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Episode:03

「せ、説明って言われても」

「ちょっと、自分がやってたことさえ説明できないわけ?」

「いえ、だからあの、違う世界へ行く実験を……」

「それはさっき聞いたわよ」


 一刀両断される。


「じゃ、じゃぁ、何を説明すれば」

「それはこっちが聞きたい!」


 埒があかない。平行線だ。しかもまずいことに、僕の方が不利だ。

 何とかしてこの状況を乗り切らないと。そう思って必死に頭を巡らす。


「えっと、えっと……そうだ、ともかく座りませんか?」

 死んだ父さんがよく、怒り出した母さんにそう言ってたのを思い出して試してみる。


「お茶でも、淹れますから。あと甘いもの」

「あらそう?」


 効果てきめん、おばさんがクールダウンした。こうなればこっちのものだ。

 けどそこで、重大なことに気がつく。


 師匠はあのとおり偏屈で、しかも妙にこだわりがあるから、「美味しいお茶とお菓子」なんてものに執心しない。飲むのはいつでも口も鼻も曲がりそうな、なんとか言う薬草茶だけだ。


 僕はそれが嫌で、自分用にお小遣いから、こっそりいいお茶とお菓子を買ってるわけだけど……この屋敷に一般人がまともに口にできるお茶とお茶菓子は、それしかない。


 結局僕は仕方なく、そのとっておきの茶葉を使ってお茶を淹れて、あとで食べようと思っていたお茶菓子を出した。

 なけなしの小遣いから買ったものなのに。


「どうぞ」

 カップからいい匂いがして、なんか悲しい。


「ありがと。で、えっと……」

 おばさんが珍しく途中で言いよどむ。


「どうしたんです?」

「んーえっと、キミ、名前は?」


 そういえばお互い知らないままだ。


「スタニフです。ここで助手してます」

「そうなんだ、偉いわね。私は……」

 その先は上手く聞き取れなかった。


「カワ・ライサ?」

「全然違うわよ!」


 何度か似たようなやり取りをしたけど、やっぱり分からない。


「あーもう、こっちに無い発音なわけ? もういい、テキトーに呼んで」

「じゃぁライサで」

「それはダメ」


 速攻で却下される。


「ダメって、なんでもいいって言ったじゃないですか……っていうか、いい呼び名だと思うんですけど」

「冗談じゃないわよ、そんな気取った名前」


 やっぱり僕に決定権ないじゃないか。そんなことを思いながらも、恐る恐る訊いてみた。


「じゃぁ、どうしましょう?」

「イサでいいわ。発音できないみたいだから」


 結局おばさんの一存で決まる。テキトーに呼んでなんて大嘘だ。けどそれを顔に出せない自分が悲しい。

 おばさんが美味しそうにお茶をすすった。


「いい香りねー」

「あ、はい。これこの辺で取れるんですけど、けっこう有名なんです」


 この村で取れる茶葉は、香りがいいので有名だ。そのおかげでこの村は、他所よりはずっといい暮らしをしてる。

 ただおばさんにはそんな上等なお茶も、大して効果はなかったみたいだ。


「で、何がどうなってるわけ?」

 話がまた元に戻る。僕の小遣いが泡と消えた瞬間だった。


 何のために大事なおやつを差し出したんだろう? そんな思いに駆られながら、質問に答える。

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