Episode:13
「さー始めましょ」
「さっさとやらないと、日が暮れちまうしね」
――神様なんか大嫌いだ。
食糧難から解放されたかっただけなのに、僕に代わりにこんな試練を与えるなんて。
師匠が起きたら、なんて言い訳しよう。きっとすごく怒るに違いない。憂鬱すぎる。
そうやってため息をつく僕に、容赦なく声が飛んだ。
「ほら、これ持って!」
「は、はい……」
おばさんたちの迫力がすごすぎて、逆らえない。
父さんの言うとおりだ。
女の人が思い込んだら、自分で止めるまで放っておくしかないんだって言ってた。
そしてその間は、なるべく言うことを聞くようにしないと自分に矛先が向いて、もっと大変なことになるとも。
父さんの言ってたことは、いつだって正しい。間違ってたことがない。
けどそのとおりにしてると、なんだか悲しくなってくるのも事実だ。
情けなさ満載のまま、僕は片づけを手伝い始めた。
部屋の中、あちらこちらに置いてあったものが食堂に運び出されて、テーブルの上に積まれていく。
「キミ、これとっとと分類して! 魔法なんてあたしわかんないんだから。じゃないと、テキトーに片づけちゃうわよ」
「そ、それはやめてください!」
そんなことをされたら、大事な資料まで行方不明だ。
中には王様だってそう簡単にお目にかかれないような、古い時代の魔導師が書いたものだってあるのに。
僕は慌てて、分類作業に取り掛かった。
たくさんの魔道書、有名な歴史書、兵法書、魔法の道具、触媒、あとは日記にメモにゴミに……なぜか裸の女の人の写し絵まで出てくる。
「やっぱり若いわねー」
「ちちち違います、師匠のです!」
「嘘言わなくていいわよ。男の子はそうじゃなくちゃ」
抗議したけど取り合ってくれない。おばさんなんてもうイヤだ。
けど家の中を掌握する魔人が二人もいるというのは、想像以上にものすごいことだった。
あの手がつけられなかった部屋が、どんどん片付いてく。
「布団は軽いから、あたし干してくる。あと、シーツを洗い場に持ってけばいい?」
「頼むよ。その間にあたしゃ、ここらの床、掃除しちまうから」
気付けば昼になる前に、客間はあらかた掃除が終わってた。
あとは出して分類したものを、棚に戻すだけ。それを指示されるとおりに――なんで僕、言うこときいてるんだろう――入れていく。
「うん、思ったとおり」
おばさんがにこにこしながら、ひとりでうなずいた。
思ったとおりって言うのは、物の収まり方だろう。僕もびっくりだけど、あれほどあふれ出してたはずのものが、ぜんぶ棚に入りきってしまったのだ。
「何の魔法ですか……」
「別に魔法じゃないわよ。分けて、要らないもの捨てて、ちゃんと揃えてしまえばこうなるの。最初に部屋見てわかんなかったの?」
「わかりませんよ……」
わかってたら、僕だってやってる。
というか、見ただけで物の量としまえる量が分かるなんて、このおばさんの頭の中、どうなってるんだろう?
「あーよかった、ズデンカ、ほんとにありがと。これで今晩はゆっくり寝れるわー」
「なーに、あたしも前から、この家は掃除したくてね。すっきりしたよ。さて、お茶にでもするかい?」
おばさん二人が、今度は我が物顔で台所を占拠して、お茶を淹れ始める。
「ここの台所もヒドいねぇ」
「そのうちやったほうがいいかもね」
おばさんには絶対逆らっちゃいけない。僕はそう心に深く刻んだ。