。

 ファーガンは、風との戦いを進めるのと共に、

 西のガルリアとの戦いも準備してきた。

 相手の狙いは小競り合いの後、

 ヴェリアの土地をいくらか奪うことであるのだろうが、

 ファーガンは違った。

 ガルリアを全て手中に収めるべく、その種を撒いてきた。




「分かった。すぐにヴィンケルに参ろう。」




 また一つ歴史が進む。

 当事者達にその実感は少ないとしても、

 ファーガンの野望の実現は一歩ずつ近づいて来ていると言えた。




 ハリクからヴェリアの軍勢がヴィンケルに向かうべく

 進軍を始めたのは、

 知らせがファーガンの下にやってきてからすぐのことだった。

 アーロッドをハリクに残し、

 ガルムとラーガン、

 そしてラズムントも付いて来ている。

 彼曰く、




「面白い戦になりそうでございます殿下。」




 もはやファーガンはラズムントを捕虜としては

 扱っていない。

 他の風の捕虜も手厚く扱っている。

 風との外交を鑑みた時、

 捕虜を丁重に扱っていることはプラスに働くだろう。

 ファーガンはそれを知っていた。




「殿下!! 」




 ファーガンを呼ぶ声が聞こえた。

 先に急がせた斥候達である。

 かなり切羽詰まる状況のようだ。




「何があった? 」




「ガルリアの軍勢はヴィンケルの村々を焼きながら

 かなり深くまで進んで来ております。」




「そうか。分かった。ご苦労だったな。敵の数は?」




「4千程かと。」




「よろしい。お前達も陣に戻れ。」




 斥候達は軽く礼をして、

 隊列に戻っていった。




「ふむ、4千か。粗方向こうからの報告と同じだな、

 ラーガン。」




 ファーガンは、隣についたラーガンに語りかけた。




「はて、兄上。向こうとは一体? 」




「決まりきった事だろう。 ガルリアの中の内通者よ。」




「内通者? それは一体?」




「我々に近い、ガルリア伯爵家の人間だ。」




「我々に近い…? もしかしてロルケナード卿では?」




 ラーガンは少し思案した後、

 はっと驚いたようにその名前を口にした。




「その通りだ。ラーガン。」




 ロルケナード。現ガルリア伯爵の異母兄弟だ。

 彼の祖母はヴェリア伯爵家の女性で、

 ファーガンの祖父の妹に当たる人物である。

 すなわちロルケナードはファーガンの再従兄弟ということになる。

 ガルリア家の中で、

 腹違いの弟の現伯爵よりも剣や学問に優れ、

 彼が伯爵となる事を望む人間も数多かったが、

 弟の母の権力が強く、

 またヴェリアに近い家柄から、

 弟の母や保守的な家臣達の猛反対に遭い

 伯爵となる事が叶わなかったという過去を持つ。

 ファーガンは彼を懐柔し、

 ガルリアと戦になった時どう動くか手筈を整えて来た。




「この場合、考えておかねばならない事がある。」




「例えば? 」




「ガルリアがロルケナード卿の内通に気づいている場合だ。」





「確かに。罠の可能性も否定できませんね。」





 ラーガンはどうやら何か考え込んでいるようだ。




「兄上、これが罠である可能性は低いのでは?

 もし罠であるなら、ガルリアの軍勢はここまで突出してこない筈。」




「罠にも二つある。我々をガルリアに誘って叩く

 場合と、そもそもロルケナードは端から裏切る気が無い場合だ。」




「それでは我々はどのように動くのですか?」




「まずは敵の侵攻を徹底的に食い止める。

 我々の得意な防衛戦だ。

 そして、ロルケナード卿がガルリア軍を背後から叩く。」




「なるほど。そうすれば罠の危険を回避できます。」




 ラーガンは納得した表情を見せた。




「その通りだ。

 裏切る気がなければこれに応じないだろう。

 また罠にかける気でいるならロルケナードはガルリア軍を攻撃できない。」




 ガルリア軍の突出具合から見て、

 そこまでロルケナードの存在を考慮していないようだ。




「ガルリアのロルケナード卿に早馬を出せ。

 援軍が必要だ、と。」




 数人の騎士達が隊列を離れて、

 ロルケナード卿のいるガルリア西部へと走り出した。

 ファーガン達のいる場所からは馬でも1週間程かかる。

 その間にガルリア軍は兵力を東へと進めるだろう。

 如何に前進を食い止めるかが、

 ファーガンの腕の見せ所と言えた。






 ガルリア東部、西ヴィルケン。

 ロルケナードの居城がある。

 ロルケナードは城主の為の広間で腰掛けている。

 苛立ちを堪えながら、

 語りかけてきた男に目を合わせた。



「ロルケナード様、何故軍を出されぬのですか。

 よもやヴェリアと通じている訳ではありませぬか?」




 ガルリア伯爵家から直々に送られて来た、

 監視役のクライク公だ。

 樽の様に丸く太った体と脂ぎった顔。

 正直この男が嫌いだった。

 ヴェリアから使者が来て、

 内応した暁には、

 この男の首を自らで跳ねてやると決めている。




「もちろんだ、クライク公。私はガルリア伯爵家に忠義を尽くしている。」




 このガルリア家というのは、

 ロルケナード自身がガルリア伯爵となった場合の話である。

 腹違いの弟が支配するガルリア伯爵家という意味では断じてない。

 さて、

 ガルリア軍と腹違いの弟がヴェリアを攻めるために

 ここを訪れたのが1カ月程前。

 弟達がヴェリアの東ヴィルケンを占領しながら東進しているとして、そろそろヴェリア軍と衝突している頃だろう。

 また、

 兼ねてからの予定通りヴェリアからの使者がそろそろ

 訪ねて来てもいい頃だ。

 ロルケナードはヴェリアからの使者を今か今かと待っている。

 ガルリア伯爵の座を無能な弟から奪い返すのが、

 昔からの夢だった。




「クライク公、葡萄酒を少し如何か? なんだか酒が飲みたくなったのでな。」




「頂きましょう。毒などは入れずにお願い致します。」




「冗談を。俺とクライク公の仲ではないか。」




 にやけた顔に腹が立つ。

 毒などでは殺さない。

 自身の手で殺す。

 それは決定事項であり、覆ることは無い。

 注がれた葡萄酒を少し口に含む。

 帝国の国教では、

 葡萄酒は救世主の血であると形容される。

 救世主の血を口に含んでも、

 腹違いの弟から伯爵の座を奪い返すまで、

 ロルケナード自身の魂は救われない。

 救世主の血を口に含みながら、

 さらなる流血を求めている自分自身が、

 とても罰当たりな事に思えたが、

 そんな一瞬の感傷は直ぐに消えていった。

 葡萄酒の香りが、

 ロルケナードを擽る。

 気持ちばかりの甘さの後、

 その独特な渋さ。

 自嘲的な笑みが溢れて、

 ロルケナードは窓の遠くを見つめていた。






群像劇ということで

視点を変えてみました。

これからもよろしくお願いします。

あと2万文字やっと到達しました。

頑張ります。

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