Episode:06
「さっきの召喚で、陣が魔力を使い切っての。また使えるようになるまでに、どうしてもそのくらいかかるんじゃ。まぁ諦めてくれ」
あ、やぶ蛇、と思ったけど、僕は何も言わなかった。
父さんからいつも言われたのは、「余計なことは言うな」だ。横から口を出すとロクなことがない、世の中黙っているに限るっていうのが父さんの持論で、僕の見る限り、それはいつも場合正しい。
そんなわけで親孝行な僕は、ちゃんと父さんの言いつけを守った。
そして言われた側のおばさんは。
「ちょっと! 人を勝手に連れてきておいて、『諦めてくれ』ってどういう言い草?! 歳食ってるから何言ってもいいってもんじゃないわよ!」
当然師匠に食ってかかった。
「だいたいね! その歳さえくってりゃ偉いってその発想自体気に入らない! 何がカメのコウより歳のコウよ、幾つになってもダメなものはダメ、あったりまえでしょっ!」
一気にまくし立てて、また師匠がたじたじになる。
「いやだから、その、要は待ってくれと言うわけで……」
「だったらそう言いなさい! そもそもね、そっちが謝る状況なのに『諦めろ』って何なの! 誠意とか謝罪とかそういうものが先でしょうが!」
やっぱり師匠みたいな人には、おばさんが最終兵器になりそうだ。師匠のそばにこのおばさんがいれば、師匠の人でなしな言動が少しは治るんじゃないだろか?
だとしたらそれだけで、僕にとってこの事故は価値がある。
ただ、それを絶対に口にはできない。
ただでさえおばさんはこの事故に腹を立ててるわけで、なのにそんなことを迂闊に言ったら、僕まで一緒に悪者扱いだ。
悪いのは実験を企てた師匠で、僕はただの助手。できたらおばさんを助ける側に回って得点を稼ぐのが、ここは絶対賢いだろう。
「とりあえずライサさん……でしたっけ?」
「イサっ! ライサはやめてって言ったでしょ、もう忘れたの!?」
うっかりミスで僕のほうに矛先が向きかける。
「す、すみませんイサさん。それでですね、えっと、師匠の実験でご迷惑をおかけしたのは謝ります」
そこまで言ってはっとする。何で僕、頭下げてるんだろう? けどさすがにここで撤回はできない。そんなことしたら余計に印象が悪くなる。
ともかくここはガマンガマン、そう自分に言い聞かせた。頭なんて何回下げてもタダだって、父さんも言ってたし。
ちょっとだけモヤモヤしながら、僕は謝り続ける。
「ともかくその、陣がまた使えるようになるまで待ってくれませんか? 僕も師匠を手伝って、少しでも早く帰れるようにしますから」
「それはありがたいけど。でもあたし、その間どうすりゃいいのよ?」
言われて気づいた。確かにその間、おばさんを野ざらしにするわけにはいかない。
というかこのおばさんを野放しにしたら、村が大変なことになりそうだし。
「えっと、えっと、その間は――」
言いかけた僕の言葉を、師匠が勝手に引き継いだ。
「その間はここに居ればいいじゃろ。ワシとしてはあまり気が進まんが、かといって他の家にというのはさすがに……」
「ちょっとっ! 人を勝手に連れてきておいて、まだそういうこと言うわけっ!?」
またおばさんの怒りの声が炸裂。
「気が進まないとか言うなら、実験なんかしなきゃいいでしょ!」
「そ、そう言ってもな。実験せねば理論が証明できんじゃろうが」
「なら失敗しないでよ!」
なかなかおばさん、言うことがムチャクチャだ。でも師匠が困ってるから良しとする。
「失敗するなと言われても、実験には失敗が付き物じゃしなぁ」
「だからって他人に迷惑かけていいってもんじゃないでしょ! というか、迷惑かけといてその態度なんなのっ!」
要はこの辺が、おばさんの怒りの理由なんだろう。
まぁ師匠も、そういう他人のキモチとか迷惑は顧みない人だから、ここは言われて少し凹んどけって感じだ。
内心ニヤニヤしながら、でも顔には絶対出さないように注意しつつやり取りを見守る。けどそのうち、僕は重大なことに気づいた。