ぼうけんのしょ その1の6
ぼうけんのしょ その1の6 携帯食事情
赤、青、黄色の携帯食。赤はゴチ、青はリベ、黄色はトテポ。それぞれ味付けが異なりそれなりにおいしい。パンよりは長持ちし、焼き菓子のように固めているため食感もまずまず。村にいた際に持たされていた携帯食のポテ餅よりも好きになれた。こんなおいしいものが携帯食でいいのか、いや、よくない。常備食にするべきだ。そう私は考えている。
「いや、駄目ですよ。いいですか、シターさん。携帯食は腹持ちや栄養はそれなりですけどそれだけじゃいろいろ足りないというのは、お偉い学者の先生方がきっちり論文にもしているくらいなんですよ。ただでさえまだ成長期もむかえていないのに、食生活が乱れたら大きくなれないかもしれないじゃないですか」
「カカスさん。しょくじがじゅうようなのは、わたしもわかってます。ですけど、すきなものだけたべていたいというこどもごころもわかってください」
「駄目です。ただでさえ、親御さんからくれぐれもよろしくと預かったお嬢さんなのに好き嫌いだけで食事メニューを偏らせて病気になんてさせたら、親御さん方に顔向けできないじゃないですか。今日からここで食べる分にはこちらで仕切らせてもらいますからね」
なんということでしょう、これだから大人や奴隷商というのは嫌いなのだ。せっかく独り立ちのために奴隷として街にきて技能を磨いているというのに、その努力さえみずにこちらの意志の確認もせず、健康管理だの体調確認だのまったくもって善意の押し売りもいいところだ。健康なんかより一日一日楽しんで暮らしたいのである。まったく、この子供心を分かってほしいものである。
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「なんてことがあったんです。まったくもってはらだたしい、そうはおもいませんかタナさん」
「いや、今回はカカスの旦那が正しいんじゃないかな。その年から好き嫌いで食事を摂っていると成長もできないし、あまり同じものばかり食べるのも良くないよ」
「タナさんまでそんなことをいうんですか」
ぷうっと頬を膨らませて怒って見せる。まったく大人というのは誰も彼も子供に対して過保護というか、お節介というかまったくもってまったくもうなのである。
「そうだ、それなら次の迷宮探索は携帯食じゃなくお弁当でも持っていこうか」
「なにが、『それなら』ですか。わたしはけいたいしょくがいいといってるんです」
いいことを思い付いたとばかりのタナさんの提案にさらに怒り心頭とばかりに、ぽかすかと殴りかかりわーわーと騒がしくする。そんな私たちの様子を見て、さあ遊びの時間かとトゥラとポティが走りまわりタナさんが笑いだす。
まったくもって、大人というのは子供心が分からない分からず屋ばかりで困ってしまう。けれど、その大人達全員自分のことを真剣に考えてものを言っていることがわかっているので嫌いにもなれない私なのである。
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携帯食が反対された翌日の冒険の日。数回の幼獣との遭遇を手早くモフモフナデナデして退治し、釣りができる場所にきて、午前の内に十数匹の魚を釣り上げ、やはり将来は釣り師として名を馳せるべきかと想いを馳せたりしていたら、気付けばすでにお昼時。
「さて、タナさん。おべんとうとやらをだしてください」
実は、すごく期待している私がいる。知り合いの手作り弁当というのは初めてなのでどういった物が出てくるのか興味半分恐れ半分ではあるが、こういうのが都会っ子の友達イベント何だとわくわくである。
「ああ、うん。その、あまり期待してくれるなよ。私自身料理は得意とは言えないからな」
そんな謙遜しつつ頬を赤くしながら大きな籠を出してくる。その大きさ私よりも大きいんじゃないか?とも思える籠だ。
「え、なんですか? なんでそんなにおおきいんですか?」
「うん、いや、その、なんていうか、な? 私も初めて(・・・)の手料理ということでその気合いが入りすぎてな。ついつい作りすぎてしまってな」
「それでぜんぶいれてきたと?」
「ああ」
なんということでしょう、タナさんの方が変に気合いを入れすぎている気がする。そして、初めて(・・・)というのが不安を掻き立てる。
村の村長さんの書斎にあった本の中には、ヒロインによる毒殺料理や暗黒物質生成なんて“おふぁんたじー”な物語もあった。私はもしかしたら今日が命日になるかもしれません、と黄昏てしまいそうな自身を奮い立たせるので精イッパイであった。
「うう、たべれるんですか?」
「当たり前だろう、食べれないものを持ってくるほど鬼じゃない。まあ、君の好物ほどおいしいかと聞かれたら困るが」
なんていいながら籠をあけ、中の料理を取り出し私たちの前に並べていく。意外にも並べられる料理は、家庭料理やサンドイッチといったお手軽料理ばかりである。毒殺料理や暗黒物質なんてものはなさそうだ。
「あれ、いがいとおいしそう」
「人に作る料理は見た目も大事と女将がいってたからな。そこらへんにも気をつけて教えてもらった」
「ふぇ、おしえてもらったんですか?」
「ん? ああ、初めてのことはたいてい人から教えてもらいながら行う様にしてるから。何でもかんでも素人だけで手を出したら痛い目をみるから」
「なるほど」
さすがは上位冒険者。さりげなく危険なところは避けて生きている。こういったところがタナさんの強さの一つなのかもしれない。なんて思いながら、料理をいただき始める。
最初はサンドイッチ。おそらく市販の白パンにハムとトテポの身をつぶしたものを挟んでいるだろうそれ。いつもより大きめに口をあけ一口目をパクリといただく。
口の中に広がるトテポの香り、潰しただけでなく塩をふって味付けているらしく口の中でパンとよくなじむ。うん、普通においしい。
「おいしいです。てがかかりすぎていないのがいいですね」
「そうなのか? 手が込んでいる物の方が好みかとおもっていたが」
「ん、おみせでたべるものはいつもとちがうものがいいですけど、しりあいにまでそんなこともとめてませんし、ばあいによってはきをつかうことになってしまいます」
そう、気楽に付き合っていく仲を目指しているのに堅苦しい料理を求めたりなんて、せっかくの関係をぎすぎすしたものにかえる悪手でしかないでしょうが。
「わたしのおかあさんもりょうりがとくいなほうではなかったので、こういったりょうりのほうがほっとしますね」
「ん、褒められるとこそばゆいね。こういったお弁当もたまにはいいかもしれないな」
「そうですね、たまにならいいです」
ふふ、と笑うタナさんの隣で赤くなった顔を見られないようにしながらのお昼時はゆっくりと過ぎていくのでした。
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